プロローグ
屋上の扉を開くと、あいにくの雨だった。
灰色な気分を愚痴でも言い合って気を晴らそうとしていた僕ら三人の心持ちはさらに灰色になった。
軽くため息をついて、それから踵を返して階段を降りようとすると、稲城が僕の肩をつかんで言った。
「なあ、あそこに誰かいないか?」
そんな馬鹿なと思ったけれど、口には出さず稲城の指さす方に視線を向ける。そしてぎょっとした。雨で視界が悪く、かなりおぼろげではあるが、そこには間違いなく人が立っている。
「ね、ねえ。まさか、飛び降りるとかじゃないよね」
永山がその大きな身体をこわばらせ、僕に聞いた。お、おうと答えたけれど確証は持てなかった。
「とりあえず、何をしてるのか聞いてみようぜ」
稲城は冷静な口調でそう言って歩みを進める。しかし、その顔には冷や汗が滲んでいた。僕と永山も稲城に続いて屋上に出ようと一歩踏み出したとき、突如人影が動きを見せた。
すぐさま稲城が駆け出した。僕らも後に続く。近づくにつれて、だんだんと僕の瞳が屋上の柵の前に立つ人を鮮明に捉え始める。セーラー服に身を包む女子生徒。黒い髪は肩口まであり、顔はちょうどその髪に隠れここからでは見えない。その女子生徒は両手を口の前まで運ぶと
「ダンスのバカヤローーーー」
雨の音をかき消すくらいの音量で叫んだ。僕は驚いて足を止めた。足下の水たまりがパシャッと音を立てる。その音に気づいた女子生徒がこちらを向き、目が合った。その顔には見覚えがあって、とても意外な人物で僕は呆気にとられる。向こうも心底驚いていることだろう。
ただ、僕はこのとき驚きとは別に親近感も感じた。彼女の叫んだ言葉が僕らと同じ側に人間であることを表していたからだ。そしてこれが、僕たちの戦いの序章となった。