けんか
面接官A:うーん、言葉ではそう言うけど、熱意というか、そういうものが感じられないかな。もっと素を出してみて。
マナ:は、はぁ…
うん、一発で決まんないよね。
面接官B:取り繕わなくていいよ、素直な君が見たい。
マナ:す、素直…ですか…。
うん、次。
面接官C:面接官はなんでもわかっちゃうから。形式ばった答えじゃなくて、素直に喋っていいのよ。
マナ:えと…えと…
結果、全滅。
また、やけ酒。
マナ:素直素直素直素直…!!素直って何!?私はこういう人間!これが素!…ずっとずっと怒られないように、迷惑かけないように取り繕って生きてきたし、常に正しい答えを探してきた!今更どう直せっていうの……。誰か…教えてよ…。
机に突っ伏す。
ぼん:…どっぼ。
マナ:…何。
机の上にいるぼんが、イカソーメンをこちらへ差し出している。
いつもはやらんけど、今日だけ特別だ、と言わんばかりに。
マナ:…いらんわ。
ぼん:…!んむっ!
怒った。
イカソーメンを、床にべちんッと叩きつける。
マナ:…ぼんに私の気持ちなんか、わかんないよ。ほっといて。
ぼん:…んきゅきゅ。
顔をぐりぐりと私の頬に押し付けてくる。
マナ:…んんぅんうっざい!!!なんなの!!
目が合う。
ぼんは怒っている。
ぼん:きゅ!
マナ:は?
ぼん:どっぼ!ぼん、んーん。
首振ってるっぽい。首ないから、よくわからん。
ぼん:ぼん!どっぼ、んーん!
また振ってる。首ないのに。
マナ:…ぼんは私のことわかんないけど、私もぼんのことわかんないって?
ぼん:ん!
––そっか。そうだよね。ぼんだって、もしかしたら私に出会うまでは苦労してたのかも。なんせ得体の知れない奴だし。
マナ:…得体の知れない奴が、お手本のことばっか言ってもやっても、なんも伝わんないか。
ぼんを撫でる。
マナ:…ごめんね、ぼん。もうちょい頑張ってみる。
ぼん:んっきゅ!
マナ:…素直な私って、なんだろね。
ぼん:んきゅう。
ぼんがビール缶を見つめる。
マナ:酒飲みの私が素だって?おい。
ぼん:ぼんっ。
ぺしっとぼんを叩いたら、ぽよんと跳ねた。