出会い
上司:アンタ、ほんと素直じゃないわ。人のことナメてんでしょ。どうせ、どこ行っても同じよ。
上司に言われた言葉。
彼氏:ごめん。マナといると、息苦しいっていうか…気を遣っちゃう。
彼氏に言われた言葉。
今日、言われた言葉達である。
マナ:……はぁ…。
上を向きながら、ため息をつく。
吐く息が、白い。
現在、金曜日の午後8時。
仕事を辞め、
彼氏にフラれた帰り道。
世の中、華金。
しかも、今日はクリスマスイブ。
みんな、ニコニコ。
あっちもこっちも、ピカピカ、キラキラ。
あぁ。世界中で、今、1番惨めな気がする。
コートのポケットから手を出し、
はぁ、と息を吹きかける。
…寒いなぁ。
上を向きながら、手で顔を覆う。
上を向いていれば、涙が溢れないって聞いていたのに。
溢れるじゃん。
––ガチャ。
マナ:…ただいまんしょん132階建てぇ。
誰も待っていない真っ暗な部屋に向かって、訳の分からないただいまを言う。
マナ:…フッ。
訳が分からなさすぎて、思わず笑う。
コートをハンガーにかけ、風呂へ向かう。
服を脱ぎ、シャワーを出し、お湯になるのを待つ。
––お湯になったかな。
シャワーを浴び始める。
マナ:…ア゛ッ!…ぐぅぅぅ。
突然冷たい水になり、バッとシャワーを離す。
今は、何をやっても惨めに思えてしまう。
5分程、頭からお湯をかぶり続けた。
シャワーを浴び終え、タオルで髪をガシガシと乾かしながら、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
––プシッ。
ビールの蓋を開ける音は、いつ聞いても心地良いものよ。
一気に3分の2を飲み干す。
涙が出るのを、炭酸がキツいせいにする。
マナ:はぁ…
床に仰向けで寝転がる。
ふと、壁にかけたコートに目がいく。
マナ:……?
––モゾッ。
マナ:…ん?
––モゾゾッ。
コートのポケットに…何か入ってる…?
恐る恐る、コートに近づく。
––モゾモゾモゾ…
ゆっくり、ポケットの中を覗き込もうとする。
––バッ。
白い物体がポケットからひょこっと出てきた。
マナ:ぎゃあああああ!!!!!
ネズミだと思い、コートをぶん投げる。
コートが床に落ちる。
ネズミはまだポケットで蠢いている。
そして、辺りをキョロキョロと見ながら、ポケットからゆっくり出てきた。
––なんだ、こいつは…。
仕草はネズミやハムスターに似ている。
しかし、耳や尻尾、手足がない。
毛が長く、ふわふわとしている。
全身真っ白。雪のようだ。
クリクリでうるうるの目が2つ。
口は…ωな形。
なんとなく、アザラシの赤ちゃんに似てる。
マナ:な、なにもの…?
謎の生物:…んきゅ。
マナ:鳴き声かわいいな、おい。
謎の生物:んっきゅ!
マナ:どこからきたの?迷子?
謎の生物:んー…きゅ!
マナ:んー!わからん!
とりあえず、スマホで「白い」「ふわふわ」「謎」で検索してみる。
マナ:…ケサランパサラン?
確かに、見えなくもない。
説明文には、「幸運を運ぶ」と書いてある。
マナ:うわぁ…神様も私を憐れんでるのかな…
謎の生物:んっきゅ!
マナ:…返事したの?そうだよ!って?
謎の生物:ぷきゅ。
マナ:…はぁ。ごめんね、私、今やさぐれてるから。窓開けとくから、好きに出ていきな。
窓を開ける。
寒い空気が、一気に部屋を包み込む。
マナ:…さむさむさむっ。
おつまみのイカソーメンを開けたばかりだが寒さに耐えきれず、ビールを一気に飲み干し急いで歯を磨いてベッドに潜り込む。
謎の生物:…んきゅ。
白いふわふわが、顔の前に現れた。
マナ:…君のおかげで、少し気が紛れたよ。ありがとね。
ふわふわを撫でる。
触り心地は、毛の長いハムスターのようだ。
平らになるし、ちょっと伸びる。
謎の生物:ぷきゅきゅ…
ちょっと気持ち良さそう。
マナ:…窓はあっちだよ。私は寝るから、好きに出ていきな〜。
そして、ふわふわを見届けることなく、そのまま寝落ちしてしまった。