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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第一章
8/108

熊曽の油断を突き、倭台軍が逆襲して王宮を占拠

「カカミは、もう我が軍が倭都に寝返ったことを知っただろう。槍、斧、弓の二人ずつ六人が一組になり、石段は三人ずつで上がれ。敵は繁みや岩陰からも、正面からも襲ってくるぞ。盾は身の横に立てておけ。」


十三

 重々しい緊張と警戒の中、石段を上がる隊列の先頭が折れ角に来た時、うず高い屑石の裏から多数の白い大石が、隊列の中ほどを狙って飛んで来た。

 兵は我先に石を避けようとするが、入り乱れて避けられない。


 そこへ屑石の裏に潜んでいた兵の矢が、続いて左の繁みと右の岩陰に潜んでいた兵の、槍と斧による至近距離の攻撃を受けた。

 三方からの攻撃で石段の九十人が、手もなく呻き声を上げ、血にまみれて石段に沈む。

 まさに一方的で、あっという間に決着をつけられた。熊曽の兵は素早く引いて、身を隠した。


「うーー。」


 後方で指揮を執っていたハル・サイマ帝の目が血走り、口はワナワナと震えて声にならない。一瞬のうちに大切な九十人の兵を失った無念は測りがたい。

 

 石段は累々(るいるい)と横たわる死体と、敵の放った石や矢、味方の槍や剣が乱雑に重なり合い、段は多量の血が流れ落ちている。

 怒りに任せて攻撃しようものなら、第二の矢や石が待っているだろう。


「ここからは上がれぬ、ひとまず後退せよ。上り口は他にもある。誰かそっと見て参れ。」


 五年前の王宮建造は大工事だった。我が市からも人手を出して連日連夜、数百人規模の職人や人夫、荷役が行き来したので、その道は何本も作られた。工事後に埋めても、何らかの形跡は残っているはず。


 トウ・リン将軍は、今も食料や荷物運搬に使っている緩やかな坂道と、少し勾配はあるが埋めた道二本を見つけて戻った。

 将軍は帝の耳元で囁き、誰にも気付かれないよう三丈ほど南の木立を指さした。


「水や食べ物の運搬は続いております。埋めていなければ、あそこが使っている道の上がり口です。」


 傾いた日は西の雲間から覗き、あと二時ほどで沈む。倭都も兎農も、総攻撃態勢に入っている頃だ、伝助を送る余裕はない。急がねば。


「トウ・リン、よく見つけた。だが埋めた二本の道を上がろう。三人ずつ固まり、敵に気付かれないよう身を伏せて音を立てず、慎重に進め。」


 見つかれば矢と石が飛んでくる。槍や剣の襲撃もある。後方援護のない決死の作戦だが、やらねば……。トウ・リン将軍を先頭にして、武具の音も足音も立てないよう、石と泥で埋めた坂道を這う。


 熊曽兵には、過去に埋めてしまった道は念頭になく、次は物資の運搬に使っている道を来ると、両側に潜んでいた。だが、いつまで経っても混台軍が現れない。


「混台の裏切者は退いたようだな。こちらの強さを思い知って、観念したのだろうよ。」


 坂で潜んでいた兵に、王宮から引き上げの報が入った。やはり混台軍は退散したと、兵たちは大手を振り、運搬道に出て王宮に向かう。

 王宮裏門から三丈離れた横塀に勝手門がある。その前に、多数の荷ぞりや大小の籠と壺、桶などの物資運搬具が並んだ、広い荷分け作業場がある。


 熊曽兵が勝手門の前に戻った時、物資運搬具の陰から無数の矢が飛んできた。こっそり上がった倭台兵の、至近距離からの狙い射ちだ。


 逃げる兵には剣と槍を振りかざして追いかけ、鬼の形相で斬りまくる。ほどなく熊曽兵五十人が一人残らず荷分け作業場の藻屑となった。

 

 勝手門の騒ぎに気付いて、駆け上がった兵にも槍と剣が猛襲、石段で殺された盟友の仇とばかりに激しく突き、斬る。荷分け作業場に血飛沫が乱れ飛んで熊曽兵は全滅した。


十四

 作業場が片付くと、今度は荷ぞりを使って勝手口の破壊を始めた。

トウ・リンを先頭にした倭台兵二百人が、王宮の裏庭と思える広場になだれ込むと、東の崖を上がった兎農軍と熊曽兵の、戦闘の真っただ中だった。


「やあやあ、間に合ったぞ。総勢かかれー。」


 熊曽の精鋭隊は剣や槍使いに長け、兎農兵が次々と倒されている。さらに王宮の上階から矢が襲い、裏庭の奥にある繁みからも五十人ほどの兵が飛び出し、ますます劣勢になる。

 柵の外から兎農の弓隊が援護するものの、劣勢は否めない。


「シイラ副将、倭台の二百人が到着致した。遅れて済まなかった。」


 倭台兵を加えた白い群れが、およそ半数の黒い群れを追って広場で渦を巻く。

 槍や剣の交わる高い金属音が、あちこちで弾けて響き、血にまみれて転がる負傷者も数えきれない。そこかしこに転がる死体は、白と黒の武装が半々か。


 数で圧倒的になった倭都軍を見て、兎農の弓隊が上階に狙いを定める。いよいよ僅かになった熊曽兵が王宮に逃げ込んだ。遂に裏庭は兎農軍と倭台軍が占拠した。


「トウ・リン将軍、危ないところに来ていただき助かりました。接近戦になると、熊曽の技量が凄まじく、正直どうなるかと案じておりましたので。」


「間に合ってよかった。当軍は西から攻め上がる途中、待ち構えていた奴らの襲撃に遭い、多くの犠牲が出た。セラム大将と我が軍の帝が、ご対面できれば何よりです。大将はどこにおわす。」

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