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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第三章
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カカミ対応は暗礁に、恵枇は予想以上の倭都情報を

 だが天皇の表情は曇っていた。嘘の流言話が、どこまでカカミに通用するか。

 それ以上に同盟豪族や兵の協力とはいえ、倭都政権への良からぬ感情、反旗の兆しを流言させて誤解を招き、培った信頼関係に傷を付けかねないことも。


「面白いが、気掛かりでもある。倭都に漂う不穏な空気を耳にして、それを信じた関わりの薄い豪族や民が、決起などを起こすと面倒な事になる。実行するにしても、協力者選びも内容も慎重であるべきだ。」


「確かに、仰せの通りです。操作した不穏な空気が事実にならぬとも限らず、また景行様にあらぬ疑いを持つ者が出てはなりません。拙者の方策は撤回いたします。」


 ヒサラの方策撤回で会合は終わった。急ぐべきは、今も何処かに潜んでいる伝助を見つけて捕らえ、尋問することだと話し合い、民の着物姿をした兵が四方八方へ走った。


 西国・恵枇山の砦に、伝助二人が予定より十日早く戻った。恵枇タケル、キル・タオ副帥のほか、十人の従臣が報告を聞いた。


「倭都の偵察から急ぎ戻りました。第一のご下命、マキム王嫡子の行方知れずは事実でした。一年が経っても見つからないので殺されたと判断し、連れ去った賊が不明なまま捜索は諦めておりました。この次は第二皇子が狙われないかと、纏向の民は不安に思っております。」


 纏向の状況を報告した後、反旗を上げそうな豪族の偵察も進んでいると付け加えた。


「そして第二のご下命、周辺でマキム王に反感や政権に否定的な豪族は、別の二組が北と東に分かれて探っており、十日後には戻る手筈です。」


 伝助の報告を何度もうなずきながら、黙って聞き終えた国主。想像どおりだったと、口元に笑みを浮かべながら、伝助には褒美を取らせて帰した。


「好機は待つものでない。自ら作るものだと、童子の頃から親に教わってきたが、何と敵から好機が歩いてきたぞ。恵枇の神が運を授けてくれたか、考えていたより上手くいきそうだ。マキム王に反旗を上げる豪族の知らせが入れば、同盟を結ぶ外交隊を差し向け、倭南を取り返す準備にも掛かろう。」


 それから十日経って、纏向から北方面の反感豪族を探っていた、嗅助と伝助が戻った。港を発った時より立派な身成りになっていたので、国主は朗報が入ると心の中で小躍りした。


「ただいま倭都の偵察から戻りました。某は纏向から北の方面でマキム王や倭都政権を良く思っていない豪族を探し、首長に会って話を聞きました。まず穂積ほつみ豪族は、友好関係の那張なばり木須きずを潰されて恨みを抱いており、同盟に乗り気でした。農耕が盛んで兵は五百、山の竹林を生かして弓矢、槍の柄作りが産業です。」


「良い相手を見つけたな、手柄だ。他にも見付けたか。」


「はい。穂積は東寄りですが次は北で、大きな湖の東側に皮卦かわげと言う山があり、そこに棲む山賊が話に乗ってきました。政権に興味はないのですが、近辺の山麓や湖の西岸では入り目が足らず、恵枇王に力を貸して食や財が潤えば、それで良いそうです。」


 嗅助は国主の笑顔を見て得意になり、さらに喜ばれそうな話を続ける。


「首長は獰猛な印象でしたが、気が通じれば仲間として使えそうでした。総勢で百ほどですが、山中を駆ける騎馬術に長けております。」


 国主は敢えて渋い顔をしているが、口角は上がっている。これは掘り出し物だと心の中で喜んでいるのだ。

 荒くれ物の手馴付けは得意だ。このような山賊は、食糧と軍備をたっぷり与えれば従順になり、裏切りはない。騎馬兵は攻撃にも守りにも役立つので、百を三百にすれば強力になる。


「物資に窮している小さな山賊は、食糧と武器を与えれば付いてくる。機動力のある騎馬隊として使えそうだな。他には。」


「湖の西岸に魚の干物で栄える、宇佐うさ豪族がおりました。高い比叡ひえい山の麓にあって、酒造りや木材も盛んで、集落や村は賑わっておりました。纏向との交易も反感もなく、この里が平和であればいいと、侵攻の協力には消極的でした。兵力よりも物資の補給に役立ちそうです。」


 伝助の身成りが立派になっていたのは、長旅で傷み汚れていた着物を見て、宇佐の首長が呉れたのだった。この調子だと味方になる豪族や山賊は、まだまだ探せばあるものだとタケルは確信した。


「よく調べたな、ご苦労であった。まだ別組の二人は戻らないが、連絡を取り合っていないのか。」


「纏向の偵察組ですか、それとも東方面に行った組でしょうか。」


 纏向の組は戻ったが、東方面の組が帰らないと言うと、あと十日待って戻らなければ、病で倒れたか捕らえられて殺されたのではと、伝助は首を傾げながら不安げに言った。この二人にも褒美を取らせ、帰した。


「これ以上は待てぬ、先に倭南を攻める。夜のうちに、気付かれないよう取り囲んでおき、日が昇ると同時に一気に潰せ。」


 想定以上の情報を得た国主は、とても気分を良くした。纏向に反感を持つ豪族は、まだまだ増えると感じ、手始めに倭南を潰そうと気が逸っている。

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