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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第二章
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コウスはアマミに恋し、長閑な川内平野に癒される

第三章

 高い山の冠雪が消え、冷たい風が和らいできた。川内の草原に緑の若芽が増え、春は近いと謳っている。この日もコウスは大田集落まで早駆けし、アマミと落ち合った。


 アマミがクララに乗ってみたいと言うので、鞍に乗せて自分はその後ろに跨った。従臣に半時ばかり散歩すると言い残し、警護兵も街道沿いの休憩処に待たせて、穏知おち川沿いに南に向かった。

 半里ほど進むと珠石しゅし川が合流し、群を成す木々に数え切れない鳥が見え隠れしている。


「どうだ、クララの乗り心地は。」


「見た目より高くて最初は怖かったけど、今は揺れに慣れて楽しいです。コウス様は、いつも井來いくる山の向こうから来られていますが、纏向の兵士さんですか。身成りがご立派で、お供の方が四人もいて、きっとお偉い方のご子息様でしょうね。」


 アマミはコウスの正体に興味を示す。嬉しいが詳しいことは言えないので、答えに苦労する。


「纏向は山に囲まれた平地で集落や村が沢山あって、川内のような広々として、閑かな所がない。だから朝の武術鍛錬が終わると、川内へ早駆けして来るのだ。あの木立の下でひと休みしよう。」

 

 下馬した二人は、大きな木の根元で腰を下ろし、並んで座る。持ってきた柿と栗を潰して練り、焼いた菓子を差し出すと、アマミは眼を輝かして食べた。


「おいしい。初めて食べました。」


「出掛ける時に便利な食べ物だ。米を丸めた物は大田にあると思って、焼いた物を持って来た。」


 嬉しそうに食べているアマミを横目で見ながら、もっと喜ばせるものはないかと策を考えるコウス。

 閑かなひと時を楽しんでいると、川内湖が迫り出して松並木がある湖南こなん村付近で、何やら騒ぎが起こっているようだ。


 立ち上がって目を凝らすが、よく判らない。アマミも立ち上がり、湖南村から西方面を指さし、険しい顔で騒ぎの状況を話し始める。


「あそこには大きな米倉が二棟と、野菜や果物、魚を保管する倉が三棟あります。収穫期になると何処かから悪い集団が来て、倉の食べ物を奪い去るのです。村長のラエム様が、監視のために兵士を集め、柵を高くしていますが、悪い集団はだんだん強くなって困っていると聞きます。」


「その悪い集団が来て、戦っておる騒ぎか。」


「いえ、まだのようです。知らせを受けた監視の兵士が、近くの人たちを非難させる騒ぎのようです。」


「よし、すぐ行って悪い集団から、倉の食べ物を護ろう。さあ馬に乗って。」


 コウスは街道沿いの休憩処へ戻り、従臣と警護兵に湖南村に来た盗賊を成敗すると告げ、アマミを馬から下ろして西へ駆けた。従臣と警護兵も追随する。


 湖南村では村長ラエムが、工事中の難波津から引き返していた。米倉の柵前で武器を手に、兜や盾で防備した監視兵二十人が、襲撃に備えた。他の倉にも兵十人ほどが付いている。


 ほどなく黒い陣笠を被り、剣や槍を振りかざした騎馬の盗賊十五人が、五頭の空馬を引き連れてラエムが張っている米倉を襲って来た。


「そこをどけ。抵抗すると皆殺しだぞ。大人しく米と野菜を出せ。」


「ひるむな。盾で槍と剣をかわして、馬の足を狙え。馬から落とすのだ。」


 見た目の凄さと、長い槍に怯える監視兵を、ラエムが叱咤し檄を飛ばす。そこへコウスと兵四人が騎馬で駆け付けた。

 ラエムは東側からも盗賊が来て、挟み撃ちになったと思い、監視兵五人をコウス側へ割いた。


「ご安心召され、吾等は纏向の兵である。其方たちに加勢いたす。」


 柵前の隊長らしき男に声を掛け、コウスは背の剣を抜きながら、盗賊の騎馬団に正面から挑んだ。愛馬クララは騎上の主を信頼し、果敢に敵の馬々を割って突入。それを従臣と警護兵が横面から援護する。

 背中に大きな斧を背負って腰に剣を差し、長い槍を持った頭領らしい髭の男が、女人のような風貌の童子が白馬に乗り、剣で挑んで来たのを見て冷笑う。


「おいおい、命知らずの童子が挑んで来たぞ。可哀そうだが命は貰っておこう。」


 騎馬団の中でコウスの剣が目まぐるしく回転し、日を反射して幾筋もの光の線を描く。それは、あたかも竜神の舞を思わせる速さと凄みがあった。瞬く間に四人が悲鳴や呻き声を上げて、馬から落ちた。

 従臣と警護兵も槍で突きまくり、数人を馬から落とす。さらにコウスは取り囲んだ盗賊三人を、ふた振りで血飛沫と共に地に落とした。


「何だ、あ奴は。人間か神か。」


 あっという間に十五人が四人になった盗賊は、他の倉の仲間に合図して馬首を返し、声も出さずに敗走した。ラエムと監視兵は、コウスの戦いぶりに呆気にとられ、ただ立って見ているだけだった。

 

「有難うございました。お陰様で米や野菜は盗られず、手前どもも無傷で助かりました。それにしても纏向の方がなぜ、この近くに来られていたのでしょう。大切なご用件がお有りなのでは。」


 年配の警護兵にラエムが走り寄ったので、あの童子が大将だと指さした。ラエムは不思議そうな顔をしてコウスに歩み寄り、丁重に頭を下げた。

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