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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第二章
15/108

天皇の凱旋を祝う宴に、豪族や周隣の首長が集結 二

 よく均し、固められた街道は、半里先にある宮廷へまっすぐ伸びている。

 その両側に集落や村の人々が途切れなく正門前まで並び、手を振ったり拝んだり、手作りの白い旗を掲げたりして、賑やかに隊列を迎える。


 凱旋隊が神社を出たとの報が入った。

 宮廷の中庭では由埜、高尾、磐紀をはじめとする近隣豪族の首長と代表が、鷹居、阿藤、川皺、湖南、坂居など周隣から駆け付けた集落の首長が左右に分かれて整列し、その最前列で纏向兵が迎える。


 本殿の謁見の縁では、イナビヒメと息子が中央に、右に政治、民政の役人、左に軍事の役人と勇輪神社の住職が並んで座り待つ。


 先頭の天皇は街道の人々に笑顔で応えながら、民は心から迎えているのか、心に引っ掛かっている。

 歓迎こそしている民の家族に、西国で犠牲になった者、病や怪我で帰還できなかった者がいるからだ。両横のヒサラとイ・リサネに、重くのしかかる心中を語った。


「皆が夫や息子が無事に帰ってきたと思っておる。戻れなかった家族の心境を考えると、どうにも辛い。」


 エノカは景行天皇の心中を受け止め、街道の民に聞こえないよう、悟られないように、沈んだ小声で政務官としての考えを伝えた。


「相手が難敵の熊曽ですから、犠牲は致し方ありません。戦いに行く全ての者が、覚悟はできていたと思います。送り出した家族も同じだったでしょう。よく戦ってくれたと感謝し、持ち帰った遺品を渡して慰める手筈をいたします。」


 イ・リサネは、エノカと医官のサイマから受け取った犠牲者の遺品を、神社で明け方まで整理していた。だがまだ整理は途中なので竹籠に納め、部下に宮廷への移送を命じている。


 天皇を挟んで右にエノカ、左にイ・リサネが先頭騎馬で、纏向宮廷の正門前に到着した。


 太い六本柱の正門の扉が、六人の門番によって両側にゆっくり開くと、三丁先に鎮座する本殿が、翼を広げる鳥のように左右に伸びながら見える。


 本殿まで敷かれた長い石畳の左右には、纏向兵を先導として近隣豪族が正装で整列していた。

 騎馬隊が正門をくぐる。

 中庭は歓声で沸き、列が石畳近くまで押し出されて乱れる。纏向兵が懸命に戻そうとするが、多勢に無勢でままならない。


 後続の歩兵も、下がるよう促しながら進むので、後方は大変な騒ぎになっている。騎馬隊が謁見の縁前で馬を下り、十二頭は馬舎へ引かれた。


 謁見の縁では、美しい女人五十人を背方に立たせ、中央にイナビヒメとオウス、コウス、チヒコが、右に政治、民政の役人が十五人、左に軍事の役人と神社の神主と住職の十五人が並んで迎える。


 謁見の縁で両手を突き、頭を下げているイナビヒメと、息子三人を見た天皇は、天を仰いでつぶやいた。

 

「ああ戻ったか。長い出征だった。」

 

 熊曽討伐のために五年の歳月を費やした天皇。出征途中に針間や美羽で、加勢兵と船を補充して、総勢千二百人の兵や労役者を率いた。


 西国に入って兎農、倭台と同盟を成し、難敵熊曽と戦い、結果は勝利だったが、想像に余りある長く苦しい日々だったのだ。

 エノカは、短いつぶやきが全てを言い表していると感じ、目頭が熱くなった。


「西国の熊曽討伐隊が目的を果たし、ただいま帰りました。討伐隊を代表してご報告申し上げます。」


 コレイ隊長が謁見の縁に居並ぶ面々に深々と一礼したあと、ゆっくり身を回し、中庭で整列している豪族や集落の首長たちを見回し、大声で感謝の意を表す。


「天皇不在の間、倭都の平安と発展に尽力いただいた皆様、そして暑い時も寒い時も、たゆまず農耕・畜産・工職に勤しまれた皆様、厚く御礼申し上げます。また討伐隊の帰還にあたり、こうも大勢で御迎えくださったこと、誠に光栄に存じます。」


 挨拶が終わると、謁見の縁に並んでいた美しい女人が、左右に分かれて中庭に降り、舞いを始めた。

 両手で白と蒼の扇子を翻し、腰を振って土鈴を鳴らし、凱旋隊の両側を舞いながら進む。


 謁見の縁からは琴と小鼓、竹笛の音が流れ、集まった人々は美しい女人の舞いと清らかな音色に、しばし酔いしれた。


 日が天頂を過ぎて暑さが厳しくなった頃、天皇と討伐に出征した兵の役人級や医官、留守を受け持った役人が本殿に入り、残った兵や労役人たちは家族の元へ散った。


 近隣豪族の首長と代表、街道の造成や準備に協力した集落の首長も、招かれて本殿へ。それを追うように祝賀品が続々と運び込まれている。


 本殿の大広間は、奥に二尺ほど高い上座が設えてある。天皇が中央に着座し、右に親族、左に主な役人が座っている。


 入場した招待者をヒサラが先導し、下段右側に由埜、高尾、磐紀の首長と随臣、右側に鷹居、阿藤、川皺、湖南、坂居の首長と代表者が、それぞれ二十人ずつ祝賀品を背にして座っていく。

 そこには全員分の酒肴付き膳が並んでいた。

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