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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第九章
108/108

食事の後で同志を集め、内密にしていた出雲討伐を

 従臣はコウスが考えた話を、当初からもっともらしく繋げて、敵地で話の食い違いや欠落がないようにせねばと細かな筋を練る。


「まずは羽経での警護兵から、話を作らねばなりません。何度か山賊を蹴散らした自慢でも致しますか。そうそう、我々の名前はそのままで良いですが、皇子様の名は出雲にも轟いておるでしょう。」


「そうだな。三人の名前はこのままで、吾の名はコムスだ。警護隊長の息子で父親はノモシ、母親はヒシエとする。馬韓の交易人はハン・シャンで、船が転覆して仲間とはぐれた事にする。」


「ノモシ隊長の御子息なので、コムス様とお呼びしましょう。」


 屋形に戻ると船の調理人から昼食が届き、六人部屋にコウスも座り、黙って魚を中心とした昼食を摂る。

 朝食は酔い覚ましの味噌汁と白米、己実で収穫した白菜やねぎや大根を煮付けた、あっさりした料理だったが、昼食は色鮮やかな魚料理で食べ応えがある。


 コウスと、マイヤ、シモンは同部屋なので、食事のあとで会合室へ集まるよう、外の嗅助に用心して人払いするよう、食べながら指示した。


「昼餉を終えたら少し重大な話があるので、マイヤとシモンはニコルも連れて、三人で会合室に来るように。全員に話したいが、集まる場所がないので分けて話す。」


 重大な話とは何だろうと、三人が会合室に入ると、コウスの他に従臣のケイシ、マナキ、マヤムも座って待っていた。

 コウスも従臣も表情が固い。マイヤは不穏な空気を感じたが、敢えて明るい声で腹をさすりながら昼食の話題を持ち出した。


「実に美味しい昼食で、満腹になり申した。さて重大なお話とは、まさか物騒なご下命ではありますまいな。」


 表情を変えないコウスに、ニコルは集まった理由が探れず、窓外の海原に目を向ける。シモンも黙って屋形の屋根を見つめ、言葉を待つ。


 コウスは三人を見回し、考え込む表情で話を始める。


「物騒かどうか、重大な話なので聞くように。未羽みわ津に着いたら、吾とこの三人は凱旋隊から離れて出雲国へ向かう。征西隊として滞在した針間で祖父のハリマ王から、恵枇の討伐を成した足で出雲国へ入り、防普ほうふ州を手中にした勢いで針間を狙っている、出雲王を討てとの御下命を受けていたのだ。」


 突拍子もない内容だったので、三人は耳を疑った。

 マイヤの目が空を泳ぐ。ニコルは口を開き、顔の血の気が引いている。シモンが震える声で実情を確かめる。


「何とも厳しい御下命を拝聴し、拙者はどうにも信じられませんが、景行天皇の御許可は下りておられるのでしょうか。」


 針間で宴の直後に王室に呼ばれたコウスは、唐突に出雲王討伐を命令され、父である天皇の意向までは聞けなかったと答えた。


 まさかハリマ王の独断ではないと思うが、マイヤは一旦凱旋を終えた後の出征を持ち出す。


「それでは、このまま纏向へ帰還されて景行天皇に御意向を確かめられ、改めて隊を組まれて出征なさるというのは如何なものでしょうか。」

 

 西国へ向かう途中でコウスは難題にぶつかると、それとなく相談を持ち掛けてきたが、この下命は針間からずっと内密にしていた。

 出雲の前に、恵枇の国主討伐を果たさねばならないコウスの、苦しい胸の内をマイヤは推察した。


 目に涙を浮かべてニコルは、声を震わせる。


「悪夢を彷徨さまよっている心境です。コウス様と従臣三人だけで、出雲へこっそり入るのですか。私は出雲国を存じませんが、神の住まう荘厳な国と聞いたことがあります。わずか四人で入って、出雲王を討ち取れる相手でしょうか。」


 シモンも悲痛な表情で針間軍が侵攻せず、なぜコウスなのかが解せないと言う。


「拙者も全く存じ上げない国です。ハリマ王から出雲の詳しい情報や、規模・兵力を聞かれたでしょうが、コウス皇子に勝機はお有りでしょうか。」


 針間を出航して以来、何事にもコウスの傍にいた従臣三人は、うつむいて問答を聞いている。


「勝機などある訳がない。出雲の情報はハリマ王から何ひとつ聞いておらず、信頼できる三人を連れて行けだけだった。吾も想像すら付かない未知の国で、出雲王の顔も性格も知らず、何処に国があるのかも知らない。そのため針間の嗅助かきすけ六人を放って、国の見取りや兵力、宮廷の内部、国王の性格、民の日常を調べさせている。すでにその情報が、未羽みわ津に来ているはずだ。」


 防普ほうふ州を手に入れ、次に針間を狙う強大国王を、何の戦略も手段も持たない四人が果たして倒せるだろうか。


「愚問と叱らないでください。その出雲王に息子や娘子はいるでしょうか。」


 目を細めて考え込んでいたニコルが、出雲王の近親者の有無を小声で尋ねて来た。

 この質問で、ふとコウスはひらめいた。王の近親者を手懐てなずけて懇意こんいになれば、王に近付く手段が開くかもしれない。

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