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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第九章
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己実津を出て、従臣に出雲へ入る理由や経過を決める

「よく出来た彫物だ。これはアメイ家の、大事な宝ではないのか。」


「当家で大切に仕舞っておりました置物です。せがれの命が救われましたので、次は皇子様の御守護にと、出過ぎた真似とは存じつつ、恥ずかしながらお持ち致しました。」


---小さな置物だが立派な代物しろものだ。また出雲への貢物が加わったぞ。


「そんなに大切な物を、良いのか。」


 密かに喜んだが顔には出さず、気遣う素振りをして受け取り、懐に入れる。


 桟橋で手を振って見送る己実の人たちに、甲板から手を振り応える凱旋隊。津が遠ざかるにつれ、海面から吹き上げる冷たい風が身に沁みる。


 全員が屋形に駈け込むと、マイヤが八部屋の振り分けを六人三部屋、七人三部屋にし、ひと部屋は女人四人にした。もうひと部屋は、自由に使える会合室に空けてある。


 これから未羽みわ津までを船中で過ごす。追い潮のせいか、三十櫓の船は思いのほか早い。


 何もない船中の四日間は長く、退屈だ。この間に、コウスは出雲討伐を話そうと考えた。

 未羽津で混乱なく出立するためにも、この四日間を無駄にできない。


 さっそくコウスは、出雲へ同道するケイシ、マナキ、マヤムを会合室に呼び、船員に誰も入れないよう、見張りを命じた。


「未羽で二日の滞在をテスラ代表に知らせているが、津の滞在中に出雲王討伐を打ち明け、我々四人は出雲へ向かうので、他の者は尾道、針間、難波へ立ち寄って帰還せよと告げ、納得するだろうか。」


 苦虫を噛んだ顔をして、ケイシが大混乱になると進言する。


「針間王の御下命とはいえ未羽津で突然、出雲王討伐組と帰還組に分かれると告げられ、コウス皇子は出雲王の討伐に向かうと聞かされて、驚かない者がいるでしょうか。腰を抜かすかもしれません。」


 なぜ針間王の命令が帰還後の遠征ではないのか、なぜ討伐組はわずか四人なのか……から始まって、様々な疑念の声が上がり、滞在の二日では収まらないとも告げる。


 鳴きそうな表情のマナキが、こんな一大事は誰ひとり納得しないと言う。


「この大きな問題をなぜ、寝食を共にして来た同志に、今まで隠し通していたのか、我々三人は当初から聞いていたのだろうと、厳しく尋問されるでしょう。」


 倭台市の散策中や焼物の土産の仕分け、羽経はねけの光る砂で、三人はずっとコウスに付いていた。

 勘の鋭いマイヤやニコル、シモンは気付いていたのではとマヤムに不安があったと告げる。


「胸の内に秘めているのは苦しかったです。皆に事情を明らかにして、疑念から後々の行程まで、船中で解決しておくべきと存じます。」


 とんでもない秘密の下命を、よく今まで守って来たと、コウスは心の中で手を合わせた。


「よし分かった。もうすぐ昼食だ。その後で会合室にマイヤ、ニコル、シモンを呼び、針間王から出雲王討伐の下命があった事を告げ、その反応を見て後々を考える。その前に出雲へ潜り込む方法、疑われずに動く方法、国王に近付く方法、国王を討つ方法があったを聞きたい。」


 思った通り、三人は首をうな垂れてしまった。何の手掛かりもなく考えよと言っても、所詮しょせん無理なことは分かっている。


 出雲に疑われないよう、筋が通った手掛かりを作らねばとコウスは倭台市、於訳、羽経であった事柄や現象をつないで、出雲王へ近付く方法を考えてきた。


「国王に近付くための貢物は手に入れた。倭台で焼物、羽経で光る砂、己実でもらった虎の彫物……これは倭都で誰も見たことのない、珍重物ばかりだ。これは於訳おわけの集会場で馬韓の交易人が胸の病いで死んだ男の物で、死ぬ間際に吾の手を握って言った。この貢物を何としても、出雲の国王様に届けて下さいと。その約束を果たすために、命懸けで貢物を守りながら参上した、と言うのはどうだ。」


 三人はうなずきながら聞き、目を輝かした。


「おお素晴らしいです、さすが皇子様。拙者どもには想像もつかない妙案で恐れ入りました。それで皇子様は於訳の兵で、我々は従臣ですか。」


「いいや。馬韓の交易人は羽経はねけという小さな漁村に、船の転覆で流れ着いたのだ。羽経の山には山賊が多く棲み付いているので、羽経は五十人の自衛兵を作って漁村を護っている。吾は隊長のせがれで其方ら三人は、吾を警護する兵だ。」


羽経はねけですか、海からは見えにくい小さな漁村です。それで良いのでしょうか。」


「何処にあるかさえ分からない漁村だから、話の真偽を探る術がない。吾らが場所を教えなければ好都合だ。しかし羽経は実在するので、嘘ではない。」


「なるほど。於訳からの兵なら嗅助かきすけが走って、すぐさま作り話が露見するでしょう。そこまで考えておられたとは……。」

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