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プライバシーを脅かされる転生者達〜自動翻訳機能が有能すぎてちょっと困る〜

作者: 大橋 仰

ここは異世界。中世ヨーロッパ風の小さな街にある飯屋での一幕。



「いやー、まったく異世界は今日も平和だな」

 俺はカイセイ、37歳。日本ではごく普通のサラリーマンだった。異世界に来て2年目。今は冒険者ってヤツをやっている。


「イヤー、まったくっスね。今日の魔獣討伐も楽勝でしたから」

 コイツはリューセイ、元工業高校2年生。つい最近この世界に転生した駆け出し冒険者だ。


「もう、カイセイさんも、リューセイくんも、危機感が足りないんじゃ無いですか? 真剣にやらないと、いつか死にますよ?」

 で、この真面目なのがマナブ。なんでも日本では有名な進学校に通っていたそうだ。年齢もこの世界に来た時期もリューセイと同じ。やはり冒険者をやっている。



 ここ最近、俺はこの二人とつるんで行動することが多い。俺は一応パーティに所属しているのだが、そのパーティメンバー達がロクでもないヤツらばかりで、嫌気がさしていたのだ。


 そんな時、異世界に来て日が浅いこの若者二人と出会った。色々危なっかしくて見ていられなかったんで、なんとなくこの世界の先輩として面倒を見ているうちに、気心の知れた間柄ってヤツになったって訳だ。



「まったく、マナブくんは真面目だな。もうちょっと肩の力を抜いてもいいと思うけどな」

 俺は笑いながらマナブに語りかける。


「アニキの言う通りっスよ。まったくマナブは真面目過ぎて損するタイプだな」

 リューセイも笑いながら俺の発言に同意する。ちなみに『アニキ』とは俺のことだ。ちょっと恥ずかしい……


「カイセイさんに言われるんなら納得できますけど、リューセイくんには言われたくないですね」

 ちょっと拗ねたようにマナブが言い返す。リューセイとはまったく正反対の性格であるが、二人の仲は悪くない。



♢♢♢♢♢♢



 時間は進み、俺達は男同士で大いに盛り上がっていた。ところが突然、店の扉が開く大きな音が聞こえたので、誰が来たのかと振り返ったところーー


「カイセイさん! あなた、またこんなところで油を売ってたんですね! まったくあなたって人は、パーティリーダーとしての自覚が…… あら、珍しい。お連れの方がおられたのですね?」


 このキーキーうるさい女の名前はバインバイーン、通称バインだ。治癒魔法を使う神官であり、不本意ながら俺のパーティメンバーである。顔とスタイルは抜群に素晴らしいが性格は最悪。金に汚い上ビッチなのである。


「別にどこにいようが俺の勝手だろ。大体オマエこそなんでこんな所にーー」

 コイツ…… おれの話を聞かずに、ずっと若者2人の方を見てやがる。


「初めまして。わたくし、神官をしておりますバインバイーンと申します。皆さんからはバインと呼ばれておりますの。カイセイさんとお知り合いということは、もしやあなた方も異世界から来られたのですか? まあ、なんて素晴らしい! わたくし、これでも少々治癒魔法には自信がありましてーー」


 チッ、うるさいヤツめ。せっかくの楽しい時間が台無しじゃないか。ここは早々に退散願おう。


「おい、バイン。さっき、Cランクパーティ『華麗なる紳士』のイケメン剣士が、なんでもオマエに大切な用事があるとかで探してたんだが…… いいのか、こんな所にいて?」


「ええっっっ! なんですって? もう、どうしてあなたはそういう大事なことを早く教えてくれないのかしら。うーん…………」


 将来有望な若手異世界人ーー物欲ーーを取るか、金持ちではないがイケメンの剣士ーー性欲ーーを取るか、ゲスな脳ミソをフル回転させて悩んでいるようだ。ああそれから、イケメン剣士が探してるってのはもちろん嘘だ。


「……皆さん申し訳ありません。わたくし急用が出来ましたので、これで失礼させていただきますわ。また、日を改めて、是非お会いしましょうね!」


 バインはそう言うと、慌てた様子で店を後にした。どうやら性欲が勝ったみたいだな。



「悪かったな、二人とも。嫌な思いさせて…… って、どうしたんだよオマエら?」


「アニキ! なんスか、あの美人。あんな綺麗な人と一緒にパーティ組んでるんスか?」


「いや、驚きました…… まさに異世界って感じの美人ですね」


「おいおいオマエら…… ちょうどいい機会だから教えといてやるよ。いいか、オマエら気をつけろよ? オマエらが異世界人だってわかったら、ああいうクズみたいな連中がワンサカ周りによってくるんだからな」


「ちょっとアニキ、そりゃなんでも言い過ぎじゃないんスか?」


「そうですよ、カイセイさん。その言い方はあんまりだと思いますよ?」



「ハァー…… オマエら人生わかってないぞ。いいか? 俺を含めてオマエらなんて、アイツから見たら人じゃなくてモノなんだよモノ。バインバイーンのバカはイケメン以外の人権は認めてないんだからな」


「そんな言い方、ヨンダイビジン・チョウセンさんが気の毒で……」


「だから、セーラーズ・ピーチさんがそんなに悪い人には見えないって……」


「「「 え? 」」」



「おい、オマエら何言ってんだ? アイツさっき自分で、バインバイーン、略称バインって言っただろ?」


「何言ってんスか? 四大美人貂蝉ヨンダイビジンチョウセン、略して貂蝉チョウセンって言ってたじゃないっスか?」


「二人ともどうかしてますよ? セーラーズ・ピーチ、皆んなからピーチって呼ばれてるって言ってたでしょ?」


「「「 ………… 」」」



♢♢♢♢♢♢



 それからしばらく俺達3人で話し合った結果、次のような結論に至った。



「うーむ…… どうやら俺たちが女神様からもらった転生者特典『自動翻訳機能』があまりにも高性能過ぎるようだな。俺達が理解出来ないこの世界の言葉を画一的に翻訳するんじゃなくって、個々に即したイカシタ訳を提供してくれてたってことだよな?」


「そうっスね。一人ひとりの好みに合わせて訳を考えてるってことでしょ? 自動翻訳機能さん、どんだけ優秀なんスかね? 異世界人が自己紹介したら、俺達転生者は皆んな違う名前に聞こえるなんて、やっぱファンタジーっスね」


「…………」



「そうだな。個々人の趣味嗜好をしっかり押さえてるんだな、自動翻訳機能さん。なんだか呼び捨てにするの失礼なように思えて来た……」


「ホント超人的っスよね。あっ、人じゃないけど」


「………………」



「……えっと、ほら、俺、お笑い好きなんだけどさ、よくよく考えみると、俺の周りの人達の名前って、『オセワスキー』さんとか、『オヤク=ニン・サマー』氏とか、ふざけた名前の人達ばっかりなんだよな」


「なんスか、それ。超ウケるんっスけど。……あのー、俺の場合、三国志が好きだから、『美髯公ビゼンコウ関羽カンウ』とか『悪来アクライ典韋テンイ』って名前の人が周りにいる訳っスね。なんかおかしいと思ってたんスよ。この世界の見た目、西洋風のくせに『関羽』ってなんだよ、みたいな」


「……………………」



「……ま、まあ、確かに西洋風の長ったらしい名前だと覚えにくいからな。俺、オマエらより、ほんのちょっとだけオッサンだろ? 最近記憶力がちょっとな…… 俺みたいな、やや年長の若者には有難い心配りだな」


「……お、俺も勉強苦手で記憶力もあんまり無いから、そういう意味では、覚えやすくて助かるっスね」


「…………………………」



「えっと…… そろそろいいのかな?」


「えー…… いいんじゃないっスか?」


「………………………………」



「「 で、なんで『 セーラーズ・ピーチ』なんだよ? 」」


「う…… ううっ…… うううっ…… うわああああああーーーーーーんんん!!!」



 マナブが泣きながら、走って逃げて行ってしまった……


 どうやらマナブは、美少女アニメをこよなく愛していたようだ。別に隠すことでもないように思うのだが……




 後日、俺達3人はマナブの秘密を絶対にバラさないという誓いを立てた。


 俺はリューセイが好きな三国志に出てくる『桃園の誓い』にちなんで、『美少女戦士ピーチの誓い』と命名するよう提案したのだが、マナブがマジギレしたので提案は取り下げることにした。

↓↓↓下記の作品は、本作の主人公カイセイが活躍する、この作品から4年後の物語です↓↓↓

   コメディー要素満載で、バインバイーンもイイ味出してます。

   ご一読いただければとても嬉しいです。宜しくお願いします。


結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら

         https://ncode.syosetu.com/n7649gs/


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