表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

最強の暗殺者と死なずの魔導師 ~昨日殺したはずの相手が今日も生きています~

作者: 笹 塔五郎
掲載日:2020/12/10

『ラースウェア王国』にリシエル・ヴァンデリカという魔導師はいた。

 その名はすでに十数年も前から王国内で知られており、幾多にも及ぶ国の危機を救ってきた、正真正銘の英雄であった。

 ラースウェアは小国であるが、彼女の存在によって国が成り立っていると言っても過言ではない。

 国を守るために、国中に結界を張り巡らせているという噂すら立っているほどだ。

 そこまで長く名を知られているというのに、彼女の見た目はまだ可憐な少女のまま――それこそが、リシエルが実力の高い魔導師であるという証明でもあった。


「ふぅ、今日はこんなものでしょうか……」


 書類を纏めて、リシエルは小さく息を吐く。

 ここは彼女の書斎――今日は夜遅くまで仕事をしていた。

 金色の髪に蒼い瞳。見た目の年齢で言えばまだ十六歳ほどの彼女が、この国においては英雄と呼ばれる当人であった。

『魔導を極めし者』の一人に数えられる彼女が、一つの国に留まって仕事を続けるというのは、珍しい話だ。

 多くの者は実力が備われば、独立して仕事を始める。

 だが、彼女はこうして小さな国で仕事を続けている――彼女がいなくなれば、この国は大きく力を失うことになるだろう。


「さてと、明日に備えてもう休みましょうか……」


 小さく欠伸をしながら、変わらぬ忙しい日々を送るリシエル。

 彼女は明日も、この国を支えるために頑張って働くつもりであった。その時――トンッ。


「……?」


 リシエルは背中にふと、妙な感覚を覚えて振り返る。

 すると、そこにはローブに身を包んだ人影が立っていた。

 顔に仮面を装着して、その表情を窺うことはできない。

 ただ、こちらに手を向ける彼女を見て、リシエルは呟くように口を開く。


「あなた、は――」


 そこまで言ったところで、リシエルはその場に膝を突く。

 徐々に、背中に痛みが広がっていくのが分かった。何かが刺さっている――これは、ナイフだろうか。


「今度こそ、さよならだ――リシエル・ヴァンデリカ」


 声と共に、リシエルの喉元が鋭い刃によって掻っ切られる。血が噴き出して、リシエルの周囲を鮮血に染めた。

 それはあっという間のことで、リシエルは抵抗する間もなく、自らの斬られた喉元を抑える。

 だが、出血は止まらない。

 リシエルは、目の前に立つローブの人影を見上げて、口を開く。


「――」


 声が出ない。喉を完全に潰されたからだろう。

 失われていく血液によって、意識も遠のいていく。

 英雄――リシエル・ヴァンデリカは、突如現れた『暗殺者』によって、その命を奪われたのだ。

 やがて、暗闇に染まっていく視界の中で、リシエルは目の前に立つ暗殺者が、仮面を外したのを視認する。

 そこにあったのは――若く美しい少女の顔であり、リシエルが見た最期の光景でもあった。


   ***


「……」


 少女――アインは倒れ伏した魔導師を見据える。

 たった今仕留めたのは、英雄と呼ばれた魔導師――リシエル・ヴァンデリカだ。

 この部屋には、彼女が張り巡らせた魔法による『結界』が存在する。

 しかし、それを簡単にすり抜けてリシエルを仕留めるだけの実力を、アインは持っていた。

 百年以上前から世界中でその名を知られる暗殺者――『不死』。その名で呼ばれるようになった理由は、あまりに長く暗殺者として活動をしているからだ。

 魔法を極めた魔導師が、自らの力を誇示するために暗殺者をしているとも噂されているが――実際には違う。


「父さん、今度こそ仕留めたよ」


 アインはそう、倒れ伏したリシエルの喉元に触れて、はっきりと言い放つ。

『不死』の名を継いだ暗殺者――それは、代々その技術を弟子に受け継がせることで、続いてきたものだ。

 アインはこれで五代目の暗殺者。歴代で最も若いうちから暗殺者として活動を始め、実力も世界トップクラスとなった少女だ。

 事切れたリシエルの死を、アインは念入りに確認する。

 本来、暗殺者は仕留めた相手に近づいてわざわざ時間をかけて確認などはしない。

 離れていても、手応えで殺したことが分かるからだ。

 アイン自身、今回はすでに確実に仕留めたことは理解している――それなのに、念入りに確認するのは理由があった。


「昨日殺したはずなのに、今日も平然と生きてた。やっぱり、魔導師は油断できないね」


 ――そう。アインはすでに、リシエルを一度殺している。

 同じく夜に、この部屋で殺したはずの彼女は……今日も平然と元気に仕事をしていた。

 仕留めそこなったはずはないのだが、生きているのならばアインのやることは変わらない。

 確実に本人の死を確認して、今度こそこの仕事を終わりにすることであった。

 アインはリシエルの死を確認して、安堵した様子で部屋を後にする。


「ふぅ、昨日は少し離れたところからでしたから『逃がして』しまいましたが……今日はそうはいきません」

「――っ!」


 声は後方から聞こえ、アインは振り返った。

 そこには、先ほど死んだはずのリシエルの姿があった。

 無傷というわけではない。間違いなく死体が立ち上がっている。

 喉元の傷は塞いだのか、すでに見えなくなっているが。


「『生ける屍』……?」

「それは意思を持たない者でしょう。私はしっかりと、意思がありますよ」

「……不死に近い魔導師は何人かあったことがある。でも、本当に不死はいない――殺す方法は絶対にある。あなたの死は、わたしが確実に確認したはず」

「そうですね。さっきまでは死んでいました――」


 言葉と共に、リシエルが手を振るう。

 すると、周囲から『黒い影』が伸びて、アインの身体を縛り上げた。


「……っ」

「けれど私――死ねないんですよね」

「死ね、ない……?」

「そう、死ねないです。死なないじゃなくて、死ねない魔導師――だから、暗殺者なんか来ても無駄なんです。ふふっ、結構有名な話だと思っていたんですが、あなたは知らない若い暗殺者でしたか?」

「……」


 アインはリシエルに鋭い視線を向ける。

 彼女はそんなアインを見て、優しげな笑みを浮かべて近づいてきた。

 死ねない魔導師――原理は分からないが、彼女の言うことは本当なのだろう。

 実際、死んだはずのリシエルが目の前までやってきているのだから。

 そして――彼女は、アインの唇を奪った。


「……? っ!?」


 突然のことに驚いて、アインは言葉を失う。

 柔らかい唇の感触――紛れもなく、リシエルが生きているということが分かる。

 どうして生きているのか分からないが、アインはすぐに彼女の『舌』を噛んだ。


「っ、まったく、この状態でもやんちゃな子ですね」

「……どういう、つもり?」

「ふふっ、昨日は素顔を確認できませんでしたが……先ほど死ぬ瞬間に見えたあなたの顔。とても可愛らしいと思いましてね。改めて確認させてもらいましたが、やっぱりタイプです。だから、思わずキスをしてしまいました」

「……?」


 アインの理解が追い付かない。可愛いから、キスをする――どういうことなのだろうか、と。


「それに、私を二度も殺したのはあなたが初めてでして……ふふっ、年甲斐もなく、恋をしてしまいました」

「っ!」


 笑みを浮かべるリシエルを見て、アインはすぐに行動に出る。

 ローブを脱ぎ捨てるようにして、無理やり彼女の呪縛から抜け出して距離を取った。


「あら、無茶をしますね」

「……次は、必ず殺す」

「ふふっ、また来てくれるんですか? では、お待ちしていますね? 暗殺者さん」


 挑発するようなリシエルの言葉を受けながらも、アインは窓から部屋を抜け出した。

 素早く逃げるように移動したあと、ようやく落ち着ける場所についたところで、アインは座り込み、


「……キスなんて、初めてした」


 なぜか、そんなことを思い出していた。

 初めて殺せなかった相手。そして、初めて告白された相手――同じ女性同士だというのに、アインもまた、リシエルを意識してしまっていた。

 首を横に振って、アインはその意識を否定する。


「……ううん、違う。次は必ず、殺す」


 それは、リシエルに対しても言ったことだ。

 死なずの魔導師を殺すまで――最強の暗殺者はこの日、彼女を絶対に殺すと誓ったのだ。

 少女が少女を殺す日まで、終わることのない戦いは続く。

殺しても死なない女と、絶対に殺したい女の百合が好き。

素顔を知られたので、次の日のお昼にオフの暗殺者ちゃんをデートに誘いにいく魔導師ちゃんがいると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ