その後のパーフェクトコミュニケーター
前作の続きですので、取り扱ってる内容はそこそこ重めなので注意
果たしてパーフェクトコミュニケーターに安息の日は訪れるのかしら...
6時間おき投稿予定、全4話予定です;
よくある魔法少女とか、ヒーローものとかっていうのは、シリーズが新しくなるごとにパワーアップしていくもの。
そのあたり、私なんかもちょっとそれっぽいところがあるらしい。
両親の離婚――――私がパパの血を引いていなかったことを知ったのから始まった、ママの不義が回りまわったそれを目の前にして。私は全く意図せずに、パワーアップしていた。
なんとなく、私には「影が見える」。人が何かをやっている時、それがどこでどういうものであるか、なんとなくわかるというか。相手を見ると、それを理解できる。
そのレベルが明確にパワーアップしたのを実感したのは、高校に入学したその日、自己紹介を終えた直後。
クラスメイトの視線が私に集まっているのを見て、そしてその種類に「色が」見え始めた。ほんと、今まではなんとなくで察していたようなそれが、明確に色彩を伴って私の目に映った。
日に日にそれは変化し、増大し。しまいには映像まで見えるまでになっちゃった。
相手を見ると、その相手の考えてることとか、どういった意図で行動してるのかとか。そういったものが、うっすらピントがボケてるけど、(たぶん)視覚的にわかるようになってしまった。
これって超能力、サイコメトリーとかじゃないの? と。少し恐怖にかられた私。
小さいころに超能力捜査官とか、そういう海外ドラマっぽいのを好きだったので、超能力っぽいそれには偏見はない。いや、自分で超能力とか言っちゃうのは色々ツッコミどころがあるんだけど。
どっちかというと、そのドラマで描かれていた、超能力者特有の苦悩とかが問題。
サイコメトリーする人は、その鋭敏なレーダーみたいな能力が、頭とか心に負担をかけていた。多くの人の情報を、心と体が処理できないで、振り回されてしまうとか、そんな感じだ。
実際私も、それっぽい症状に見舞われている。人込みの中にいくと、多くの人の頭上に色彩が渦巻いて、それも十人十色な有様だから、それはもう、ぎゅあんぎゅあん振り回されている。歩いてるときは、流石にスマホとか本とか読めないので(危ない)、もう酷いのなんの。
なんていったらいいか……、目は使ってないんだけど、徹夜でスマホでチャットしてたみたいなのを、ずっと連続でやってるような感じっていうか。
眉間のあたりがかなり痛い。片頭痛の超すごい版。
とりあえずパワーアップはこのあたりで収まったんだけど、電源スイッチみたいにこれってオンオフが出来るようなものじゃない。なので、ちょっと、弱ってしまった。
授業は、目が悪いので前の座席に移動させてもらって、目に入る人数を減らしたから、少しはマシになったんだけど……。
それでも、嗚呼、それでも人の声は耳に入ってくる。
それでも人のことは、ちゃんと知れてしまう。
例えば……、クラスメイトの女子と男子が付き合うだの付き合わないだの。付き合ってるのにその女子は浮気してるし、しかも完全に、肉体的には浮気相手に従属しちゃってるし、そのことに全然違和感抱いてないし、でもそうなるだけの育ちの悪さみたいなものもあるってのがわかっちゃうし、しかも見た目で言えば全然清楚系で美術部でそういうのと縁がなさそうに見えるし――――。
思わず立ち上がり、引きつった頬のまま突っかかってしまった私を誰が攻められよう。
クラス、昼休み。実籠さんと、他のクラスメイト女子二人。
教室の隅っこでお弁当をつまんでいる彼女たちに、私は激怒とまではいかなかったけど、ちょっとイライラしていた。
いや、まぁ、ノイローゼがこのタイミングで限界にきて、プッツンしたって方が正解だと思う。
「――――そういうの止めたほうがいいんじゃない?」
「……な、何? シンドーちゃん」
嗚呼、見た目は楚々としてるのに中身アホだわこれって。高校入って初めて会話交わして、1秒もせず直感する私。だってこの子、考えてることを視る限り、私のことすっかり忘れてるんだもの。
いくらなんでも一緒に保健委員やったことくらい覚えてなさいよ、体育大会のときブロック一緒だったんだから……。
同じ中学で、クラスは一緒になったことはなかったけど、同じ保健委員で。体育大会で私がサブリーダーやってて、実籠さんは意外と熱心にやってて……。まぁぶっちゃけると、今彼女の彼氏にとっての間男であるところの西山っていう、スポーツ得意だけど自制心のタカが壊れてるヤローのためにって、そういった献身からだったとは思うんだけど。
嗚呼、そういう意味では、頭の中年中お花畑というか、まぁ、桃色だったわけだ。
そりゃ私の事なんて眼中ないよねと、心底呆れた。
「言ってほしい? ホントに? 何を止めた方がいいって。読解力あればわかると思うけどさ、その話って」
「こ、国語の成績とか全然関係なくない?」
「いや、よくもまぁそんな話ベラベラしゃべってるなーって思って。一応言っておくけど、せめてボリューム下げた方がいいわよ? 誰が聞いてるかわかんないんだし」
別に彼女を更生させたいとか、そんな気持ちは微塵もない。
それだけ彼女が体を虜にされてるヤローは「やばい」。地元の小学校時代、初めて同じクラスになって目を付けたときから、そのやばさは私も理解していた。今ほどの精度がないレベルでさえも、一目で背筋に寒気がした。
正直、今出会ったら……、実籠さんに視えたものを参考にするまでもなく、吐く自信がある。どんな自信だ。
正直、こういう浮気だの何だの、肉体は彼だけど心は貴方よ~なんて話題は正直もうたくさんなのだ。そんなものママの腐れ言い訳だけでお腹いっぱいだし、おつりでゲロするくらい。
あと、私もちょっとグレてるところがあるので、下手に軽い女だと目をつけられたらたまったものじゃない……、実際がどうとか恰好がどうとかじゃなく、とにかく「視界に入ることも」「視界に入れることも」したくない。もう沢山だ、破壊しろって世界。
だから、最低限言うだけ。私的に許せるギリギリのラインまで。
イライラをぶつけるだけ……、要するに八つ当たりってわけ。
まぁそれを本人がどこまで参考にするかとか、知ったこっちゃないけど。
「さっきさ、言ってたじゃない? 実籠さん、彼氏好きだけど別に体は満たして欲しいわけじゃないって。で、この間言ってたじゃない? 初めて早いうちにしちゃったほうが楽だって。で、またこの間だけど言ってたじゃない? 身体の相性はサイコーだったら幸せだってさ」
「な、何なのシンドーちゃん……」
「何言いたいかわかる?」
矛盾してるじゃん、全部。
視るまでもなく、普通に浮気してのるの丸わかりじゃん。
そんな思いを込めても、嗚呼だめだこれ全然理解してないや。こういうのビッチっていうのかしら。都合が良い女というにはアホすぎない……?
「あのね? 普通はそういうの、ダメだと思うよ。片方が切れた上でだったらまだあり得る話だけどさ」
「へ?」
「普通の人がそれ聞いたら、エンガチョーだと思うけど。特に男の人なんて、まともだったらまともなほど、そういうのは潔癖だし。取り返しつかないんじゃない?」
私の言葉に一瞬、顔を青くした実籠さん……、何を知ってるのかという顔だったけど、でもすぐに普通に戻った。どうせ何も知らないって思ってるのは視なくてもわかるレベルなんだけど、視たら視たで私の言ってることが完璧に通じてないことも丸わかり。
この女、こともあろうに浮気の部分を揶揄して言ってるのさえわかったもんじゃないとか、どんだけよ。
って、私の口調もかなりイライラしてるな……。
「あれだけ大声で話してたら、次何言うかくらい予想つくよ。私、耳いいし。もうちょっと自分が何言ったか思い返してみれば?」
…………。
十秒くらい考え込んでたけどダメだこれ、完全に引っ掛かってないわ。
こっちが多少なりとも気を遣って直接表現は避けたって言うのに、何なのこれ……。
「意味わかんないんですけど。っていうかキモいし、そういうの今どき。っていうか、まさかヴァージン? ヴァージンですかぁ?」
いや、アンタ見た目だけは清楚なんだからそういう煽り方やめなって、ほら友達とくすくす笑ってるんじゃないって。ちゃんと回りみなさいな、部屋に残ってるまともな男子(私の視た範囲で7人)が、聞こえるセリフに引いてるじゃないの。一人我関せずって読書してるのもいるけど。
別に処女信仰があるわけでもないけど、まぁまともな彼女が欲しいって思ってるのは、それなりよそれなり。
まぁ私もちょっと、真面目に八つ当たり……、八つ当たりが真面目とはこれいかに。
「彼氏にその話したの?」
「へ? あ、いや、別にユーイチは関係ないし……」
「彼氏、初めて欲しかったって言ったらどうこたえるのよ」
「あー、いや、ごめんって……」
「どんな相手とどうやって散らしたんだって聞かれたら、どうこたえるのよ」
「そ、そんなの言えるわけないじゃない!」
顔真っ赤で普通に可愛らしいところ悪いけど、頭の中ドロドロしっぱなしというか……。というか、あのヤロー、マジでゲスいというか、やっぱり何か足りない? 精神的に。
「ウチさ、両親離婚してんの」
「?」
「だからさ、さっきの言い分マジむかっ腹立つの。止めて? 浮気した側と同じようなこと言ってるから。顔面にゲロ吹きかけようと思えば吹きかけられるレベルだから」
あ、二人が引いた。いや、さすがにこの場で本当に吐くほど弱い胃腸はしてないけどさ。
でも肝心の実籠さん、私の言った「浮気してる人間の言い分」と、今自分が彼氏に対してやってるところが完全に一致してないみたいだ。
んー、どうしたものかな……。
面倒くさい、もういいや。
そのまま席に帰ろうとして、でも呼び止められて。今度はちょっとマジでキレかかった私の顔を察したのか、実籠さんも二人も数歩引いた。
「好きにしたらいいんじゃないの? ただそーゆー話は聞きたくないから、どっか他所でやって」
「そっちがどっかいけばいいなじゃない」
「いや、アンタらのそれの方が何倍も『見たくない』の。採決とらないけど、内心私ほどじゃなくっても不愉快に思ってるのっているわよ?」
少なくとも、さっきのまともな男子共とか。
でも食堂とか、もっとまともな人間のいるところでその話したら引かれるってわかると思うんだけど……。なんとなくこの「自分の好きなものしか認めない」女は、そんなことをすぐには理解できないだろうなと、半眼で見るしかなかった。