9章 最弱VS最強
冬彦三とヨタの決戦の幕が上がった。
「ミッキーは能力に依存し過ぎて敗北したのだったな
だが僕はミッキーのようにはいかんぞ」
ヨタはポケットから超越能力で圧縮していた二丁の拳銃を取り出して両手に構えた。
冬彦三もまたポケットから圧縮していた散弾銃を取り出した。
ドンドンドン!!!!バンバンバン!!!
ババババババン!!!ドドドドドドン!!!
山中で激しい銃の打ち合いになった。
超越能力で強化された弾丸は凄まじい威力になっている。弾丸が飛び交い、山の木々は次々とはへし折られていった。
「お前は合法的に銃を入手したんだったな!
しかし、こちらは暴力団から奪った代物だ!
強力な武器と言うのはな、非合法でこそ手に入るのだよ!」
日本の散弾銃は2発しか装填できないため冬彦三の方がやや不利だ。
しかし、弾の速さは一般的な拳銃より散弾銃の方が早い。
「ミッキーは能力に過信し過ぎた結果敗北した
能力など武器のサポートにすぎん!
能力と強い武器を併せてこそ『鬼に金棒』なのだ!」
そう言うと、ヨタは目にも見えぬ速さで弾道から離れた位置に移動していた。
冬彦三も超越能力で強化された持ち前の逃げ足の速さで銃弾をすかさずかわした。
ヨタは銃弾を込めた。
(何だ!?ヨタのスピードは!移動する所がこの僕の目にも全く見えなかったぞ!)
「ふん、噂通りの逃げ足の速さだ!
だが、どんなに速かろうと!どんなに回避能力が優れて居ようと!
僕の白金の飴の超越能力の前では無力だ!!!」
そう言うとヨタの姿が消えた。
かと思うと、無数の銃弾が冬彦三の目前に迫っていた。
しかし、冬彦三の逃げ足は速かった。直撃はなんとか回避した。
だが、完全にはよけきれず、肩と腕に大きな傷を負った。
少しかすっただけでこの威力である。足が無事だったのが幸いである。
「どういうことだ!?発射動作も見えなかったし、銃声も聞こえなかったぞ?」
「噂以上に逃げ足が速いな」
冬彦三の超越能力で強化した動体視力を持ってしてもヨタの動きは全く見えなかったのである。
冬彦三が驚いていると、今度は冬彦三の後ろに無数の銃弾が現れた。
またしても銃声はない。
「僕の逃げ足は宇宙一ぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
冬彦三はなんとかかわした。
(どういうことだ弾を込める動作もなかったぞ!?これが白金の飴の能力なのか!?)
「面白―い!」
「何が起きているか分からないが、とにかく逃げ回るしかない…!!!」
(僕の逃げ足の速さは宇宙一なんだ…宇宙一なんだ!!!
超越能力を使って逃げ足の速さを最大限まで…
いや、…限界以上に引き出すんだ…!!!)
「ほじっしっしっしっしっしっし!!」
ヨタは変な笑い方で不気味に大笑いした。
「おふざけはここまでだ!」
ヨタはポケットからライフル銃を取り出した。
弾の速さは散弾銃や拳銃の比ではない。
また、冬彦三の後ろに無数の銃弾が現れた。
しかし、またしても銃声はない。ヨタはいつの間にかライフルを構えていた。
その瞬間、冬彦三は目にも見えぬ速さで弾道の後ろに移動していた。
「バカな!?この僕の目にも見えなかったぞ!?
あのライフルの弾をどうやってかわした!?」
(ま、まさか!?)
ヨタは、またしても白金の飴の能力を使った。
「まさか、冬彦三も時間停止が使えるように覚醒したわけではあるまいな…」
ヨタの超越能力は時間停止である。
ヨタはライフルを発射した。
「しかし、例え時間停止ができるようになろうとも関係ない!
時間停止の弱点はこの僕がよく知っている!」
ヨタは冬彦三の周りをまわりながらライフルを撃ち続けた。
冬彦三は四方からライフルの弾に囲まれた。
「お次は上だ!」
ヨタは冬彦三の上方もライフルの弾で埋めた。
これで冬彦三は半円状に満遍なくライフルの弾で囲まれた。
「これでいかに時間を止めようとも、逃げ場はない
下に穴を掘って逃げようにも深く掘れるほど長くは時間を停止できない
時間停止して四方八方を見たが最後何もできずにタイムオーバー
強制的に時間停止が解除されて360°からライフルの銃弾が襲い掛かるぜ!」
回りくどい事をしているようだが、時間停止中は接近攻撃ができない。
あまりに近づきすぎると相手のタイムロックも解除されてしまうからである。
そもそも時間停止者以外の時間が完全に止まっていては、空気も固まってしまい、動く事はおろか息をする事もできない。
そのため、時間停止者の付近はタイムロックが解除されるのである。
よって、この能力を最大限に活用するには遠距離用の武器が必要なのである。
「そして、時は動き出す!」
(さらばだ冬彦三!)
半円状の弾は一斉に動き出した!
「何!?消えた!?」
ところがどっこい、冬彦三はヨタの真後ろにいた。
「ばかな!?」
「今のはちょっと驚いたぞ
全方位からの同時の弾丸…
こんな事ができるのは時間停止だけだ…。お前の能力は時間停止だな」
ヨタは再び時間停止した。
「ばかな!時間停止ならばあの場からは逃げられないはず!?
それなのにあの場から消えたという事は……」
ヨタはライフルを発射しながら、考え込んだ。
「まさか…!?」
そして時は動き出した。
冬彦三は再びライフルの弾の軌道から姿を消した。
「やはり瞬間移動か!!」
「そうだ!
僕の逃げ足の速さを極限まで強化した結果覚醒した新たな能力だ!」
ヨタは歯を食いしばった。
「僕は最強の白金の飴の超越能力者!
たかが銀の飴の最弱の能力者一人に勝てぬ訳がない!」
ヨタは再び時間停止した。そしてライフルを放った。タイムロックが解除され、冬彦三はまた瞬間移動で避けた。
これがしばらく繰り返された。
ヨタはミッキーとは逆に道具に頼り過ぎた故に、能力を伸ばすのを怠ったのだ。最初から強力過ぎる能力だった故に、それ以上能力を伸ばそうという発想に至らなかったのが大きな誤算である。
一方で、冬彦三もヨタのすぐそばに瞬間移動できれば時間停止の弱点を付けたのだが、覚醒したばかりの能力故に、意中の場所に思うように移動場所をコントロールできないのだ。
「くそおおお!!!僕は生まれ変わったんだ!!!昔とはちがーう!!!」
「僕は異世界から転生したんだ!偽の生まれ変わりと本物の生まれ変わりの違いを見せてやる!」
お互いにお互いの能力の弱点を付けない能力同士の対決故に時間停止しては瞬間移動で避けるというループが発生した。
このループをしばらく繰り返した後、ヨタは悟る。
「時間停止と瞬間移動では決着が付かない」
「そのようだな」
「能力の差は互角
ならば肉体の実力こそがその勝敗を分ける!」
「えへへへ
肉弾戦か。良いだろう!」
二人は互いの合意で肉弾戦に切り替えた。
ヨタは両手で殴りかかった。超越能力でマシンガンのようなパンチを連打した。手が数十本に見える速さの連撃である。
しかし、冬彦三は全て両手で受け流した。
さらに激しい肉弾戦が続いた。ヨタが終始優勢で、冬彦三は少し押されている。ヨタの攻撃は形容するなら、「弾丸の様に舞い、ドリルの様に刺す」である。弾丸の様に跳ぶヨタはドリルのような鋭い拳でパンチを繰り出した。冬彦三は何とか直撃は避けるが、全く反撃の目途が立たない。冬彦三は防戦一方だ。
しかし、突然冬彦三が逃げ出した!
「敗走する気か!?」
「まさか!
間合いを取っただけだよ」
冬彦三はペットボトルを取り出し飲んだ。
「こうならりゃドーピングだ!
よく聞け!今飲んだのはアメリカ最強の栄養ドリンクを改造したものだ!
肉体を強化する能力を応用し、僕の能力で肉体を強化する液体を生み出して、アメリカ最強の栄養ドリンクと調合したのだ!
さらにそれを道具を強化する超越能力で二重に強化したのが今飲んだ最強の薬だ!
名付けて、『禁忌の飴ドリンク』だ!!!
これでパワーアップできる!」
「ほー
超越能力にはそんな使い方もあったのか」
ヨタは冷静である。冬彦三の話を聞いても平然としているのは、ヨタはまだ余力をのこしているからだ。
「ならば僕も本気を出さねばなるまいな!
昔とは違うという事を見せてやろう!!」
冬彦三とヨタは再び激突した!
ヨタは跳び上がり、両手で手刀を連発し、同時に両足でキックも連続で繰り出した。
冬彦三も跳び上がり、中指と薬指で親指を挟んだ拳のオリジナルパンチと両足でキックを連打し対抗した。
二人は木々を跳びまわり、パンチやチョップ、キックを繰り出した。凄まじい速さで、二人しかいないにも関わらず、何百人もが飛び交っているかのように残像が跳び回っている。あまりの速さゆえに、その残像も人型を留めておらず、球状のシルエットになっている。まるでフローリングの狭い密室で数百個のスーパーボールが跳び交っているかのようである。
勝負は完全に互角である!その実力は完全に拮抗している。
まさに実力伯仲!お互いに一歩も引かぬ攻防戦。五分五分の戦いだ。
「あちょー!!!あちょちょちょちょちょちょ!!!!」
「あちょー!あちょー!あちょぉ――――――っ!!!」
目にも見えぬ速さで激しい打撃のラリーが繰り広げられている。ヨタがチョップを繰り出せば冬彦三もチョップで返し、冬彦三が右ストレートを繰り出せば、ヨタは左ストレートでカウンターするのである。さらに片方が右足で蹴ればもう片方は左足で蹴るのだ。
お互いに一歩も引かない。しかし、お互いに全くダメージを受けていない。
二人は木々が根こそぎ吹きとばされる勢いで跳び回った。木々は吹き飛び、地面は紙のように裂けた。
「面白―い!
なかなかやるな!」
「流石アメリカ最強の薬だな
自分でもここまでパワーアップできたのは驚いているぜ!」
さらに激しい二大激突が続く!文章では書き起こせない程の速く激しい肉弾戦繰り広げられている!!
凄まじい激突のし合いの影響で、アジアで大地震が発生した。震源は勿論この二人である。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!たああああああああああああああ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!わったああああああああああああ!!!」
二人とももはや反射のみで戦っている極限状態である。
お互いにダメージはないが、二人とも疲労が見えてきた。
二人は次第に息切れしてきた。
「ちょっとタイム」
冬彦三が一息ついた。真剣な殺し合いであるにも拘らず、試合であるかのようなタイム宣言にヨタは驚く。
「何だと!?タイムとはどういう事だ!?」
「お前に引導を渡すための準備をするって事さ」
冬彦三はまたペットボトルを取り出した。
「『禁忌の飴ドリンクDX』だ!
たった今完成した!
今のバトルで得た経験を元に禁忌の飴ドリンクをさらに強化したのだ
これを飲めば白金の飴の能力者をも超えるウルトラ超越能力者になれるはずだ!」
「させるかああああああ!!!」
ヨタは冬彦三の手を払った。冬彦三は反動で禁忌の飴ドリンクDXを地面に落としてしまった。ヨタはそれをすかさず拾って距離を取りながら口にした!
「しまったあーーーーー!!!」
ゴクン!
ヨタは禁忌の飴ドリンクDXを飲み干してしまった。冬彦三は酷く焦る!
ヨタは勝利を確信した表情になった。
「ほじっしっしっしっしっしっしっし~!!!!僕の勝ちだ!」
「キ、貴様、き、汚いぞ!僕が作った薬なのに!」
「ドーピングにキレイも何もあるか!」
「ぐ…!」
「さぁ!今度こそ終わりだ!!!」
しかし、ヨタの様子がおかしい。
「なんだ!?どうなっているんだ…?く、苦しい……」
ヨタは悶え苦しんだ。
「や~い!引っかかった!引っかかった!
2つ目の薬はフェイクだよ~!」
「2つ目の薬は毒薬だったのか……!!!」
「ご名答!気付いた時にはもう遅い!」
「こんな…バカな……」
「僕は東大の薬学科を先攻していてね。劇薬は簡単に手に入る
超越能力を使えば劇薬をこっそり持ち出すことは意図も容易かった
お前の言う通り、強力な武器は非合法で手に入れた訳だ
切り札は非合法で手に入れたのさ
劇薬を超越能力で強化し即効性の毒薬にし、疑われず飲み干すように超越能力で美味しくしたジュースに混ぜた訳だ」
「こんなギャグマンガみたいな倒され方ってあるか……!」
「勝敗を分けたのは、己の肉体の実力だけではなく、知力の差だったな」
「こんなの面白くない…!」
冬彦三はほくそ笑んだ。
「お前の計画には穴がある
お前の過去を最も知る人物を消していないじゃないか
お前自身だよ。お前自身が居る限り、お前の計画は達成されない
お前の計画を完璧なものにしてやるよ」
ヨタは悶絶していて反応がない。ヨタはそのまま体中に毒が回り、死んでしまった。
「面白―い」が口癖だったヨタの断末魔が「こんなの面白くない」だったとは、凶悪事件を巻き起こした狂人に相応しい滑稽な最期だった。
「よかったじゃないか。お前の計画は完全に達成されたよ
もうお前の過去を知る者は誰も居なくなった。正真正銘ただ一人も、な」
冬彦三はヨタの死体を暴力団に引き渡すために圧縮してリュックに詰めた。
そして、ふと空を見上げると虹がかかっていた。
「黒鈴…
お前の仇も討ったぞ…」




