4章 聞き込み開始
被害者の個人情報は伏せられていたが、この連続殺人事件は連日のように報道され、「テコの原理で岩を飛ばしたのではないか」「複数のドローンを使って岩を落としたのではないか」「数人がかりで岩を投げたのではないか」などとテレビなどのマスメディアが取り上げ、様々な憶測を呼んだ。
警察やマスメディアの多くは常人の犯行だと推理していたのだ。しかし、黒鈴と冬彦三は違っていた。
超越能力者が実在すると知る者だからこそ、超越能力者の犯行だと断定したのである。
黒鈴と冬彦三は集めた情報を整理した。
被害者についての情報である。
「共通点は全て2年生って事ね」
「他には特に共通点はなさそうだなぁ」
二人は被害者の情報を纏めた紙をホワイトボードに張り出している。二人は張り出された紙をにらめっこの様に見つめ何度も読み返した。
被害者の情報は以下の通りである。
・庭塚豪
魔理根高校出身。冒険サークル所属。趣味:ネットサーフィン。 第七の被害者
友達は少なく冒険サークル以外の人間関係はない。
髪は茶色に染めていて、ピアスもしている。
・木矢利井チャン
小南高校出身。所属サークルなし。趣味:カラオケ 第二の被害者
1浪して入学。同性の友達は多い。
ベリーショートで太っており、目は小さく黒ぶちの丸メガネをかけている。
・珍義酢寛
遊戯高校出身。所属サークルなし。 趣味:特になし 第一の被害者
1年生と2年生で1年ずつ、2年留年。友達は居ない。
髪は天パのショートヘアで、顎がしゃくれており、鼻の下には大きなコブがある。
・虹村我苦斗
バザール高専から編入(3年生だが実質2年次編入なので2年生扱い)。音楽サークル所属 趣味:バンド 第五の被害者
男女ともに友達が多く、交友関係が広い。
ボウズ頭の小太りで、目はギョロっとしていて人中が濃く猿のような顔をしている。
・出川アキ子
吉本高校出身。漫画研究サークル所属。趣味:遊戯王・MTG 第三の被害者
男女ともに友達が居るが交遊関係は狭い。友達は殆どサークル仲間。
ボブカットの長身でスレンダーなやせ型であるが、糸目で鼻フックしているかのような大きな鼻の穴で、吊り上がった鼻をしている。
・馬蚊門太
ミリオネア高校出身。クイズ研究サークル所属 趣味:クイズ 第四の被害者
男友達は多い。他校の学生との交友関係も広い。
パーマをかけた髪は肩まであり、ガリガリでネズミのような顔をしている。
・貝利木あかね
乱馬高校出身。お笑いサークル所属。 趣味:なし 第六の被害者
友達は殆どいない。無口でシャイな性格。
ショートヘアで髪は金髪に染めており、顔はニキビとそばかすで覆われている。
「見た感じ出身校もサークルもバラバラで特に共通点はないわね」
「被害者同士に交友関係は特になかったらしい」
「まさか、無差別に襲っているのかしら?」
「通り魔的犯行か。ならば2年生だけを狙うのはなぜなのか…」
二人は犯行動機を見いだせなかった。また、被害者の共通性も見つけられなかった。操作は行き詰っていた。犯人像が全く思い浮かばないのである。
「多分、犯人も2年生だと思う」
「そうね。私もそう思うわ」
「よし!2年生に聞き込みを開始してみよう!」
「お互いに情報を共有できるように録音しながら聞き込みをしましょ!」
二人は二手に分かれて聞き込みを開始した。
冬彦三は、部室の近くのラウンジにいた碁戸市シンジに聞き込みを開始した。
シンジは典型的ながり勉くんのような風貌だった。今も暗記カードを使って必死に何かを覚えている。勉強中にちょっと悪いなとは思ったが、冬彦三は単刀直入に被害者について質問した。
「なあ?殺人事件の被害者について何か知らねえか?」
「事件自体は知っているけどさ。顔も名前も誰一人知らないな」
シンジは勉強中にも関わらず快く答えてくれた。シンジは冬彦三の質問に受け答えしながらも勉強を続けた。ながら勉強も得意なシンジならではの会話の仕方である。
「じゃあ犯人について心当たりは?」
「加瑠戸改字じゃないかな?彼は海外の暴力ドラマや暴力ゲームが好きだしな」
「改字とは親しいのか?」
「高校が同じで3年の時にクラスメイトだっただけで俺は別に親しくない
彼は見た目通り力も強いし岩を遠くから投げ飛ばせるだけの腕力があるんじゃないか?」
冬彦三は次に、加瑠戸改字に話を聞くことにした。改字はボディービルサークルに所属しているのですぐに探せたのである。改字はボディービルサークルの部室で腕立て伏せをしていた。
改字は色黒でボディービルダーのようなマッチョである。
「殺人事件の被害者について何か知っているか?」
「ふはははは、探偵ごっこかい?」
改字は筋トレを止め、バカにしたように聞き返した。冬彦三は憤怒した。
「親友が殺されたんだ!!!」
「おっと、それは失礼。僕も友達を殺されたよ
そこまで親しかったわけじゃないが、我苦斗とは何かも話したことがあるよ。昼食も何回か一緒に食べた」
「他の被害者については?」
「顔も名前も知らないなぁ」
「虹村我苦斗はなぜ殺されたと思う?」
「さぁ?結構うざったい性格だったからねえ」
改字は虹村我苦斗と面識はあったものの親しくはないようでむしろ嫌っている様子だった。
改字はそう言いながらスクワットを始めた。改字は毎日欠かさず、腕立て伏せ・腹筋・スクワットをそれぞれ1000回ずつ行い、さらにマラソンを毎日1km走る程、体を鍛えているのである。
「犯人について心当たりはあるか?」
「ないね。我苦斗は色んな人から嫌われていそうだが、殺したいほど嫌っている人はここには居ないだろう」
冬彦三は近くを歩いていた苦疎辺ミッキーにも話を聞いた。
ミッキーは学年一の美青年だった。しかし、ナルシストという訳ではなく、自分の美しさを鼻にかけない、いけ好いた性格の好青年だった。
「殺人事件の被害者について何か知っているか?」
「顔と名前しか知らない。珍義酢寛・木矢利井チャン・出川アキ子・馬蚊門太・虹村我苦斗・貝利木あかね・庭塚豪の七人だろう?」
ミッキーは被害者の顔と名前だけは全員知っている様子だった。冬彦三は感心した。
「よく知っているね」
「まぁね」
「被害者たちはなぜ殺されたと思う?」
「さぁね」
ミッキーは被害者たちの顔と名前は知っていたが、特に交友関係は無かった。
「犯人について心当たりはないか?」
「そうだね。臼木龍壱じゃないかな」
「なぜそう思うんだ?」
「何となく」
冬彦三は次に、臼木龍壱に話を聞く事にした。臼木龍壱は学生ホールに座っていた。彼はこの時間にいつもここでお菓子を食べているため、ちょっとした有名人になっていた。今日もやはりおやつをポリポリと食べていた。
臼木龍壱は若ハゲの薄毛気味で、かなり太っている。
「殺人事件の被害者について何か知っているか?」
「門太は知っているが他の被害者は顔も名前も知らないなぁ
被害者については顔も名前も報道されていないからね」
「馬蚊門太とは親しかったのか?」
「1年生の頃からの付き合いだよ。門太の家にも何度も行った事もあるし、門太も何度も家に来た事がある」
龍壱は寂しそうに答えた。門太とはかなり親しかった様子だ。門太を失ったショックで相当落ち込んでいるのだった。
「馬蚊門太はなぜ殺されたと思う?」
「顔は悪いが性格も頭も良かったし、人の恨みを買うような人じゃなかったよ。殺される理由がない」
龍壱は強く力説した。龍壱は門太の事が本当に好きだったようだ。
「犯人について心当たりは?」
「さっきも言ったが、門太を恨んでいる人なんて絶対いないよ」
龍壱はそう断言した。かなりの自信である。そうなるとますます犯行動機が不明になってくる。
「ちなみに苦疎辺ミッキーとは親しいのか?」
「誰だい?それ」
このように冬彦三は次々と聞き込みを続けた。