ノートとシャーペンの擬人化百合
「ねえ、ノート」
「ん? なあにシャーペンちゃん」
シャーペンちゃんがいつになく真剣な表情で、私に迫ってきた。
「私ノートのこと……、好きかも」
「えっ!?」
シャーペンちゃん!?
何を言い出すの急に!?
「ダ、ダメだよ! 私達は、女の子同士なんだよ!?」
「だったら何? 女が女を好きになっちゃいけないって、誰が決めたの?」
「そ、それは……」
そうだけど……。
「人が人を好きだと思う気持ちに、性別は関係ないはずよ」
「う、うん……?」
あまりのシャーペンちゃんの迷いのない眼に、私もちょっとだけ「そうなのかな?」という気になってくる。
「だからお願い。ノートに――私の芯で字を書かせて」
「ええっ!!?」
そう言うなリ、シャーペンちゃんはカチカチと芯を出してきた。
「ちょ、ちょっと!? ダメ! ダメだよこんなところで!?」
「そんなこと言わないで。私もう……我慢できないの」
「シャーペンちゃん……」
シャーペンちゃんは切なそうな顔で、私を見つめてくる。
そ、そんな顔されたら……、私……。
「ね? お願い」
「ふえ!?」
私はシャーペンちゃんに押し倒されて、ペラリと一枚ページをめくられてしまった。
「ああッ! は、恥ずかしいよぉシャーペンちゃん! そんなところ見ないでッ!」
「フフ、大丈夫。ノートの一ページ目、真っ白でとっても綺麗だよ」
「シャ、シャーペンちゃん……」
「……じゃあ、書くよ」
「シャーペンちゃん!? 待って――あぁッ!!」
シャーペンちゃんは慣れた手つきで、私に芯を這わせてきた。
シャーペンちゃんの芯が触れた箇所は、摩擦熱でじわじわと熱を帯びた。
ああ……熱い。
熱いよ……シャーペンちゃん。
シャーペンちゃんが私に書いたもの――それは、『好き』という文字だった。
「シャーペンちゃん……」
「ね、わかったでしょ? 私はあなたが、好きなの」
「うん……、私も」
「え?」
「私も……、シャーペンちゃんが、好き」
「っ! ノート!」
「シャーペンちゃん」
こんなに真っ直ぐで熱い想いを書き綴られたら、私もシャーペンちゃんのこと、好きになっちゃうよ。
「ノート! ノート!」
「シャーペンちゃん。シャーペンちゃん」
「いいよね? もっとノートに、私の気持ちを書きなぐってもいいよね!?」
「うん……、いいよ」
「ああ、ノート! ノートォ!」
「あああッ! シャーペンちゃあぁん」
シャーペンちゃんは一心不乱に、私に『好き』という文字を書き連ねた。
ああ――シャーペンちゃん。
シャーペンちゃん。
――好き。
私もシャーペンちゃんが好きだよ――。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
「ふぅ……、ふぅ……、ふぅ……」
気が付けば、私のページはシャーペンちゃんの『好き』という文字で埋め尽くされていた。
シャーペンちゃんの芯の匂いが、私を包み込んでる……。
私はシャーペンちゃんの愛をページ中で感じて、天にも昇る気持ちだった。
「フフフ、ノート」
「ふえ?」
シャーペンちゃんの眼が、妖しくギラッと光った。
「まだ終わりじゃないわよ」
「え? それって……」
そう言うとおもむろに、シャーペンちゃんは私のページをめくった。
「シャ、シャーペンちゃん!?」
「まだまだあなたの空白ページは残ってるでしょ? あなたの全てを、私の文字で埋め尽くしてあげる」
「シャーペンちゃん……」
どうやら私達の書き初めは、まだ始まったばかりらしい。
~fin~