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新たな仲間

 沢山の兵士が周りを囲む真っ赤な絨毯の上、黒と青は肩を並べて玉座に座る金色を見つめていた。金色の隣に居座るのは近衛師団団長。


「では、本当に二人で行くのか?」


「はい。それが一番よろしいかと」


 ゆっくりと口を動かしたヴァルゼルフの問いに答えるのは、青の賢者シェリス。空の様に青いローブに包まれたシェリスは、血の様に赤い絨毯から玉座を見つめる。


「確かに大人数でない方がいいのは判る。それでも二人と言うのは……」


 心配気な声を出したヴァルゼルフの、太く立派な眉は若干下がっていた。


「陛下もクレスさんの力は分かったはずです。それに私はこれでも賢者、そう簡単には死にません」


 力強くそう言ったシェリスの瞳に浮かぶのは、決意。そして、隣に居座る黒き剣士の真っ黒な瞳にもそれは浮かんでいる。

 玉座に座るヴァルゼルフは二人を見つめ小さくかぶりを振ると、大きな溜め息を吐いた。それが表すのは呆れに近い感情。


「ならばお主ら二人に、託して良いのだな?」


「お任せ下さい」


 シェリスはそう言って頭を下げる。隣にいたクレスもそれに倣って頭を下げた。


「その言葉を信じるとしよう」


 ヴァルゼルフはそれだけ言うと、隣に立つギルバートに視線を移した。


「ギルよ、二人に馬をやれ」


「かしこまりました」


 ヴァルゼルフはその返事に満足すると、玉座から立ち上がる。立ち上がった王が放つ存在感と威圧感に、自然にクレスとシェリスの背筋が伸びた。


「水の賢者シェリス=ミアルタ、予言の戦士クレス=バーキンス……」


『予言の戦士』、クレスはその言葉に一瞬顔を歪めた。


「はい」


 クレスとシェリスは揃って返事をする。王はその返事に笑顔を浮かべると、広い謁見の間の隅々まではっきりと聞こえるであろう大きな声を出す。


「死ぬことはこのわしが許さん!! 生きて帰れ!!」


 二人はその言葉に力強く頷くと踵を返す。王は二人にそれ以上は告げなかった。


 二人が歩き出した瞬間、赤い絨毯を囲んでいた沢山の兵士達が胸の前で構えた剣を一斉に頭上に掲げる。沢山の鎧が擦れる音が謁見の間を支配した。


 その中をクレスとシェリスは静かに進む。二人の目に宿るのは決意だった。




「どの馬がよいかな?」


 クレスは迷っていた。眼前には沢山の馬。どれも毛並みが良く、何れも賢そうな顔をしていた。


「難しいな……」


 顎に手を当てながら悩むクレスを見て、ギルバートは笑みを浮かべる。その隣では、シェリスが何とも言えない表情を浮かべていた。


「どの子でもいいんじゃないですか?」


「そうはいかないだろ」


 ぶっきらぼうなクレスの発言に、シェリスは少し顔を歪めた。


「……何でですか?」


「馬にだって色々あるんだ」


 クレスは喋りながらも馬を眺める。シェリスの方には一切顔を向けない。

 そんなクレスを見てか、シェリスは一度眉間に皺を寄せると、勝手にして下さい。と小さく呟いた。


 クレスが沢山の馬達から目を離しシェリスに視線を移した所で、ふと、あるものを見つけた。見つけたのは少し離れた所にある小さな小屋。


「ギルバートさん、あの小屋は?」


「あぁ、アレはちょっとわけありな小屋でな」


 ギルバートは真っ白い髭を撫でながら、何とも言えない表情を浮かべた。だがその表情は、クレスを見つめると何故か楽しそうな表情へと変わる。


「行けばわかるじゃろう」


 ギルバートはそう言って歩きだす。その足が向かうのはわけありと言われた小屋。

 クレスは怪訝な表情を浮かべながらギルバートを追う。そしてシェリスがその後に続いた。




 木が軋む音と共に、小屋の扉がギルバートの手によって少しずつ開き始める。両開きになっている扉から察するに、多分馬小屋なのだろうと考えながら、クレスは扉が開ききるのを見守った。


「なっ!?」


「うわぁ……」


 扉が開いた瞬間にクレスが驚きの声を、シェリスは感嘆の声をあげる。その二人の反応に、扉を開いたギルバートは顔に走る沢山の皺を深めた。


 扉の先にいたのは真っ白な体をした大きな生き物。毛並みが良く賢そうな顔をしたそれは、自分とは全く違った色を持つクレスをつぶらな瞳で見つめていた。


「何でこいつが……」


 クレスはそう呟くと、ギルバートを見つめた。


「半年程前かな、近くの森で怪我していたのを保護してな」


 クレスはその言葉に小さく頷きながら、それの額に生えた物へと視線を移す。

 額から生えた物こそが、それが馬ではないことを示している。馬と同じ体を持ち、額から角が生えた生き物。


「……チェバリス」


 クレスがチェバリスと呼んだそれは、創造主の使いと呼ばれる生き物。乱獲が原因で今では見る事が奇跡とまで言われる生き物であった。


「初めて見ました……」


 シェリスの言葉にクレスが深く頷く。話に聞いた事はあるが、クレスも実際に見た事はなかったからだ。


 クレスは知らぬ間にチェバリスに惹かれていた。チェバリスが持つ美しさは、正に創造主の使いと言いたくなる程の美しさ。それは気品とまで呼べるだろう。


「怪我は治ったんじゃが森に帰りたがらなくてな。しかも、誰であろうと背に乗せん。困っているんじゃよ」


 ギルバートがそう言っている間にも、クレスはチェバリスに近づいていた。そして、その真っ白な身体に手を伸ばす。


「クレス!! 迂濶に手を出すと角で」


 一突きにされるぞ。と言うはずだったギルバートは目を見開いた。

 ギルバートや国王でさえ身体に触るだけで一苦労だったチェバリスに、クレスはすんなりと触ったのだ。更には、チェバリスがクレスに顔を擦り寄らせている。


「何と……」


 ギルバートは口を開けながらその光景を見つめた。

 いつの間にかギルバートの隣にいたシェリスは、その光景を見ながら笑顔を浮かべている。


「創造主の使いに、創造主から予言された戦士、最高の組み合わせですね」


 シェリスの言葉に、ギルバートは口を閉じ納得の表情を浮かべた。そして、対照的とも言える黒と白を見つめる。


「流石は創造主がお選びになった者ですな」


 ギルバートはそう言うと、顔に刻まれた沢山の皺をより一層深くした。


「ギルバートさん。決めたよ、コイツがいい」


 黒き剣士が選んだのは、自分とは対照的までに白いチェバリス。

 青い空の下、響く声には喜びが含まれていた。


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