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『最強最弱』対『戦神』

 訓練所の空気が張り詰める。まるで時が止まってしまったかの様に、全ての人間が息を、瞬きをするのを忘れていた。

 その中心に居座るのは五十歳を過ぎてもまだ圧倒的存在感を持つ金色と、精霊に愛されなかった黒色。二人の間に流れる空気は、今だけなら、おそらく世界中の何処よりも重い。


「わしは魔術を使わん」


 唐突にそう言ったのは『戦神』ヴァルゼルフ。その顔には笑みが貼り付いていた。


「ハンデはいりません」


 その言葉に答えるのは『最強最弱』クレス。その黒い瞳に映るのは、最強の金色。


「ふむ。怪我をしたお主相手に魔術は使えんよ」


 瞬間、時が止まっていたかに思われた兵士達が騒ぎだす。その兵士達の顔に浮かぶのは驚き。近衛師団である銀髪の槍使いを倒したクレスが、怪我をしているとは誰一人思っていなかった。


「……気づいていたんですか?」


「わしの目を甘く見ないでもらいたいな」


 そう言って笑うヴァルゼルフ。笑みを浮かべているが止まない威圧を肌で感じ、クレスの切れ長な目が鋭くなる。

 そこでヴァルゼルフが、ギルバートへと目をやる。ギルバートは自身の君主の言いたい事を察すると、右手を高々と挙げた。


「始め!!」


 ギルバートの声が響くと同時にクレスが動く。

 自分より明らかに格上のヴァルゼルフに、先手を取らせるわけにはいかない。下手をすればそれだけで決着が着きかぬないのだから。


 クレスは一気にヴァルゼルフとの距離を詰めると、力任せに大上段から剣を振り下ろす。


 その一撃がヴァルゼルフを捉える事は無い。ヴァルゼルフがクレスの振り下ろしに合わせる様にして、剣を振り上げた。


 訓練所に、木と木がぶつかり合う甲高い音が響き渡る。


 互角に見えた初撃だが、クレスの腕は痺れていた。ヴァルゼルフの力はクレスが昨日闘った、オルグのそれに近い。

 クレスにとって剣を弾かれなかっただけ、まだ幸運だった。


 痺れが取れるまで打ち合いを避けたいクレスは、バックステップで距離を取ろうとする。だが、眼前に立つ金色はそれを許さない。クレスのバックステップに合わせる様に踏み込むと、強烈な突きを放つ。


 あまりの速さに一瞬驚いたクレスだが、身体を捻る事でその突きを紙一重でかわす。だがかわした瞬間、クレスは凄まじい殺気を感じた。

 即座にヴァルゼルフの剣と、自身の身体の間に剣を滑り込ませる。


 驚くべきことに、ヴァルゼルフは突きを放ったままの体勢から、凄まじいまでの横払いを仕掛ける。

 腕が伸びきったままの状態から放たれたそれは、轟音と共にクレスを剣ごと吹き飛ばした。


 クレスはその身を床に叩きつけられると、くぐもった声を発する。だが、身体を二、三回転させると飛び跳ねる様に起き上がった。


(直で当たれば肋骨がいかれてたな……)


 立ち上がったクレスは、肩で息をしながらもヴァルゼルフの追撃を警戒する。

 だがクレスの予想とは裏腹に、ヴァルゼルフからの追撃はなかった。


「今のを防ぐとは、やりおるな」


 そう言うと、ヴァルゼルフは笑みを浮かべながらクレスを見つめる。


 クレスに芽生え始めた新たな感覚、それが無ければ今の一撃でこの闘いは終わっていただろう。

 クレスは昨日闘ったオルグに感謝をしながら呟く。


「規格外が……」


 クレスの呟きはヴァルゼルフの耳には届かなかった。

 クレスは一度服に付いた埃を払い足に力を込めると、ヴァルゼルフに向かい駆け出した。

 ヴァルゼルフは口角を吊り上げながらクレスを迎え撃つ。


 ヴァルゼルフの目前まで迫ったクレスは、走った勢いを乗せ突きを放つ。その突きは今のクレスが出せる最速の突き。スピードと体重、そして力を全て乗せた神速とまで呼べる突き。


 そんなクレスの突きは『戦神』には届かない。

 ヴァルゼルフは目前まで迫った突きを、下から一気にかち上げたのだ。甲高い音を立てて弾かれるクレスの剣。


 その瞬間クレスに大きな隙が出来る。ヴァルゼルフがそれを見逃す事はなかった。

 ヴァルゼルフはクレスの剣をかち上げた動作に連続して、大上段に剣を構える。


(……予想通り)


 クレスは自分の突きが弾かれるのを予想していた。そして自分に隙が出来た瞬間に、ヴァルゼルフが動く事も。

 ヴァルゼルフが大上段に剣を構えて振り下ろす瞬間に、クレスは右足を振り上げる。


 それはヴァルゼルフの顎を的確に狙った蹴り。バランスを崩したクレスからは、考えられない程に綺麗な蹴りだった。


 だがその蹴りも当たる事はない。ヴァルゼルフはほんの少しだけ上体を反らす事でクレスの蹴りを避ける。


「やるな小僧!!」


 クレスの右足が目の前を通り過ぎるのを見送ると、ヴァルゼルフは金色の瞳を細め口角を吊り上げる。


 その顔は一国の主として慕われる王の顔ではなく、戦場で最も恐れられた『戦神』の顔だった。


 右足を避けられる事はクレスの予想の範疇だった。

 クレスは右足を振り切るとその勢いを利用して身体を反転させると、両手をレンガで敷き詰められた床に突く。そして逆さまの状態から左足を突き上げた。


 クレスの左足が空気を切り裂きながら、ヴァルゼルフの顔面めがけて走る。


 それを見たヴァルゼルフが、顔の前で腕を交差させる。その交差させた腕にクレスの左足が突き刺さった。

 蹴りを受け止め、ヴァルゼルフの体が初めて揺らぐ。


 それを見たクレスは素早く体勢を立て直すと追撃に出た。

 下段に構えた剣をヴァルゼルフの右脇腹めがけ斜めに振り上げる。


 体勢を崩していたヴァルゼルフは、クレスの剣が避けられないと見るや右腕に持った剣を振り下ろす。


 ヴァルゼルフが狙うのは、相討ち。相討ちと言えど、それはクレスにとっては致命的な一撃になりかねない。


 避けなければ間違いなくやられる。だが、クレスは振りだした剣を止めない。今止めたとしてもヴァルゼルフの剣を避けるには手遅れだと悟っていた。


(やるしかない!!)


 クレスは決意を固めると、獣の様に咆喉をあげる。そしてヴァルゼルフの脇腹に、持てる力の全てを乗せた一撃を叩きつけた。

 その一撃はヴァルゼルフの脇腹に突き刺さると、鈍い音を立てた。


 その一撃を叩きつけた瞬間、クレスは自分の左肩に凄まじい衝撃を感じる。


 それは『戦神』が放った一撃。まるで天からの雷。


 圧倒的な衝撃と痛みに、クレスの意識はそこで途切れた。


「クレスさん!!」


 床にうつ伏せに倒れたクレスに、最も早く駆け寄ったのは顔を真っ青にしたシェリスだった。汗が滲んだ手でクレスを抱き起こすシェリス。


「陛下!! やり過ぎです!!」


 そう言ったシェリスに睨まれたヴァルゼルフは、まるで悪戯が見つかった子供の様な表情を浮かべる。


「すまん。ついつい血が騒いでな」


「ついついじゃありません!!」


 兵士達は唖然としていた。自分達の主が、賢者とは言えどまだ若い一人の女性に怒られている。その光景は、兵士達の時を止めるには充分過ぎた。


「ぅ、ぐ……」


 その兵士達の時を再び進め始めたのは、一国の主が漏らした呻き声。


「陛下大丈夫ですか?」


 低く力のある声がヴァルゼルフにかかる。声の主はギルバートである。


「肋骨を数本持っていかれたかもしれん」


 ヴァルゼルフの言葉に、周りにいた兵士達がざわつく。だがギルバートだけは、一人満面の笑みを湛えていた。


「それはよかったですな」


「全くだ」


 隣で二人の話を聞いていたシェリスは首をかしげていた。怪我をしたというのに、ヴァルゼルフとギルバートが喜んでいるからだ。

 そんなシェリスを見てか、ヴァルゼルフは金色の瞳を細めると口を開く。


「久しぶりなんじゃぞ、わしに手傷を負わせた輩は」


 シェリスはその言葉に、自然と頬が緩んでいた。自分が信頼するクレスが認められたことが素直に嬉しかったのだ。


「よかったですね。クレスさん」


 優しさが溢れる声でそう言うと、シェリスは自身の白い手で、意識の無い黒き剣士の真っ黒な髪を優しく撫でた。

国王様少しばかり強すぎましたね(笑)

まぁ戦神と言われる程ですから、クレスじゃ歯が立ちませんよ。


物語はまだまだ序盤、さぁさぁ今後どうなるのか!?

どうなるんでしょ(汗)

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