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87.アイリスの白ばら

◆10日後の11/12に『見習い錬金術師はパンを焼く』の1巻が発売されます!よろしくお願いいたします!

 ・活動報告にて、【共通特典の配布店舗さま】についてお知らせします。

 ・活動報告にて【人物紹介イラスト】を公開します!

*どちらも公式サイトにて公開済み **活動報告は上↑の作者名から見に行ってください

◆『王女の野ばら』→『王女の白ばら』へ変更しました

「……そう、です……か?」


 でも、そんな危険な場所だと聞いてしまえば心配になって当然だ。


「何度か行ってるしね。ほら、こうして無事に帰ってきてるけど……それでも心配?」

「し、心配……です、けど……!」


 ――ち、ちか……い!

 レッテリオさん、やっぱり距離感が……近い……っ!!


 あ、レッテリオさんの蒼い瞳に自分が写っているのが見える。

 触れられている頬がじわじわと熱くなってきてしまう。


「レッ……」



「にゃにゃ~~! すごいにゃよ~!」



「えっ!?」

「……ルルススくん?」


 先を行っていたルルススくんの声だ。

 にゃよぉ~よぉ~よぉ~……と、声が反響している。これ、多分心配はいらないと思うけど、でも気になるし見に行った方が……うん。どう考えてもちょっと心配だ。

 興奮しすぎたルルススくんには森の洞窟での前科があるのだから!


「アイリス、ちょっとここで待ってて」

「え?」

「俺が見てくるよ」


 レッテリオさんは私の頰からそろりと手を離すと、ちょっと笑ってもう一度言った。


「動かないで、ここで待ってて」

「は、はい」



 レッテリオさんの後ろ姿を見送って、私はペタンとその場にしゃがんだ。


「……はぁ」


 私はほんのり熱い頰を、今度は自分の両手で挟み込んだ。



 ◆



 タッタッタッ……と走る足音が響いてきた。

 顔を上げてみると、白の世界に浮かぶ人影は紺色の騎士団服。


「あ、レッテリオさんだ」


 床に座り『簡易調合セット』を広げ磨いていた手を止め、パパパッと収納箱に片付ける。


 最初は緊張して待っていた。でもそのうち頬の火照りも収まり暇になってしまって……ついつい、手持ち無沙汰でたまにしか使わない『簡易調合セット』のお手入れを始めてしまったのだ。


「アイリス、お待たせ」

「いえ、はい」


「ああ、いいよそのままで」


 立ち上がろうとした私を制し、レッテリオさんは私の前で膝をつく。


「本当は迷宮を出てからって思ってたんだけど、アイリスはもう誰かにもらったって言ってたから……」

「え?」


 突然走って行ってしまって、戻ってきた途端に何の話だろう?


「受け取ったってことはもう遅いんだろうけど……祭りの前日祭だけでも一緒にどうかな? って思って」


 スッと、隠していた背中から差し出されたのは『待宵草』――『王女の白ばら』だ。


「わ……すごい。――綺麗」


 輝くような白さの花弁。朝露なんてどこから? と思うけど、花はしっとりと濡れ玉になった雫ががキラキラと輝いている。


「だろう? 魔素が濃いここのは特別なんだ。――で、返事は?」

「あっ、はい。……あ、そうだ、私も!」


 私は慌ててリュックをひっくり返し、エマさんからもらった『王女の白ばら』をレッテリオさんに差し出した。


「えっと、もしレッテリオさんがお仕事じゃなくて先約がなかったら、私とイグニスとルルススくんをお祭りに連れていってくれませんか?」


 ん? とレッテリオさんは目を瞬いた。


「……あれ?」

「……え?」


「ちょっと待って、その花――もらったんだよね?」

「え? ……はい」


「受け取った……んだよね?」

「……え? はい。まあ」


「……アイリス、誰からもらったのか聞いてもいい?」

「エマさんです。あの、商業ギルドで買い取りの受付けをしてた……」


「ああ、あの。……え? どういうこと?」

「え? あの――」


 私は迷宮へ向かう途中、街道でのエマさんとの出来事をレッテリオさんに話した。

 すると……レッテリオさんはがっくりと項垂れた。


「なるほど……。確かに、それは……うん。もらったんだね……うん」

「はい……?」


 ハーッと、レッテリオさんは床に向かって大きな溜息をひとつ。顔を上げ、ちょっとだけ横を向きつつ、私を見て言った。


「あのね、アイリス。『王女の白ばら』の話は知ってるよね?」

「はい」

「うーんと……このお祭りの花はね、一緒に行きたい人に贈るんだ。『王女の白ばら』の話にあやかってというか、それになぞらえてというか……。分かる?」

「…………」


『王女の白ばら』のお話になぞらえて……?

 あのお話で王女は、身分違いの想い人である騎士に言葉にできない気持ちを込めて――。


「……わ、分かりました、いま」


 一気に顔が熱くなり、思わず答える声が小さくなってしまう。

 ああもう、耳まで熱い……! 恥ずかしい……! そっか、私はただの必須アイテムなんだって思って、だから一緒に行く人に用意したよって渡すくらいにしか……!


 ばかなの!? わたし……! 

 そういう詩的な情緒に欠けるというか、お話を聞いても尚『王女の白ばら』を素材の『待宵草』としか見ていなかった……!


 ああもう、目の前のレッテリオさんはクックッとお腹を抱え笑っているし……! でも、悔しいけどこれは笑われても仕方がないかもしれない……!


「ははは! なんだもう……てっきりアイリスは誰かの誘いを受けたのかって思って、はぁ~……」


 ひとしきり笑うと、レッテリオさんはその場にペタンと座った。


「だってエマさん、そんな風に言ってなかったから……!」

「ああ、知らないとは思わなかったのかな? それとも素直なアイリスをはめたのかな」


 レッテリオさんは再びハーッと溜息を吐いて項垂れた。


「……なんか、この前もこんなやり取りしなかったっけ?」

「あ、ツィツィさんの……です、ね」


 ツィツィさんの共同研究の勧誘を、レッテリオさんがプロポーズだと勘違いした()()だ。

 思い出してしまってまた……頬が熱くなる。


「ねえ、アイリス。もう一回やり直すね」

「え?」


待宵祭(まつよいまつり)、一緒に行ってくれませんか?」


 レッテリオさんはもう一度、白い野ばらを差し出した。


 ――そっか、夏祭りって『待宵祭』っていうんだ。本当に『王女の白ばら』のお祭りなんだ。


「……あの、イグニスとルルススくんも一緒でも……いい、ですか?」


 そんな意味だと聞いたのに、こう返すのは失礼だろうか? でも二人とも一緒に行きたがってたし、わ、私だって……急にそんな意味だって聞いても、ちょっとよく分かんないし……!


「勿論。みんなで行こう」


 にっこり、その垂れ目気味の蒼い目を蕩かすような笑み。


「……レッテリオさん」

「ん?」


「お祭りって三日間?」

「そうだね。前日祭があって、祭りの当日は一日中……夜まで続いて、翌日の後夜祭で終わりかな」


「お店を出したいなってルルススくんと相談してて……」

「ああ、それは前日祭だね」


「出店の他にはどんなイベントがあるんですか?」

「んー色々あるけど………」


 レッテリオさんの耳がちょっと赤い。


「……赤い野ばら。『望月草』になった『騎士の赤ばら』を返すのが、一番のイベントかな」

「ああ、満月を挟むお祭りだからですね」


 待宵草は満月の魔力を浴びて赤くなり、花を咲かせたままその真ん中に実をつけるのだ。


「うん。パートナーから贈られた白ばらが赤く変わったら……何ていうかな、気持ち的にその……実を結ぶというか――」


 沈黙が落とされて、視線が絡んだ。


 ――そうか。

 だから、このお祭りは『王女の白ばら』のお祭りなんだ。


 無事に帰還した騎士は赤ばらを返し、そして――。


 かあぁ……っとまた頬が、首が耳が、全部が熱くなった。


「……えっと……でも、みんなで行くんですよ……ね? お祭り」

「……そうだね」


「アイリス」

「えっ、は、はい」


「赤ばら待ってるよ」


「え……」


「俺はアイリスの白ばら、赤くなるまで大切に持ってるから」


 そう言うとレッテリオさんは、腰のふしぎ鞄から私が渡したサンプルの【スライム容器】を出してその中に待宵草を入れ、鞄へ戻した。


「じゃあ、採取がんばって。俺は探索に行くね」


「あ、は、はい! え、気を付けて行ってきてくださいね! レッテリオさん……!」


 もう、体中が熱かった。

 きっと私……全身真っ赤になってると思う……!



◆書籍情報やイラスト・書影公開などはTwitterが最速です。興味がありましたら見てみてください。

◆感想返信いたしました(11/3 0:40)お返事できない時期もありますが、感想全て拝見しております。恋愛パートがのんびり進んできていますが……感想お聞かせいただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 保存器だと塾さないかも知れないけど、これは数年後でも待ってるよ。ってことなのかな? (花が数年持つとは限らないけど、次の満月くらいなら……)
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