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84.迷宮入口

◆前回のあらすじ……迷宮深部へイグニスを伴い探索に行こう!→祭りを控えたヴェネトス。街道も渋滞→商業ギルドのエマに出会い、祭りの必須アイテム『王女の野ばら』をもらう。お話も聞く

「うっわ……」


 私は思わずそう呟いた。

 迷宮入口――というか、街道から続く小道にまで人が溢れていた。


「すごい人だねぇ~」

「観光客っぽい人も多いのにゃ。採狩人(さいしゅにん)たちとは格好が全然違うにゃ」

「そうだね。こんなに混んでるなんて……ランベルトさんの言ってた通りでびっくり!」


 入り口前の広場に並ぶ露店の数も多い気がするし、観光客だけじゃなく採狩人も多い。迷宮から出てきたばかりの採狩人の中には、依頼主だろう商人にその場で渡している姿も見える。


「きっと祭りで使う素材にゃんにゃろうね! 急ぎの仕事は割がいいのにゃ」

「なるほど。お祭りの時期はみんな稼ぎ時ってことだね?」

「ルルススもお祭りでお店を開きたかったにゃ~!」

「開く? まだ場所があるってエマさん言ってたし……申し込もうか?」

「んんん……でも今はルルススの納得いく品揃えにできにゃいから、ちょっと(にゃや)むのにゃ」

「そっか。じゃあ拠点でお留守番しながら『もし出店するなら何を売るか』一緒に考えない? 私もまだ迷ってるし……」

「そうにゃね!」


 私も出店に興味はあるけど、一人ではちょっと不安だったから……ルルススくんと一緒にお店を出せたらちょっと心強い。


「ねぇねぇアイリス~レッくんたち遅いねぇ~?」


 辺りを飛び回ってきたイグニスの声は「早く迷宮に潜りたい」と言うように、うずうずと弾んでいる。私もルルススくんも楽しみにしていたけど、もしかしたら今回はイグニスが一番楽しみにしているのかもしれない。

 マントはまだもらえてないけど、騎士の一員になった気分でちょっと嬉しそうだったもんね!


「そうだね。レッテリオさんたちは街からだから……渋滞に巻き込まれてるのかも?」

「ありそうにゃ」

「そっか~……」


 今日の待ち合わせ時刻は朝八刻半。そろそろ時間のはずだけど、レッテリオさんたちの姿はまだ見えない。


「あ、そうだ。これ今のうちにしまっちゃおう」


 エマさんからもらった『待宵草』。いくら安全地帯で()()()()だとはいえ、迷宮に潜るのに手に持ったままなのはいただけない。


 私はリュックから【スライム容器(筒形)】を取り出し、その中へスポンと待宵草を挿し入れた。


「あ、思った通り。これいいなあ……」


 この筒形スライム容器はいくつかある試作品のひとつ。

 どんな形や大きさが使いやすいのか、どんな使い方ができるのか、ツィツィ工房と私で現在お試し中なのだ。


「にゃるほど~植物素材入れにはピッタリにゃね! いちいち緩衝材で包んだりしにゃいで済むし、素材が痛まにゃいのはすごくいいにゃ!」

「そうだよね! もっと細くてもいいかもしれないし、もうちょっと短い筒も欲しいかも……?」

「【状態保持】付きのも絶対欲しいのにゃ。あとこっちの四角いのも……意外と使えそうにゃ」

「あ、これ? そうそう、最初は小さすぎるかなって思ったんだけど、小さな実とか細かいものを入れるのによさそうだよね?」

「袋より使い勝手が良いかもにゃ! 試すのが楽しみにゃ~!」


「あっ! きたよ~アイリス~」


 私の遥か頭上で、イグニスがはずんだ声を上げた。


「え? レッテリオさんたち?」

「にゃ、まだ荷物がしまえてにゃいのにゃ」


「レッく~ん!」


 イグニスは嬉しそうな声を残し、そのまま人波を飛び越えお迎えに。

 その間に私とルルススくんは、広げてしまった試作品の【スライム容器】を大慌てでリュックへ仕舞い込む。

 ああもう、『待宵草』を仕舞っていたのに、何故か逆にリュックの中身を広げてしまって話込んでいたなんて! 素材や錬成物の話を始めると止まらない私とルルススくんの組み合わせは……危険かもしれない?




「アイリス? こんな所で荷物広げてどうしたの?」

「レッテリオさん! いえ広げてたんじゃなくて……」

「仕舞ってたのにゃ」


「仕舞ってた? それにしては……ん? なんだそれ、よさそうな入れ物だな」

「あ、バルドさん! そうなんです、これ試作してもらった【スライム容器】なんですけど――」


 料理にも使えそうだとバルドさんと話をしつつ、リュックに『待宵草』の筒を押し込んでいる時だった。何だか視線を感じて私は顔を上げた。


「……レッテリオさん?」

「いや、アイリス今のって……」


 その視線の先はリュックの中……筒?


「これですか? さっきもらったんです。綺麗な『待宵草』ですよね」


 これは切り花だけど、魔石を入れた水に挿しておけばもしかしたら実をつけるかもしれない。きっと赤い花には変わるだろう。いやでも、せっかくの綺麗な白の待宵草だから、このまま白の素材として使うのもいいかもしれない。


「『王女の白ばら』か……へぇ?」


 片眉を上げたバルドさんがレッテリオさんを見て言った。なんだかちょっと、含みがある感じ? ……なんで?


「ヴェネトスでは『王女の白ばら』って呼ぶ方が一般的なんですね」

「そうだな。まぁ、特にこの祭りの時期はな」


「……もらったんだ?」


 あれ、レッテリオさん……何だかちょっと、機嫌悪そう……?

 それにどうしてか、この場に妙な緊張感が漂っている気がする。


「はい。『王女の白ばら』のお話もさっき教えてもらって――」


 …………。あれ?

 エマさんさっき、この花の使い道……何か言ってなかったっけ……?


「アイリス、待たせてすまない! 交代の奴らが……――ん? どうかしたのか?」

「あ、ランベルトさん」


「あれぇ~? レッくんどうしたのぉ~?」


 そう言い、ランベルトさんの頭から顔を覗かせたイグニスの背には……マントが!


「えっ! イグニスそれ!」

「マントだよ~! たいちょーがくれたんだぁ~!」


 片足で立ってクルリと回って見せる。レッテリオさんたちとお揃いのマントは、控えめな光沢のある紺色で裏地は赤。イグニスの紅桃色の体とよく合っている。


「にゃにゃ~! 格好いいのにゃ! いいマントにゃ!」

「イグニス似合ってるよ! ランベルトさん、イグニスに素敵なマントをありがとうございます! こんなにすぐ作ってもらえるなんて……無理させちゃいませんでしたか?」


 きっと特殊な付与効果があるだろう騎士団服だ。管理や縫製を専門にする部署があるだろう。見たところ、イグニスのマントには【付与効果】は見えないけど、お針子さんには無理をさせたかもしれない。


「いや、それが『炎の精霊(サラマンダー)がマントを欲しがってる』と言ったら縫製担当が喜んでな、一瞬で縫い上げてしまったんだ」

「いいマントだよねぇ~! 見て見て! アイリス! ここ~ぼくの名前の刺繍~!」

「ほんとだ! すごく綺麗な刺繍……素敵だね、イグニス!」


「くふふ~!」



 ◆



「あ」


 入り口へ向かう途中、白の『王女の白ばら』の束を運ぶ採狩人たちとすれ違った。

 彼らの会話が聞こえ、私はやっとその使()()()を思い出したのだ。


「この品質なら依頼主も満足だろ!」

「深部は厄介だったけどなぁ~祭り時期だけのいい仕事だよ」

「全くだ。ま、でもいくら見事な『王女の白ばら』を贈ったからって返事はわからねぇけどな? ははは!」


 そうだった! 『待宵草』はお祭りの必須アイテム。一緒に行く人に渡して、当日は髪に飾る……んだったっけ?


 私はチラッと、レッテリオさんの顔を斜め後ろから窺った。

 レッテリオさんにお祭りに一緒に行ってもらえませんか? って聞きたかったんだけど……。なんでかレッテリオさん、さっきからちょっと近付き難い雰囲気っていうか……無口っていうか……。


 私、もしかして何か気に障ることをしてしまったんだろうか? 


「うーん……」


 ルルススくんと荷物広げちゃってた時からだから、それかなぁ? ちょっとだらしなかったかな。それともこれから迷宮だっていうのにはしゃぎすぎだった?


 思い当たるのはそのくらいだけど、それで怒る人とは思えないし、怒ってるのともちょっと違うような気もするし……。

 うーん……。


「アイリス~? どうしたのぉ~?」

「うん、ちょっと気になることがあって……。ねえ、レッテリオさん、なんか怒ってない?」


 私は小声でそうイグニスに聞いてみた。


「んん~? 怒ってるっていうか~しょんぼり~?」

「え? そう?」

「どうしたんだろうねぇ~?」


 ……あとでランベルトさんにも聞いてみようかな。付き合いの長いランベルトさんなら、何か気付いてることがあるかもしれない。


「そうしよっと」






 そして朝八刻半。丁度入口に詰めている騎士の交代時刻だ。

 私たちはその交代を待ち、いよいよ迷宮深部――三十五層へと転送していった。



【文言等の変更箇所お知らせ】

採狩人ハンターズ採狩人さいしゅにん

何となく雰囲気に合わない気が……とずっと思ってて、書籍化を機に変更しました。*過去分は直せたら直します

◆他にも細かく直した箇所があります。

見つけたら「あ~直したんだね!」と思ってください。

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