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80.受け継ぐ名前

 現れたのは、立派な角を生やした――。


「えっ? ランベルトさん、こちらは……!?」


「ああ、初めて見たか? コルヌは海の一角獣、イッカクの姿なんだ。珍しいだろ?」


 珍しいっていうか、そうか……レッテリオさんが前に言っていた『一角』って、一角獣って……イッカクだったんだ!?

 てっきり一角獣(ユニコーン)だとばっかり……!


「驚いた? アイリス」

「驚きましたよ! だって……こんな立派な角の海の獣なんて……初めて見ました! コルヌさん、初めまして! 見習い錬金術師のアイリスです!!」


 これが幻の一角獣(海)……!

 図鑑でしか見たことがなかったけど、小ぶりな鯨の様な海豹(アザラシ)の様な姿で、鼻先からは螺旋模様の白い角! すごく不思議な姿だ。


「おウ! 錬金術師だナ! サンなんて呼ぶなよ、コルヌでいいって。それからそっちは炎の精霊(サラマンダー)とケットシーじゃン! みんな面白い魔力してンな! 気軽によろしくたのむゼ!」


「よろしくコルヌ〜〜ぼくイグニスだよ〜!」

「はじめましてにゃ! 商人のルルススにゃ! 欲しい物があったら言うといいにゃ!」


「うん。顔合わせは問題なくてよかった。コルヌ、彼らと迷宮に行くから――」

「なんだヨ、また迷宮かよ~!? いい加減サー海行こうゼ? 波乗ろうゼ!? ランベルト!」


 自分の体と同じくらいだった角を一瞬で短く変化させ、コルヌはランベルトさんの肩を抱くように手(手?)を伸ばし言っている。


「……また今度な。あと波乗りは私はできない。お前の背に乗せてくれるならいいけど……」

「やーだヨ! 人乗せてなんてかったるい! 好きに乗るのが楽しいんだヨー」


 なんだか仲の良い親友同士みたい? それにコルヌはイグニスやルルススくんよりも、ちょっとヤンチャな感じ?


「コルヌとは港に視察に行った時に会ったんだ。海の街――ペルラは知ってるかな? あそこで飛び魚に紛れて波乗りしてるコルヌを見つけて声をかけたら……」

「なっつかしいナ~! 一緒にやりたいのかと思って波乗りさせてやったのにサ、ランベルトもレッテリオも泣いちゃって笑ったよナ〜!」


 二人とも、泣いちゃったって……!?


「アイリス、違う。子供の頃の話だぞ? 突然波に攫われて魚にまみれたら……泣くだろ?」

「俺なんてまだ五歳だったんだからね……そりゃ泣くさ……」


 うわ、それは……。


「泣きますね」






「あ、そう言えば今日の会議、イリーナ先生もいらしてたんですね」


 私はもらったばかりの指輪を指に嵌め、気になってたことを聞いてみた。忙しいと言っていた先生がまたヴェネトスへ来ていたなんて……ちょっと会いたかったな。


「ああ、うん。いらしてたって言うか……俺たちが行ったんだけどね」


「え?」


「今日の会議は王城だったんだ。だからこの格好なんだよ」


 と、ランベルトさんがマントを摘まむ。


「王都のお城ですか……。そっか、やっぱりイリーナ先生まだ試験で忙しいから……?」


 でも、イリーナ先生ならヴェネトスのお城――あ、ヴェネトスの中心にあるのもお城と呼んでる。もっと小さな領地だと『領主館』ていうお屋敷があるんだけど、ヴェネスティは広いし国境沿いだから、色々と違うらしい。


 そう、だからヴェネトスのお城にも転送陣はあるはずだし、先生なら簡単に動かして来ちゃいそうだと思ったんだけど。


「アイリス、今日の会議には第二王子殿下と錬金術研究院の筆頭、君の師匠である術師イリーナ、それから俺たち二人が出席していたんだよ」


「……第二王子、殿下……?」


 えっ。殿下……!?


 錬金術研究院の筆頭もって……? お顔もお名前もあやふやなそんな雲の上の方が……え、私の携帯食セットと迷宮探索の会議だよ……ね?


「君の携帯食も迷宮の異変も、もうヴェネスティだけで抱えられる話じゃないんだ。……レッテリオ。もう()()()()をした方がいいんじゃないか?」


 そう言われたレッテリオさんは難しい顔をしている。


 ――()()()()()()()()()って、何だろう? それが今回の会議と……迷宮と、何の関係があるのだろう?


「ハァ。そうだな、話そうか。その前に……アイリスがここに一人でいる事情は術師イリーナから聞いた。君のことなのに勝手に調べてごめん。――だから、代わりじゃないけど、俺の事情も聞いてくれるかな」


「はい」



 ◆



「何から話そうかな……。あ、アイリスは錬金術研究院の筆頭の名前は知ってる?」

「あ、はい。筆頭術師クレメンテです」


「彼の家名は?」

「えっ? えっと……覚えてないです。あ、でも貴族の方ですよね」


 確かなかなか高い身分のお家だったのは覚えてる。でもフルネームなんて、入学の時に一度見ただけだし、基本的に研究院も騎士団と同じく家名は使わないから……全然思い出せない。


「うん。彼の名前はクレメンテ・コスタンティーニ。あの人は俺の兄なんだ」


「……えっ」


「今日の会議は、騎士団と錬金術研究院の代表者の話し合いでね。第二王子殿下は騎士団長だから、騎士の代表として、兄は錬金術師の筆頭として出席していたんだ。アイリス、ここまではいい?」


 レッテリオさんは微笑みながら少し眉を下げ、窺うように首を傾げて見せる。

 驚いたけど、とりあえずそこまでは飲み込めたので私は頷く。


 でも、待って。レッテリオさんの名前を聞いた時、まさか貴族ってあの有名な家じゃないよね? って思ったけど……良いお家だったはず~と思っていた筆頭と兄弟ってことは……。


「もう気付いてると思うけど、俺の実家はコスタンティーニ公爵家」


 ――やっぱり!?


「え、なんでレッテリオさん……ヴェネトスに!?」


 だって、レッテリオさんは公爵家のご令息ってことでしょう? 三男くらいになると騎士になるのも多いとは聞くけど、でもコスタンティーニ公爵って宰相様だし、筆頭がお兄さんてことはもう一人のお兄さんだって、きっと高い身分の役職に就いてるんだと思う。


 なのに、なんでレッテリオさんは、西方最大の都市とはいえ……地方で騎士をやってるの?


「その理由はね、俺のもう一つの名前にあるんだ。うちが代々ひっそり継承している名前――まあ、爵位なんだけど、俺はカストラ子爵の名と、領地を受け継いでここへ来たんだ」


 私は気が抜けてしまったソーダ水を飲み、じっとレッテリオさんを見つめた。


 カストラ子爵……?

 レッテリオさん、公爵家の人で子爵様なの? え? 領地って……この辺にそんな名前の土地あったっけ? ええ? それで、何で一人地方に飛ばされて迷宮に潜ってるの……? 子爵なのに?


 全然、よく分からない。


 あと、これが会議や迷宮探索にどう繋がるのかも、やっぱり全然分からない。


「……もうちょっと、詳しくお願いします」


「うん。ちょっとややこしいから、ゆっくり一つずつ話そうか」


 是非、ゆっくりお願いします!



「カストラ子爵領っていうのはちょっと特殊な領地で、王国内に小さな飛び地をいくつか持ってるんだ。そのうちの一つが()()。工房の森から迷宮の入口まで――丁度、この前の迷宮帰りに通って来た道だね」


「え。ここ、ヴェネスティ領じゃなかったんですか……?」


 確か前に、ランベルトさんが『工房はヴェネスティ領だから報告が来た』って言ってたと思うのだけど……?


 私はチラッとランベルトさんを窺い見る。


「ああ、そこがカストラ領のちょっと特殊なところなんだ。カストラ子爵って名は、本当にひっそり継承だけされてきた名前で、代々隣接している領地がその管理を委託されているんだ。だから、ここの場合はうち――ヴェネスティ侯爵家が管理をしてる」


「そうなんですか。……じゃあ、何でそんな領地? カストラ子爵って何するんですか?」


「アハハ、そう思うよね。カストラ子爵っていうのは、特殊な事案が起こった場合にのみ表に出る名前で、その役割は『番人』だと言われている。思い当たらない? ここの迷宮はカストラ領で、異変が起こっていて、カストラ子爵である俺がここにいる」


「……迷宮探索?」


 それがレッテリオさんの……カストラ子爵のお仕事?


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