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133.迷宮の精霊のクピド

「んー? 僕がここに押し込められた時点で術は解除はされるはずだけど……あ、もしかしたらだけど、()()は別物なのかなぁ……?」


「どういうことだ? クピド」


 ――別物……? 

 私はクピドを見つめた。


「イグニス、何か気付いたことはない?」

「んん~……魔力の質が~さっきまでとはぜんぜんちがうな~って思うけどぉ~?」

「魔力の質?」


 ああ、なるほど。

 私に感じ取ることはできないけど、クピドの髪色を見れば分かる。炎の魔力の影響で紅色になっていた髪が、今はほとんど元の銀色だ。きっと魔力測定をしてみたら、同一人物の魔力とは思えないくらいに変わっているのだろう。


「……あ。もしかして()()()()事?」


 基本的に魔術の効果は、術者本人が解除するか、術に籠められた魔力が尽きるか、術者が魔力の供給を止めるまで継続される。

 クピドは【眠り】の術を解かないまま封印されたけど、術への魔力供給は停止されているはず。だって今のクピドの魔力は『核』として迷宮に供給されているからだ。


 それなのに解除されていないということは――。


「さっきまでのクピドと、今の『核』としてのクピドは別人判定されているって……こと?」


「え……アイリス、それ本当? 確実に同一人物なのにそんなことが……?」


 今のクピドは『核』として【封印】されてしまったので、『クピド』個人の力も封じられて……というか、再度『核』に封じられる前の『クピド』とは断絶してしまったのだろう。だから解除できないんだ。


「んん~レッくん~あるかも~! そのくらい別人の魔力なんだよぉ~」

「……参ったな。仕方ない、術に籠めた魔力が尽きるまで待つしかないか」


 するとクピドは、面白そうに檻の中でニンマリと笑みを浮かべた。


「それじゃあ街の人間はしばらくあのままだよ。あれを掛けたときは魔力で満ち溢れていたからね! 魔力供給が面倒だったから、ドバっと籠めちゃったんだ。多分……んー数年は目覚めないんじゃないかな? あはは!」


 きっとクピドが言うことは正しい。

 ああ、魔力の『せめぎ合い』とは、『核』としてのクピドと『クピド』自身の分断のせいだったのかも……? んー……それにしても何だかややこしい!


 でも、理屈はどうあれ街の人を目覚めさせるには、時を待つか、クピドが『核』をやめて『クピド』自身に戻らないといけない……?


「【眠り】を解いてほしいなら僕を開放してよ、番人」

「それはできない」


 レッテリオさんはクピドの言葉をきっぱり跳ね退ける。そして突然、レッテリオさんは檻の前に跪いた。


 その目線はクピドと同じ。真正面からクピドを見据え、口を開いた。


「クピド、俺が言った言葉を覚えているか?」

「言葉? 気に入った人間なら別だけど、番人の言うことなんか聞いてないよ」


「”番人とカストラ子爵の名を受け継いだ者として、迷宮とカストラ領を守り慈しむ。そこに住む人々と精霊を支える騎士になると誓うよ”と言ったんだ」


「……ああ」


 クピドはレッテリオさんから目をそらし、眉を寄せて何だか微妙な顔をしている。


 そうだ。今レッテリオさんが言った言葉は、クピドが『封印の転送陣』で姿を消す直前に言った言葉だ。あの時のクピドはなんだか驚いたような、戸惑うような顔をしていたように思う。


「……その、()()って……僕も? 僕のことも含めて言ってるの? 番人よりもずうっと強くて、賢くて、美しい僕を? お前ごときが守り支える……って?」


 クピドはハンッ! と鼻で笑って、横目で言った。


「ああ。だから俺はカストラの責任として、クピド――あなたを迷宮へ戻した。だからあなたの精霊としての生き方も、守り支えたいと思っている」

「馬鹿なことを言うなあ」


 小さく呟いて、だけどクピドは檻の中で顔を上げ、レッテリオさんに向き直る。


「あのね、ここから解放しろって言ったけど僕はどうしたって既に迷宮(ここ)の『核』だし、よく考えたら無理なんだよ。月の精霊として自由に、変化を楽しんで生きるなんて無理だ。……それに、一人はつまらないしね」


「クピド~? アイリスはあげないからねぇ~~!」

「あはは! 分かってるよイグニス。アイリスは小さいイグニスのものだよ」


 二人の精霊を前に、少し考えたようなレッテリオさんが、ポツリと言った。


「……クピド、俺と契約しない?」


「……ッ!」


 クピドの目が見開かれ、なんだかキラキラと煌めいている。


「俺は迷宮の番人だから、『核』の在りかであるここへ来ることができる。何と言っても必要な()である銀時計は俺が持っているからね」


 そしてザワザワと肌が粟立った。

 ああ、クピドの魔力が渦巻いているのが分かる。……もしかして、クピドはレッテリオさんのことを気に入っていた?


 精霊はその魔力や人柄で契約者を選ぶ。それは出会ってからの時間や、一緒に過ごした時間なんかも関係がない。


「クピド。一人が嫌なら会いに来るよ。多分、俺よりもっと魔力が強くて強い魔術が使える兄も来る。ああ、もしクピドが望むなら兄に契約を薦めることもできる」


「――兄?」


 クピドはちょっと顔をしかめ、目をすがめてレッテリオさんを見た。


 なんだか機嫌が悪くなった? 肌で感じるクピドの魔力がそんな感覚を伝えてきている。多分、レッテリオさんは気付いていないけど。


 ――ああ、そうか。


『番人とカストラ子爵の名を受け継いだ者として、迷宮とカストラ領を守り慈しむ。そこに住む人々と精霊を支える騎士になると誓うよ』


 あの言葉か。


 クピドはレッテリオさんに『魔力もそこそこ、剣の腕だって大したことない、それで何ができる?』『一人じゃ何にもできない番人のくせに! お前なんて……あの王女の騎士よりも全然弱い!』と、レッテリオさんを自分よりも、他の人間よりも下のように言っていた。


 だけどレッテリオさんはそれを認め『だからこそ、できることもある。俺は支える側になれる』と言い、あの、番人としての誓いの言葉をクピドに言ったんだ。


 もし私がクピドにあんなことを、皆の前であんな風に言われたら……きっと恥ずかしくて、ショックで言い返すことなんてできなかったと思う。それに認めるなんて、悔しくて悲しくてできない気がする。


 きっと、クピドはそんなレッテリオさんの心を気に入ったんだ。

 魔力の多さや、力の強さではなく、その人となりに惹かれたのだ。


「……番人、お前の名前は?」

「レッテリオ・コスタンティーニ」


「いいよ。気に入った。契約しよう! 僕も君を支えてやる。君の領地である迷宮を守り、繁栄させると誓おう!」



【お知らせ】

◆新作を開始しました!◆

「前世がスライムでした。~伝説の古王国で製薬スライムだった僕、転生したらレアスキル【創薬】が覚醒したので迷宮都市でポーション作って楽しく暮らします!~」

https://ncode.syosetu.com/n8333gm/

◇魔法薬師を目指す男の子の成長物語です!迷宮都市でほのぼの見守られながら頑張る、ちょっと変わった前世持ちの子のほのぼのな日常と冒険を楽しんでいただけたら嬉しいです!

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