白と黒③
魔族の特徴と言われる赤い瞳。おじいさんの目を見て身構える。腰にあった剣に手を掛けようとするが、その手は虚しく空を掴む。部屋についた際、剣は鞄と一緒にあの場へ置いて来た事を直ぐに思い出す。
流れる冷ややかな一筋の汗とともに緊張が駆け巡った。その緊張を破るようにおじいさんが話を続ける。
「そう身構えなくとも、取って食べやしないよ」
「おじいさんは魔族なんですね」
「ああ、そうさ。こんな老いぼれに何が出来ると思う? 安心しなさい」
おじいさんは僕の上、何もない所に視線を移し遠い目をしていた。
「その本は‥‥私の日記みたいな物なんだよ」
昔の出来事、まだ町に‥‥普通の人に紛れて暮らしていた時の事。世間で言われるように野蛮、凶暴などと言われるような行いはせず健やかな生活を送る日々。
妻と所帯を持ち、穏やかな日常の中、突如その暮しは奪われた。元々、赤い瞳というのは感情の昂りに反応し黒から一時的に変わる位で常に赤い訳ではない。
子供のいざこざでもあったのだろう、うちの子が魔族であると町に知れ渡ってしまった事から悲劇は始まる。その日の内に子供は捕らえられ住んでいた家には兵が訪れ妻は私を庇い兵に連れていかれた。そのまま逃げ切ることが出来た私は途方も無い悲しみに暮れる日を繰り返す。
その時からだろうか私の瞳は赤から黒に戻る事が無くなったのは。しかし人が皆残虐なのでは無いことも、あの幸せな暮らしの中で学んでいる。ただ自分達の理解に及ばない物が怖いのだという事も。
だから私は一人、行き場のない気持ちと共に‥‥ここに身を隠している。
「魔族と人の違いとは何なのだろうね‥‥面白くもない話を聴かせてしまい悪い事をしたね。」
「いえ‥‥」
「さあ、お嬢さんもお腹を空かせている事だろう。食事にしようか」
おじいさんは僕の背中に手を当て、触れるかどうかの力で優しく二回叩き部屋を後にした。




