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Pandora   作者: 夕の満月
第一章 旅人
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真紅の月③

 顔に暖かな日の光が当たるのを感じる。窓から射し込む朝日に目が眩み、日と顔の間に手を差し入れる。

 昨夜、男と別れた後ついに睡魔が訪れる事はなかったがベットに横になるうちに眠りについたらしい。身仕度を整え宿の一階に向かう。

 階段を降りる途中で、なにやら入り口の方から騒がしい気配が漂って来るのが感じ取れた。金属の擦れる音、続いて微かな錆の匂い。

 様子を伺いに入り口に出向いて見ると宿の店主と甲冑に身を包んだ男が二人、話している姿が見える。通りすがりに聞こえて来た話から、この付近でまた魔族に襲われる被害があったようだ。話し込む彼等から離れるように朝食へ向かう。


「おっはよーう」


 朝から元気のいいアイラの声が響いてくる。続いて「おはようございます」とシズクの声が届いてきた。僕は挨拶を返し朝食につく。

 なにか物足りなさを感じ、それについて考えを巡らせる。思いつくと同時に答えが口から自然と溢れてしまった。


「今日は横から摘み食いはされないんだね」


「ん?して欲しかった?」


 否定の言葉を投げかける隣でシズクはユラにご飯を分け与えながらクスクスと笑っている。


「まぁ、朝はねー。昼食以降なら貰うから期待していいわよ!」


 朝だけでも無事な時間があると前向きに考える事にした。食事も終えて宿を後にする。2〜3日はこのまま街に滞在する予定だ。


 今日は街にシズクの住める所がないか探すのが主な目的だ。正直、今のこの街は魔族が事件を起こしている事も耳に入って来るし気乗りはしないが野宿続きの僕達と一緒にいることに比べれば安全である。

 唐突に村を出てきたのを考えると家を買うまでのお金を用意することは難しいだろう。元々どれほどの資産があったかはわからないが燃えてしまった以上同じだ。そうなると預けられる所‥孤児院辺りだろうか。

 ちらっとシズクに目が走る。こちらの意図を察してか不安そうな顔で視線を返して来る。


「シズクちゃんイジメないでよー」


 肘で小突いて来るアイラは無視して話しを振る。


「此処でシズクが安心して暮らせる場所が見つかればいいなと思っているから、シズクもその事は考えて置いて」


 頷きはしたが、心無しか元気が失われた気がする。確かに不安なのは分かるが、これほどまでに大きな街を逃すと次に見つける事が出来るのがいつになるかわからないため迂闊な事は言えない。

 シズクの元気が無くなるのと連なるようにアイラの不機嫌さが増していく。

 街を歩き徐々に人通りの少ない道にで始める。途中昼食も挟みながら、道行く人に施設の場所を尋ねながらひたすら歩き続ける。

 ようやく施設が見えて来た、施設の前ではシズクより一回りもふた回りも小さい子供達がかけまわっているのが見える。いつの間にかアイラも子供達に混ざっている。

 施設から、あらあらと呟きながら和かな顔で出て来る女の人が見えた。声をかけると此処の管理をしている人だったらしくお話を伺う事が出来た。

 施設内に通され、奥の一室の中で椅子に腰掛ける。正面には先ほどの女の人が座り、隣にはシズクが座っている。シズクに身寄りがない事、そしてこの施設で預かって貰う事は出来るのかを聞いていく。


「ええ、シズクさんが良いのであれば此処で預かる事は可能ですよ」


色よい返事がもらえそうだ。


「しかし‥」


 途切れる言葉に疑問を抱き正面を見据える。女の人の視線の先には、僕の服の裾を掴んで涙ぐみながら俯くシズクの姿が映っていた。


「もう一度考えてみてからの方が良さそうですね」


 シズクちゃんの意思も含めもう一日考えてからまた来てください、と言われ施設を後にする。

 外はもう夕方になっていた。家の壁や噴水に流れる水をオレンジ色に染め上げた景色を眺めながら宿に向かい歩いていく。


「こっちだ」


 甲冑を来た男が仲間に向かい声をかけているのが見えた。甲冑に身を包んだ男二人が路地裏に消えていく、すぐに悲鳴のようなもの微かに聞こえて来る。気になり路地裏に駆け寄ると、鈍い衝撃が体に走り後方に押されてしまう。


「おっと、兄ちゃんじゃないか気つけなよ」


 どうやら路地から出て来た男と打つかってしまったようだ。男は位置のズレたサングラスを直しそそくさと歩き去ってしまう。

 路地裏に向かうと先ほどの甲冑を纏った男二人が倒れていた。すでに生気は無く嫌な匂いが漂って来るのが感じられた。さっきの打つかった男がやったのか? 急ぎ路地裏を出て男の姿を探す。街角を曲がろうとする男の姿をかろうじて視認する。


「アイラはシズクを連れて先に戻っていて」


 返事も聞かずに全力で駆け出した。


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