人形②
「おやおや、此処で何を話していたのかなあ?」
「派手に崩れてるのが目に止まって、どうしたのか聞いていただけですよ」
僕の返答に、男は自らの顎を指でいじりながら、ニヤけた表情を崩さず話を続けた。
「へえ、俺には何か密会でもしてるように見えたんだけどなあ。おそらく……この家の住人の仲間だった、違うか?」
「今日、この町にたどり着いたばかりで、初めて此処にも来ましたし知らないです」
「怪しいなあ、身柄を拘束させてもらおうか。大人しくついて来な」
男の強引に伸ばされた腕を振り払い、隣に居たシズクの手を掴み、逃げるべく駆け出した。駆け出す僕らから一拍置き、男は地と鎧を激しく撃ち鳴らす音を響かせ追いかけてきた。
「待て! 逆賊どもが!」
周りへ声をかけながら仲間を集め出す男を、度々振り返りながら引き離し、町の裏地へと駆けこんだ。
「こっちへ! 早く!」
裏地を駆けていた僕らに、長い髪を携えた女性がわずかに開いた扉から手招きしていた。とっさの出来事に導かれるように女性の家に駆け込んだ。
途切れ途切れの息を落ち着けながら女性の顔を見上げると、どこか気恥ずかしそうに視線を外されてしまう。そんな中、まだ落ち着かない息を押さえつけながらシズクがお礼を口にした。
「あ、ありがとう……ございます」
「どうして、僕達を助けてくれたんですか?」
「偶然、二階から騒ぎが見えて……君たちみたいな子が、こっちに逃げてくるのが見えたから……。あ、安心して、どうこうしようってわけじゃないの」
女性に軽くお辞儀をし一息をついた。ふと家の中を見渡す。どこか懐かしい気配がして、その正体が所々床に散らばった本と、それが端に山積みにされているせいだと気がついた。
「すごい本の量ですね」
「あ、……ごめんなさい。散らかっていて」
「いえ、シズクの家も本が多かったけど、此処も同じくらいあるんじゃないか?」
「どうでしょう……私の家よりも多いかもしれませんね」
恥ずかしそうに、散らばる本を端に寄せたり、奥の部屋へと投げ込んでいく。
「手伝いますよ」
視線を外しながら女性は小さくお礼を呟いた。片す中、シズクが何かに気がつき声をあげた。
「あ、これ私の家にもありました」
「本当? それ面白いわよね!」
本の内容を楽しそうに話す二人を見ながら片付けを進めていく。
「これも……私の家にもありましたが内容が難しすぎて……」
「ああ、それはね……こっちの本を見てからのがいいかもしれないわね」
目を輝かせながら、次々と話を続ける女性と同じ目で話を聞くシズク。
「……なるほど」
「それで……なんで各地の町に名前が付いてないと思う?」
本の中の話から次第に、彼女自身の考えに話が移り変る。それは僕にとっても興味を惹かれる話題で片付ける手が止まり、自然と彼女の話に耳を傾けた。




