人形①
油の匂いと体の芯に響くような重低音。シキの家から一週間ほど歩いた僕達の前に、今まで見たどの町からもかけ離れた雰囲気を醸しだし、人通りもない町にたどり着いていた。視界がわずかに霞がかり、心なしか空気も悪い気さえする。
「なんか暗い雰囲気の町ねー‥‥」
「そうですね。この町に入ってから喉が痛い気がします‥‥」
「大丈夫?」
頷くシズクから咳が微かに聞こえてきたので布を渡し口にあてがうよう伝えた。ユラもフードの中に隠れ出てこないところを見ると、やはり空気中に何か体に良くないものが含まれているのではないかと脳裏に浮かんだ。
歩いていると、今まで鳴っていた重低音とは別に、大きな鐘の音が響いた。鐘の音は段々と音量を増し、それに連なるように、他の音が静かになっていく。いつの間にか鐘の音だけが町中に響き渡り、突然ピタリと音が止んだ。
静かになるのを待っていたかのように、少しづつ人が通り道に姿を現し出す。人々は例外なく口元を何かで隠し、フードを被っている。その光景に紛れるよう僕達はフードを被り、なるべく顔を下げながら進むことにした。
途中、立ち寄った店でマスクを買い、店員からの話で、此処では物作りが他の町より進んでおり様々な物を作り生計を立てていると聞くことができた。その影響かは分からないが、町民の間では少し前から咳が止まらない人が現れ始め、今ではほとんどの人が常時マスクをして暮らしているようだ。
店を出て、道なりに町を進むと並ぶ建物の間に、所々黒く変色し崩れた建物が目に止まった。火事でも起きたのかと思ったが、燃えたというよりは強い衝撃により破壊されたと言った方がしっくりくる様子に見えた。
不思議に思い、背後の二人に問いかけてみるが、いつの間にかアイラの姿は無く、シズクも首を振ってそれに答える。気を取り直し、さらに近くで建物を観察しようとした所に、背後から男の声がかかった。
「君たちは、此処に何の用かな?」
「用はありませんが、不思議な崩れ方をしていたので、気になってしまって」
「此処に住んでいた男が、危険な物を作りこうなってしまったみたいだね。危ないから近寄らないようにしなさい」
「その人はどうなったんですか?」
「怪我をしていたが、生きてはいたよ。ただ‥‥そのまま何処かに連れて行かれたね」
立ち話をしていた僕と男の元に、鎧に身を包んだ者が近づいてきた。それに気が付いた男は視線を泳がし、そそくさと立ち去ってしまった。残された僕に向かい鎧の擦れる音が大きくなり、目の前で止まる。その顔はにやけ気味で、見た目の重々しさからはかけ離れた軽薄さを感じた。




