真紅の月②
扉の叩かれる音、夢の中から無理矢理引きずり出される感覚。どれくらい寝てしまっていたのだろうか起きた頃にはすっかり日が沈み込んでいた。
叩かれる扉に向かい返事をする。どうやら一階で夕食の用意がすでに出来ているようだ。
ほんのりとした熱、食事は作られてから時間が経ってしまったのであろう事が席にすでに居ないアイラとシズクが物語っている。
「温め直してくれてもいいものを、ここの店主は気がきかねえよなあ?」
生温かい食事を口に運び入れていると隣の席から同意を求める声をかけられた。
「遅れた僕がいけないので、仕方ないですよ」
「いやいや兄ちゃん、こんな時は人の所為にでもしてパーと不満を吐き出すんだよ。ストレスがたまっちまうぜ?」
特に返す言葉も見つけられずにいると
「おっと、それじゃあまたな兄ちゃん」
サングラスを掛けた男は席を立ち外の暗闇に消えていった。夜中にサングラス‥何か拘りでもあるのだろうか? 疑問を浮かべながら食事を続ける。
「あ、これもーらい」
いつの間にか背後に立って居たアイラが皿に手を伸ばし、いくつかの彩りが皿の上からアイラの口の中へと失われてしまっていた。
「シズクちゃんこっちこっち」
アイラに手招きされて、後から現れたシズクと共に同じ席に着く。
「お待ちかねの‥‥お土産ターイム」
楽しそうに袋の中身を広げて行く。ペンや髪留めなどの細かいものから用途のよくわからない謎の物体まで様々な物がテーブルの上に所狭しとならべられた。
シズクは隅に置かれた可愛らしい人形に目を奪われているようだった。
「お、シズクちゃんお目が高いね、それは眠っている間に動き出すという不思議な人形なのよ!」
シズクの嫌そうな顔に気が付いてか付かずかアイラはシズクの手元に人形、髪留めなど様々な物を乗せていく。
「残りはナギ君のかなあ」
よく使い道の分からない物だけがテーブルの上には残っていた。
「これなんて似合いそう!」
タコを模しているのだろうか、お面を手渡された。何気無しに付けてみるとアイラの笑い声と静かにクスクスと笑うシズクがお面に小さく開いた目の部分から見ることができた。
「似合う以前に誰だか分からなくなるわね」
残りのお土産も受け取り二階の部屋に向かう。アイラ達も部屋に戻ったのだろう隣の扉が開閉する音が聞こえてきた。
いい時間になっていたので部屋の明かりを落としベットに横になる。
夕方に眠ってしまったせいか中々眠りにつく事は出来なかった。ふと見上げた窓から煌めく星々の明かりが見えてくる。
このまま横になっていても眠れる気配は無かったので、窓から見えた星に導かれるように部屋を出て宿の外に向かう。空を見上げボーっと頭を空にする。星なんて野宿してる時にも散々見飽きてる筈なのにな。
「兄ちゃん、お散歩かい?」
突然掛けられた声に驚き体がビクリと反応してしまった。声のした方向には驚いた僕をクククと笑いながらサングラスを掛けた男が立っていた。
「こんな夜中に出歩くと、今流行りの魔族に食われちまうぞ」
「あなたも人の事言えませんよ」
「ククク、そりゃそうだな」
沈黙が少し流れた。その沈黙に耐えられないといった様子で男は話し出す。
「兄ちゃん、魔族ってどんなやつらだと思う?」
「言われてるのは凶暴で残忍な性格だ、とかですよね」
「ああ、そうだな」
「でも、僕は本当はそこまで僕達と違いなんて無いんじゃ無いかなとは思ってますけどね。この街で暴れている魔族に関しては別ですが。」
「クククッハハハハ、兄ちゃん面白いな。‥‥俺もそう思うよ。」
隣を向くとサングラスをした男の姿は消えていた。




