祀り人①
あれから数日立ち、僕達は森の中を歩いていた。日も落ち始めた頃、揺れる草木の音とともに歌声が聞こえてきた。響く声から女の子‥‥だろうか二人仲良く歌っている様子が目に浮かんでくる。声のする方向へ導かれるように進む。
ある程度、距離も近くなった所で急に歌声が止み走り去る足音が鳴る。どうやらこちらに気が付いたらしく逃げてしまったようだった。分かりやすくガッカリするアイラとシズク。逃げてしまったのを追っても怖がらせるだけだろうと二人を諭し、なるべく別の方角へ歩みを進めた。
歌を口ずさむ少女が二人。
「「ラララ〜ラ〜‥‥」」
遠方に人影と揺れる草木が見えた。
「マイ、静かに! 誰かいる」
歌を止め身を潜めながら人影を見守る。それは徐々にこちらに向かってきてるようだった。
「ミウ‥‥こっちに向かって来てるよ? 早く逃げよう」
さらに近づいてくる足音にマイと手を繋ぎ駆け出す。
「まってミウ、早いよ」
「追って来てるかもしれないから、急いで」
「あっ‥‥」
息も切れ切れで走っていると後ろでぬかるむ地に足を取られ転んだマイの姿が映る。
「ごめん、大丈夫?」
「大丈夫、見て誰も追って来てないみたい」
「よかった‥‥。あ、マイ怪我してるじゃない、見せて」
転んだ拍子に枝で切ってしまったのだろうか右腕に切り傷ができ、そこから血がにじみ出てきていた。
水で洗い流しきちんと手当てしてあげたかったが、付近に川などの水気はなかったため一先ずは布を巻くだけにとどめた。
「これでよし‥‥と。村に帰ったら綺麗な水で洗い流して巻き直すのよ」
「‥‥うん」
すぐに村へ向かおうとするが握りなおした手に引っ張られ何処かに目を奪われているマイに引き止められた。視線の先には色とりどりの花が咲き乱れる光景が映る。
「どうしたの?」
「ちょっとまってて」
マイは花畑に踏み込み見栄えのいい花を選び摘んでいく。摘んだものを綺麗に編み込み、小さな花の冠が出来上がった。
「はい、これ」
「わあ、ありがとー!」
冠を頭に乗せ、ふと沈みかけた日が目にとまり何かが頭の奥から懸命に飛び出そうとしてくる感覚に襲われる。その原因はすぐに浮かび上がってきた。日が沈むまでには帰ってきなさいと、言われたことを思い出しマイに声をかける。
「急いで帰って用意をしないと」
少しの間を置いて返事が返ってきた。
「うん‥‥そうだね」
流れる景色を駆け村が見えてきた。思っていたより早く返ってこれた為か、ほっと胸を撫で下ろす。
「それじゃあ後でね、手当てし直すのよ」
「うん‥またね」
自宅の前で外に流れる水流で手を洗い流し、汚れた服を払う。身なりもある程度綺麗になってから家の中へ踏み込んだ。
「ただいま」
「お帰りなさい。あら、顔にまだ汚れが付いてるから洗ってきなさい」
言われるがまま顔の汚れを落としに行く。終わったら着替えなさいと差し出された真っ白い衣装に目を通す。丈は合っているが所々ゆとりのある服の隙間に動きにくさを覚えた。
「着替え終わったらこっちにおいで」
全身を白に包まれ、手招きする母親の元へと向かった。母は石炭を細くし水に溶かしたものを手で混ぜ込み、馴染ませた指を私の顔へと走らせた。薄い黒が線を引いてく。
模様を描き終わった母からまだ時間があるから顔を触らないようにと注意を受け、痒くなったら使いなさいと細い枝のようなものを手渡された。枝を何に使うのか悩んでいると手で触ると模様が崩れるからこれで顔を突いて我慢しなさいと言われた。
暇になり時間を潰せるものはないかと、あちらこちらへと視線が動く。先ほどの着替えに紛れ花の冠を見つけ母バレないよう、そっと腕の裾に忍び込ませた。




