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Pandora   作者: 夕の満月
第二章 願望
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忍びよる影

 夜に似つかわしくない騒がしく明るい街の中で一人、男は呟いた。


「称賛が‥‥全てが‥欲しい‥‥」


 所々に上がる怒号、落胆、歓喜の声。忙しなく入れ替わる人達。その中に紛れ、自分には女神が微笑んでくれると信じた男。

 握りしめた拳は汗が滲み緊張感からか僅かに震える。ついに訪れた自分の出番に硬くなった拳を開きポケットへと手を伸ばした。

 もう数え切れないほどくり返された行ないに、次こそはと期待を込め取り出したものを差し出す。

 しかし男を待っていたのは無慈悲に告げられた真実だった。


「ハズレですね」


 現実を信じることができずに、八百長を疑い目をギラつかせ訴えかける。その様子を見た屈強な男によって建物の中から追い出されてしまった。


「もう一度、もう一回だけ賭けさせてくれ!」


 扉が開くことはなく、降り始めた雨が顔を滴る。




「やっぱり雨はこのくらいの量が、ちょうどいいわねー」


「そうですね」


 歩く僕達の目に、絶望に満ちた顔で濡れた地面に膝をつく男の姿が映り込んでくる。こちらに気が付いた男は態度を変え歩み寄ってきた。


「君たち賭け事に興味ないかい? 絶対に勝てる方法を教えようか?」


「ごめんなさい、興味ないです」


「そんなこと言わずに、ほら勝ったら何割か‥‥少し分け前をくれるだけで良いからさ」


「しつこいわよ」


 尚も声をかけられ続け、行く手を阻むように肩を掴まれるが走り寄ってきた女性の手によって男は引き剥がされた。女性は謝罪の言葉とともに男の奥さんだと名乗りでる。


「うちの人が迷惑をかけてごめんなさい」


「いえ、大丈夫ですよ」


「ほら、こんなことばかりしてないで! いくわよ」


 男は黙り、引きずられるように連れて行かれた。


「アイラの事だから、賭け事って聞いてすぐ飛びつきやしないかと冷や冷やしたよ


「ギャンブルはあまり好きじゃないかなあ」


 先ほどの男の様子に怪しさはあったが、アイラの意外な返事に驚いた。程なく宿を見つけ雨を避けるように中へと吸い込まれていく。雨音に負けないほどの町の活気。夜だという事を忘れさせるような騒がしさに中々眠りにつけなかった。

 眠れぬ夜に室内の明かりをつけ直す。部屋の隅に何冊かの書物が並べてあるのに目が止まった。どれもが別のジャンルのもので一貫性はなく、そのうちの一冊冒険譚が僕の興味をひく。冒険の果て秘宝を手に入れる話に近親感を覚えた。

 望みを叶える本‥‥それが一つの事だけなのか全てを与えるものなのかは定かではないが古くから確かに存在する物だとは聞いていた。今は国を統べる者の手にあり好き勝手に使われている物だとも。

 私利私欲のために使われ現在の世界の様子に見向きもしない態度に憤りを覚えたが、すぐに自分のことを頭に浮かべた。僕も過去を取り戻すため‥‥身勝手に求めていた事を。

 旅をする中で関わり合いになる事が無ければ、持ち主と同様の行ないに近い物しか考えられなかった自分に悲しみを感じた。

 今は‥‥もし一つの願い事しか叶わなかったとしても平和の為にそれを使うと決心を固め、手に取った冒険譚のように、まだ見ぬ旅路へと想いを馳せ微睡む夢の中へと呑み込まれていった。

 夢の中で現れたアイラに疑問を投げかける自分が映る。


「本に‥‥何を願うの?」


「私は‥‥‥‥」


 悲しそうな表情で呟いた言葉は僕に届くことはなく、夢の狭間に消えていった。

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