太陽の陰①
星の見えない夜空を見上げ一人歩く。風が囁き、その拍子にフードは外れてしまった。
「あーあ、‥‥」
髪をたなびかせながら、町の外を目指して暗闇を進む。頭の中に浮かぶのは幼く赤い目を光らせる女の子の姿と後悔。
「まあ、しょうがないかあ‥‥うん、しょうがないよね」
フードを被り直し正面を見据えた彼女には先ほどの女の子に見た過去の自分を思い出していた。
「お父さん!」
父と遊ぶ幼き日の自分、小さな村で魔族だけが身を寄せ合い助け合って暮らしていた。人里からは離れ不自由な事も多かったが安心感にあふれる幸せな日々。
食べられる物や捕り方、色々な事を教えられ武術の真似事も時々、一緒に行なっていた。今思えば、魔族として一人でも生きていけるように考えてくれていたのではないだろうか。
母は寝たきりだったが夜、寝る前に様々な物語やおとぎ話を読んでくれた。大きな竜と戦う話や鳥になって空を飛ぶ話、そのどれもが魅力的でいつか自分もそんな幻想的な世界を見てみたいと思うようになった。
ある日、夜空に星々が瞬く中、村に煌々とした明かりが灯った。熱の暑さと黒く色を変えていく家々。
いち早く異変に気が付いた父は幼き子と母を逃がすため村の外へ。武装した者達が次々と流れ込んでいくのが逃げる最中、遠目に映り込んで来た。逃げた私たちを追うため何人かの兵がこちらに向かって来ているのが見え、父は一言残し囮となるべく身を晒した。
「これからは人に紛れ、人をよく見て暮らしなさい」
抵抗虚しく突き刺さる剣、父を必死に叫ぼうとするががその口は母の手によって塞がれ、森の中へ身を隠す。逃げ切る事は出来たが母は少しして心労で息を引き取った。
後から聞いた話なのだが捕まった者が自分の身と引き換えに村の場所を知らせ、兵が送り込まれたとの事だった。
「待て!」
背後にはレオンがいつの間にか立っていた。鎧を纏う姿があの日の兵を思い出させ何処か好きにはなれない。
振り返る事はせず歩みを続ける。わざとらしく剣を抜く音を立てるのが聞こえてきた。
「待て、これ以上進むのならば武力行使に移らせてもらう」
足を止め、刃こぼれの目立つ剣を抜く。その様子に身構えたレオンへとまっすぐに剣が振られた。火花が出るかと思うほどの激しい音。受け止められた剣はわずかに押し込んでいたが、すぐに身を引いたレオンに連なるよう手応えをなくす。再度、振り切られる剣、そのどれもがレオンの剣さばきによって流され受け止められる。
正面で剣が交差すると同時に口を開いたレオンからはまだ余裕があるのを感じさせた。
「大人しく投降してはくれないか?」
「それは、無理ね」
交差した剣を引き、流れたアイラの剣を撫でるよう剣筋が伸びた。アイラは剣を逆手に持ち直し地に剣先を向けるように立て、それを受け止めた。
レオンは身を回転させ勢いを乗せ、円を描くように剣を振る。黒刀をわずかに抜き、二本でそれを受けるが勢いを殺しきれず二、三歩後退させられた。
「珍しい剣を持っているね、こちらでは見ないものだ」
「剣じゃなくて刀って言うのよ」
引かれた剣に合わせ刀を収め刃のこぼれた剣を振る。切り返されたレオンの手によって剣は弾かれ遠くへと飛ばされてしまった。剣が地に落ちる音と同時に黒刀が振り抜かれる。一閃、空を切りレオンの顔にわずかな切り傷を付けた。
口を開こうとしたレオンに衝撃が襲い吹き飛ばされていった。倒れたレオンの上に見知った人影。
「アイラ!!」




