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Pandora   作者: 夕の満月
第二章 願望
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消えた灯火①

 思っていたより距離があり、僕達が港町に降り立った時には朝日が昇っていた。船の乗船時には騒がしくしていた他の人達も何日も波に揺られた疲れからか、乗り込んだ時の活気は失われている。


「少し乗るくらいなら良さそうだけど、今回のはキツかったわね‥」


「そうですね‥」


 今度は観光用の小さいのにでも乗ろうかと話すアイラを横目に、いつもこのくらいのテンションなら楽なのにな、と思ったが口から出ないよう栓をした。

 まだ朝も早かった為、手紙のことは一先ず置き時間を潰すため町を歩き始めた。大陸が違うので真新しいものでも無いかと視線を巡らせるが、街並みや目につく範囲では特に代わり映えしない景色に少量の落胆色が混ざる。


 ぽつりぽつりと開き始めるお店に足を運びながら、目当ての場所を目指す。たどり着くと店頭にアイラの好みそうなものが並んでいた。小型で丸い円盤に中央から一本の棒が外側へ向けて伸び、止まっているのではないかと思うほどゆっくりと円の縁をなぞるように回る。


 同じようなものが大量に並べられている店内に入ると一人の男の人が出迎えてくれた。不思議そうに眺める僕達に丁寧に説明をしていく。最近出来た、時計と呼ばれるもので太陽が今どの辺りにあるか知らせてくれるものらしい。月日を重ねるとズレて来るので日の光に合わせて調節しながら使っていく物だと教えてもらった。好奇心に負け一つ購入した。


「あー! これナギ君に欲しいって言ったら断られたやつよね! 最先端を行く私の目に狂いはなかったわ!」


 ちゃちゃを入れるアイラと、話し足りないのか口を開こうとする男の言葉に遮りを入れ手紙を差し出す。

 男からは営業の笑顔が消え神妙な面持ちで手紙に目を通す。そのままの表情でお礼を言われ内容が気になったが聞ける雰囲気ではなく、お店を後にする。


「良いものを付けているね」


突然、掛けられた声に言葉の飛んで来た方向に目を向けた。そこには白い鎧に身を包み、腰には細かな装飾のされた高級そうな剣。鎧は所々擦り傷があり、足元は草木や土に色をつけられていたが丁寧に手入れがされており、見すぼらしさは感じられない。

 時計のことを言っていたらしく、見せて欲しいとの言葉に手渡す。近くのお店で購入したのを伝えると笑顔でお礼を述べた。


「挨拶がまだだったね、私は‥‥」


 男は腰の剣を抜き刃先を天に向け眼前に掲げた。その様子に緊張が走り身構える。通りを歩いていた人々も何事かとこちらに視線が集まった。

 男は剣を握っていた手と、逆の手のひらをこちらに向け制し言葉を紡ぐ。


「私はこの国に心身を捧げ仕えし、神聖なる騎士レオン」


 剣を収め、勝手に身の上話を語り始めた。巡礼の儀で国を回っていること、各所で上げた手柄の数々。時計の事や巡った土地の話は僕の目を輝かせるには充分だった。話は弾み、魔族を捉えている話しがでた時は、複雑に思ったが、人々の為と語る彼からは迷いの無い自分の信念の様なものを感じさせた。


 しばらく一緒に歩き、辺りを包み込んできた夕日を目印に別れを告げる。シズクはさておき、アイラが大人しくしていた事には疑問を覚え声をかけた。


「珍しく静かだったけど大丈夫?」


「んー、こんな日もあるわよ。大丈夫だから気にしないで」


 不安げに見つめるシズクと理由を考えるが思いあたらなかったため、これ以上は無駄だと区切りをつけた。



 そんな僕達を賑やかさとは別の騒々しさが襲う。歩いていた正面に人集り、ざわつく人の声。何事かと覗き込んだ時、一人の男が放った大声が不安と恐怖を、騒がしさに溶け込ませた。


「魔族が逃げたぞ!!」


 船で輸送されてきた囚えた魔族が数人脱走を図ったと町に情報が駆け巡った。その場で悲鳴をあげる女性や一刻も早く立ち去ろうと走り出す人々に辺りは混沌としている。

 耐え切れずと言ったふうに見知った顔が声を張り上げた。


「安心して欲しい! 私は騎士だ! 皆の盾となろう!」


 よく通る声に驚き静まり返るが、すぐにざわめきが息を吹き返し出す。なだめる様に少しづつ声を落としながらレオンは叫び続ける。


「落ち着いて! まずは自分の家へ向かって欲しい。魔族にこの混乱を利用される方が皆に危険が及ぶ」


 家の近いものは共に行動し、ある程度の塊で動くことを促す。身寄りがなく固まれない者は近くの兵へ。兵同士は連絡をこまめにかかさずに。

 レオンの冷静さに徐々に混乱が制御の出来るものへと変わり始めた。治りつつある騒ぎを見渡し兵に残りは任せ、一人静かに駆け出していく。


 

 

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