女の子
「最近来た子、……みたいよ。」
「なるほど、それは気味が悪い。」
「関わり合いたくも無いし、何処かに行ってくれないかしらね」
小さな声で話しているのだろうが、こちらに微かに声が聞こえて来ている。村人たちが私を良く思っていない事は知っていたし、わざと聴かせようと話している訳では無いのだろうからまだ良い方なのであろうと無理矢理に自分に言い聞かせる。
何も分からないまま村に連れてこられ、住む家と生活に必要な物を最低限与えられ一人寂しく家に閉篭もる日々。
食べるものだけは、どうしようもできず週に一度は村に赴かなければならない。この日がどうしようも無く嫌で、いっそ食事など取らなくても大丈夫な身体になれたらと切に願う。
今日の分の買い物も終え自宅の扉に手をかける。
……徐々に開ける視界。目の前には揺れる木々の葉。
起こそうとする体に合わせて、下に敷かれた木の枝や草木の葉が音を立てる。何か夢を見ていた気がする。
まだ霞む目を擦りながら小さく伸びをした。空腹のお腹が食事を求めて音を鳴らす。目がはっきりとすると同時にいい香りが鼻をくすぐるのを感じ取った。
「あ、起きたわね。ご飯の用意は出来てるわよ」
呼ばれる声を頼りに用意された食事に手をかける。
「ありがとうございます」
消え入りそうな声で呟いたその言葉は届く事無く風に流されてしまったようだ。
暖かい……。外で寝食を取るなど初めての経験で、冷えきった身体に熱が回って行くのを感じる。
「おはよう、よく眠れた?」
ナギさんが草木を掻き分け奥から現われた。
「はい、おはようございます」
ナギさんは明らかに疲れきっているのがみて取れる。私が眠りにつけたのが、朝日の上り始めくらいの時間だったのだ。追ってを警戒して今まで眠りにもついていないのであろう。
「ごめんアイラ、少し寝てくるから何かあったら起こして」
「はーい、そっと二人で逃げとくわね」
「本当に置いていかれそうで怖いんだけど」
「ふふん、危機管理能力を鍛えるのよ!」
ため息をつきながら奥に消えていくナギさんを見送りながら、何かあったら私が起こしてあげようと密かに決意する。
「さてと、これからの事だけどシズクちゃんは村には戻らない方が良いと思うのよね。」
今までの事もあるし正直戻りたいという感情は何処にもなかった。
「んで、一先ずシズクちゃんが安心して暮らせそうな所が見つかるまでは私達が一緒に居てあげようと思うけど良いかしら?」
悪い人には見えないし昨日から助けられている事を考えるとこの上ない提案だと思った。
「良いのですか?」
「良いわよ、むしろ無理にでも連れて行きたいくらい。シズクちゃん可愛いんだもの」
「ありがとうございます」
照れ気味に言ったその言葉は今度はしっかりと届いたようだった。満面の笑みでアイラさんは私を捕まえ頬を突いたりしてくる。こうなると逃げようが無いので人形になったと考え飽きが来るのをひたすら待ち続ける。
満足気な顔をしたアイラさんにやっと解放されると肩にゆらゆらと何かが飛んできた。
肩に止まったユラと顔を見合わせながら、この子もあの大変さに同情してくれている気がした。
「そういえば、アイラさん達はなぜあの村へ?」
ふと頭に浮かんだ疑問がつい口から出てしまう。
「探し物の途中でたまたま見つけて寄っただけよ、村自体にはなんの用もなかったわ」
シズクちゃんに出会うため等と付け加えて言っていたが、どう返せば良いのか分からず流してしまった。
「探し物?」
「んー……本よ、なんでも願い事が叶うって呼ばれている特別なね」
「本……」
「ナギ君も知りたい事があって本を一緒に探しているのよね」
ナギ君にとっては知った所で意味の無い物かもしれないけど、とアイラさんが小さく呟くのが聞き取れた。疑問を投げかけようと口を開きかけた時にはアイラさんは立ち上がりナギさんを起こしに行ってしまった。




