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Pandora   作者: 夕の満月
第一章 旅人
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闇に架かる虹②


 ‥‥切れる息、重くなる足、脳に酸素を送るペースも次第に追いつかなくなる。何度も後方を確認し町角をまがり身を隠す。ここまでくればもういいだろうか、ひと息ほどの安心を得て早鳴る心臓に落ちつきを与えた。


 先ほど出会った三人組は腰に剣をかけ、それなりに身なりも良かったので、高値になりそうなものを所持していたかもしれない。


 わざと当たって物を盗ったまでは良かったが、動きの素早い女に捕まり、盗ったものを手放してしまった。女は油断したのか、捕まっていた手を離してくれたお陰でなんとか逃げきり今に至る。


 突如、背後から肩を叩かれ驚き振り返ると、お爺さんが立っていた。見知った顔に安心し笑顔を向けてお爺さんの仕草を観察した。右手に持っていた、透明な袋に包まれた焼き魚を指差し、こちらに差し出してくる。どうやら食べ物を分けてくれるようだ。


 お爺さんに向かいお辞儀をして、その場を離れる。まだ温かい魚に目を向け、早めに食べなければと考えた。路地裏を進み、隠れ家に身を隠しながら食事にする。たまに食事を分けてくれるお爺さんには本当に感謝している。特に今日のようにしばらく稼ぎが無い日は、なおさらだ。


 食事を済まし、両手を合わせ礼の意を伝えてから隠れ家を後にする。そろそろ稼ぎが入らないと限界が近いので、気合いを入れ直すように両手で自分の頬を叩く。路地裏から出ると、見慣れない男が二人、正面から歩いてくるのが見えた。


 今日は幸運が味方しているのかもしれない。先ほどは捕まってしまいはしたが逃げ切ることができ、食事も得ることができた。そのうえ、すぐに獲物を見つけられたのだ、今までで一番ついているのではないだろうか。


 正面から歩いてきた男にぶつかり、手際良く物を盗すむ。やはり今回は調子がいいようだ。この重量感ある手応えに喜びが溢れ自然と笑顔がこぼれる。


 しかし突然、地面が近くなり自分が転んでしまったことに気がつく。普段ならしない簡単な失敗に、驚きが隠せず次の行動が遅れてしまった。転んだ拍子にばら撒かれた金銭が、男達に盗まれたのを伝えるように暴れまわっている。


 立ち上がろうとする自分に男達の手が伸び、捕らえられた。抵抗をするが力は強く振り払える気配はみえない。人気の無い路地裏まで引きずられ壁に押し付けられる。男の顔が目の前にあり、激しく動く口元から細かい液体が飛んできた。


 どれだけ汚い言葉で罵られようと、聞こえない自分には、なんの効果もない。後はこの男が飽きるのを待てばいい、多少の怪我は覚悟しなければならないが。


 そう考えていた自分の目に男が大きめのナイフを右手に握る姿が映った。男はナイフを首元に当てさらに口を動かす。ふと男は右を向き、もう一人の男も同じ方を向く。


 視線の先には、この男達の前に獲物にした三人組のうち一人、素早かった女が立っていた。何か会話しているそぶりが見えたが男の右手が動き、そこで自分の意識は途切れた。




「偶然見かけたから来たけど、思った通り声はかけてこなくて正解だったかなあ」


 フードを被り刃こぼれの目立つ剣を抜く。右手に握った剣を左下へ振り下ろす。男の手元にあったナイフは地面に叩きつけられ金属音が鳴り、ナイフについていた液体が飛び散った。

 先ほどまで興奮しながら意気揚々と話していた男の姿はどこにもなく、今起こった一連の出来事にただ唖然としていた。もう片方の男も戦意を失っており、情けない声を上げながら逃げようと背を向ける。

 逃げだそうとした男に蹴りをいれ壁に叩きつける。そのまま流れるように剣は振り下ろされ男は動かなくなった。残った男は声も出せずただ震えながら手と手を握りしめ何かに祈っている。


「あーあー、だから最期まで続けるからって言ったんだけどなあ」


 突然、話し出した事で我に返ったのか男は涙を流しながら命乞いを始める。その頭上に剣が真っ直ぐと降り静寂に呑み込まれた。


 「やっぱり、やさしくて‥‥そして残酷だと思うんだよね」


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