闇に架かる虹①
辺り一面が白く、湿度の高い空気が身体にまとわりつく。微かに重くなる衣類、歩き進むと突然視界に飛び込む木々に神経を費やす。
「うわああ、ジメジメするー」
ついに耐えきれなくなったアイラが声をあげた。
「声にだすと、よけい気になっちゃうよ」
坂道を登り、微かに視界が開けていく。ある程度見通しが良くなったところで、遠目に町の姿を確認することができた。
霧に囲まれた町、雲の上にいるような、その幻想的な景色に目を奪われる。シズクもその風景に声をもらしていた。
「なんか、あそことか食べれそうよね」
アイラの言葉は、共感を得られずに空へ流れていく。目的地も定まり、また霧の中に潜り込む。
「あの景色を見た後だと、心なしかこのジメジメもマシになりますね」
「お腹の中にいれられたら、もーっと楽になるわよ」
「まだ言ってる‥‥」
途中、濃くまとわりつく霧に迷いそうになるが、何事も無く町までたどり着く。どうやら湖のほとりに並ぶように家が建てられている。
町中を歩いていると、前からきた帽子を被った少年とぶつかった。少年はこちらに一瞬視線を向けすぐに走りだす。それを見たアイラは少年の首元に手を伸ばし、裾を持ち上げて猫のように吊るしあげた。
「はい、盗ったもの渡して」
少年の手には見たことのある袋が握られており、それが僕のものだというのはすぐにわかった。暴れる少年の手から離れ落下した袋をしまい、アイラに手を離すよう促す。
「今回は見逃すけど、もうしないでね」
視線を一瞬あわせ、言葉を発すること無く走り去る少年を見送る。
「ああいうのは何度、痛い目をみても最後まで続けるから、捕まえちゃった方が楽よー」
「まあ、一回くらいは多めに見てあげようよ」
「ナギ君はやさしくて‥‥だねえ」
「ん?」
「んー? やさしいねって」
小さく呟いた後半の言葉は僕の耳には届かず、または届ける気は無かったのか、はぐらかされてしまった。




