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TSエルフの異世界奮闘記  作者: yukke
第三章 バルバト共和国 ~死者の蘇る村~
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第十二話 彷徨う死者達

 夜が更けた中、俺の眼中に広がる異常な状態に言葉を失ってしまった。

 腐った死体に半分白骨化した死体、完全に白骨化した死体と、墓の中に眠っているそれが、その墓から引きずり出て来て、村を徘徊している。


「これはいったいなんなんですか? セリーヌさん。なにか知っているのでしょう?」


 そして、この死体達が出て来てから、セリーヌさんの様子がおかしかった。顔を俯かせて、少し体が震えている。


「ごめんなさい……私達にもこの原因は分からないの」


 その様子からしてそうだとは思ったよ。そうなると、村の人達全員で何か良からぬ事をやっている可能性は消えたな。


「……この分野は、ジュスト中佐の得意分野でしたのに」


 そして、ジルも困り果てた顔でそう言った。そういえば、あいつの二つ名『死魂』だったよな。しかも亡霊みたいなものも呼び出していたし、あいつならこの現象を見て何か分かるのかもな。


「大丈夫よ……こちらから攻撃をしなければ、あいつらは数時間で去って行くから」


 数時間? 朝になるわけでもないのに、たった数時間で去るのか……。


「おい、ジル……」


「そうですね、確実に誰かが操っていますね」


 やっぱりか……だけどそうなると、いったいなんの目的で……。


「う~ん、やっぱりニナのお姉ちゃんはまだ居ないや。お寝坊さんだなぁ、もっと行って上げないとダメなのかな?」


 そして窓枠に掴みながら、下を眺めていたニナがそんな事を口にした。


 そうか、ニナの言葉や亡霊達の動きを見ると……誰かれ構わず蘇らせては、街を徘徊させて襲っているわけじゃないみたいだ。ただ単に適当に蘇らせて、徘徊させているだけか。


「……やっかいですね。相手の目的が死者を蘇らせるだけなら、それを止めるには説得しかないです」


 確かにな……相手の目的が大切な人を蘇らせると言うのなら、これを止めるには説得しかないよな。


 すると、俺達がこの死者の団体を見て、早々に村を去ろうかどうしようか悩んでいると、セリーヌさんがポツリと呟いた。


「あの子……また居る」


 良く見ると、セリーヌさんも窓から下を見ていたけれど、何かを見つけたのか、凄く悲しそうな表情をしている。身内の奴でも居るのか?


 気になった俺は、セリーヌさんの見ている方を見てみると、半分白骨化した、1人の耳の長い小さな女の子が、この薬屋の出入り口に立っていて、扉を開けようと必死になっている。

 だけど、俺が風呂に入ってる間に戸締まりをしたのか、その扉は開けられないようだな。


「あの子は?」


「小さい頃に死んだ、私の妹よ」


 マジか……セリーヌさんの妹かよ。


「ん~私のお姉ちゃんはまだ起きてないんだ……残念」


 そして、ニナちゃんはまだ自分の姉を探していた。だけど居ないみたいだ。全員蘇ってるわけじゃないようだな。


「なにか条件があるのでしょうか?」


「分かんねぇな……死んで何年か経ってからか?」


 だけど俺の言葉に、セリーヌさんがある方向を指差してきた。そこには、まだそんなに腐っていない、普通の人間と何も変わらないままの男性の姿があった。青白くて、生きた人間の肌の色じゃないけどな。


「あの人は、3日前に亡くなった男性よ。時期は関係ないと思うわ」


「…………」


 その言葉に、ジルは顎に手を当てて黙り込んでしまった。これは完全にお手上げかもな。こんなに大量に出て来て動いているのに、死んだ時期は関係なく、出て来てない死体もある。


 これを行っている奴は、何を考えてこんな事をしているのか、全く分からないな。


「まだ禁術を使いこなせていないか、開発中か……そのどれかですね」


 あ~なるほどな、要するにまだ完璧じゃないわけか。そうなると、ここから早く逃げ出すか、何か対策していくか、それを決めないといけないな。


 俺達はあくまで、この村を救いに来たわけじゃないからな。


「どうします? マリナさん」


「何故俺に聞くよ」


「いや、あの子と仲が良くなっていますから……なんとかしたいと思ってるかと」


「……ジル。俺だって情をかけちゃいけない時があるのは分かってるさ」


 この死体達が村人を襲わないなら、俺達の方が緊急性はあるよな。そうなると、一旦この村から出て、王都に戻る事をとった方が良いはずだぜ。


「分かりました。それじゃあ、明日の朝に出発で良いですか?」


「あぁ、そうするか」


 悪いな、ニナ。気持ち的には本当は何とかしてやりたいがな……。


「お姉ちゃん、いつになったら起きるのかなぁ……」


 そしてその日の夜、ニナちゃんは死体が戻って行くまで、窓から下を覗いていた。よっぽどお姉ちゃんが好きだったのか……。


 ―― ―― ――


 翌朝、起きて身支度を整えた俺達は、その村から旅立つ事にした。正直、あんまり寝られてないけどな……扉を叩く音や、壁を押しやる音が消えた後も、また来るんじゃないかと思って、警戒してしまったよ。


「恐い所を見せてしまって申し訳ないわね~」


 そして、朝食を用意してくれたセリーヌさんが、眠そうにする俺達に向かってそう言ってきた。本当は村の人達も、この事態を何とかしたいのだろう。


「ここフィグ村は、国境近くで1番軍を送りにくい場所にあるの。だから、こういう事態が起こってる事を国に言っても、中々対策はしてくれないの」


 セリーヌさん……そんな事を言われたら去りづらいんだけどな。


「そう言えば、ニナちゃんは?」


「朝一であそこに向かってたわ」


「マジか……」


 寝てるかと思ったけれど、俺達が起きる前に起きたのか。それだけ、墓の下にいるお姉ちゃんに出て来て欲しいのか。


「あの子の気持ちも分かるわ……私だって、妹が蘇って家に来てくれた時は、凄く嬉しかったわ……だけど、一目見て分かった。アレは……あの子じゃないって」


「それはいったい……」


「あの死体達には、その人の精神がなかったですね。魂はその人のでも、会話は出来ないでしょう」


 すると、難しい事を言ったセリーヌさんの代わりに、ジルがそう説明したけれど、余計分からんわ。魂がその人なら、その人の意思で動かないか? 精神と魂は一緒だろ? 違うのか?


「あれは、その体に残った残留思念だけで動いているだけです。意思はないですよ。簡単に言ったら、魂は記憶。精神がその意思というか、性格みたいなものですね」


 おぉ……俺が首を捻っていたから、ジルが付け加えてくれたよ。つまり、魂と肉体だけじゃあダメなのか。難しいもんだな……。


『……専門職がここにいるんですけど?』


「それでジル……魂と精神って、一緒じゃないのか?」


『はい、無視ですか~別に良いですけどね~』


 妖精の奴が拗ねやがった。いや、お前に聞いたら余計にややこしくなりそうだったからな。避けさせて貰ったよ。


「死んだ後にもよるんじゃないですか? 魂と精神が一緒になっているのもありますよ。ただ、魂と精神と肉体の関係性に関しては、解明されていない部分が多いので、僕もこれ以上は分かりません。それを研究していた上司はいましたよ」


 そして、ジルは暗い表情をしながらそう言ってくる。多分ジュストの事だろうな。あの野郎、肝心なときに死にやがって。


「それにしても、ニナ遅いわね。この人達、もう出発するって言うのに……」


「あ~あの墓地だよな? 俺が様子見てくる」


 昨日の事もあるから、やっぱりちょっと不安だな。だから、俺は朝飯を食い終わった後、セリーヌさんにそう言って、ジルにいつでも出発出来るようにしておいてくれと頼み、その家を出た。


 村は昨夜湧いてきた死体達のせいで、その辺がぐちゃぐちゃになってるな……あとやっぱり屍臭がすげぇ。これはたまんねぇな。村の人達が一生懸命片付けているけれど、これを毎日やってるのか……大変だな。


 そして俺は、その家の前の小さな通りを進み、何個か角を曲がり、少し坂道を上った先の林の前にある墓地にやって来た。俺は1回その道を通ったら、その道を一発で覚えられるから、迷うことは殆どないぜ。


 案の定、ニナは昨日と同じ墓の前にいた。また祈りを捧げてるな……ちょっと異常かもな。


「お姉ちゃん……皆起きるのに、お寝坊さんだね。お姉ちゃんは早起きして、いつも私を起こしてくれてたのに……」


「……」


 やべぇな、こういう時どう声をかければ良いんだろうな。


「ニナちゃ……」


 だけど、いつまでもニナの後ろに立ってるわけにもいかないから、何か声をかけないとと思ったけれど、そこで嫌な事に気付いてしまった。


 墓が荒れてない。


 ちょっと待て、昨日の夜ここから死体が出て来たんだよな? あの村で死んだ人達が湧いてきたんだから、村の墓地であるここから出て来たんだよな?


 全ての墓に、何かが這い出てきた形跡が……ない。


「お姉ちゃん……起きて」


 どうなってるんだ……これは。昨日のアレはなんだったんだ! 村を漂う屍臭は、いったいなんの屍臭なんだ!

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