第四話 黒いピエロ ①
黒いピエロの謎の能力で、俺は一気に敵陣に単騎で放り込まれてしまった。別の言葉で言うと、攫われたとも言うな。だけどな……俺を攫うのに、無傷でいられると思うなよ。
「ひょほほ、そっちには聖女の予知がある。そんなものは、百も承知で仕掛けているのですよ。何もしないわけないでしょう?」
「くそっ……やっぱり予知の事が知れ渡ってるのは、良くねぇな……」
「その通りですねぇ~対策が出来てしまいます。さて、これからあなたが取る行動は1つ。大人しく私と一緒に、このドラゴンで空の旅をする事です」
「出来たら、そのまま国に返して欲しいがな」
「あいにく、片道切符です」
「それじゃあ……乗車拒否させて貰うわ!」
そして俺は、目の前で不気味な笑みを浮かべ続けるピエロに向かって行き、その顔に殴りかかる。この不気味な笑み、いい加減止めさせてぇ。気持ち悪ぃんだよ!
「おっと……あなたは蹴りが専門だと思ったのですが?」
「蹴るしかやらない戦いは、面倒くせぇわ! そんな縛り、俺はしたくないね! おらっ!!」
「ひょほほ、確かにその通りですねぇ~」
ちくしょう、ぐねぐねひらひらと避け方がうっとうしいわ! 普通に避けろ普通に!
顔面に向けてパンチをしたら、顔を避けりゃいいものを、肩や上半身も一緒にして後ろに避けやがる。この時、下半身は動いてない。だから、続けて足払いをかけようとしたら、跳んで回避するのではなく、これもつま先立ちをして、足だけ後ろに反らしていた。
それでつま先のギリギリを掠めてしまったら、こっちは凄くイライラしてしまうんだよ。バカにされてるみたいでな。
「ひょほほほ。しかし、既にあなたはこのドラゴンの背中の上、現在魔王城に向かっている。追っ手はジル君ですが、それもこのドラゴン達がいれば……」
すると、そのピエロは俺と距離を取ると、空を見上げた。
そこには、さっき作った変なゲートから、更に数体のドラゴンと、頭は鷲みたいな鳥の顔で、体はライオン、尻尾が蛇、更に背中には鱗の付いた厳つい翼が生えた、変な化け物も出て来ていた。
それと他にも、蛇がゴチャゴチャに絡まって、団子状態になってる化け物とか、色々と出て来ているが……これはなんだ! ドラゴンを呼ぶ能力じゃないのか?!
「ひょほほ! これこそが、私の特異力なのですよ」
「ちくしょう……あの数やべぇな。しかも、これが特異力か……」
このドラゴン一体でも大変そうなのに、更にあんな化け物もとなると、そう簡単には……と思った瞬間。
『主砲、発射!!』
「ゴギャァァア!!」
「グォォオ!!」
俺の後ろから、大きなエネルギーの塊のようなものが飛んで来ると、変なゲートから出て来た化け物達に命中し、そのまま何体かを巻き込んで遠くに吹き飛ばし、その先の大きな山にぶち当たると、そこで大爆発を起こした。
「うぉっ!!」
ただ、その衝撃が凄まじくて、俺は思わず腕を前に交差して、そのまま踏ん張ってしまった。そうしないとまた吹き飛びそうだったんだよ。なんだあの威力は? 加減しろよ、ジュスト。
『残念、何体か逃しましたか』
「おいジュスト! その何体かに俺も含まれていねぇよな!」
『静かにしなさい。あなたは、そこから逃げ出す術を考えておきなさい』
スピーカーを使った感じで、飛行艇からジュストの声が聞こえてくるが、声のトーンが低いぞ。相当キレてるな……ふざけてる場合じゃないようだ。
「ひょほほ、これはこれは。かなりのスピードを出したと思うのですがねぇ~」
『グランクロス国最新鋭の飛行艇を、舐めないで貰いましょうか』
そして良く見ると、その飛行艇の船首が大きく変化していやがった。真ん中より少し下の部分が開き、そこから大砲の砲台の様なものが突き出している。
ついでに、翼は更に風を受け流しやすい形になっていて、後ろにも出っ張りというか……ジェット機の噴射口の様なものが出ていて、そこから風が吹き出している。
『さぁ、次が撃てる様になるまで、弾幕を張り続けなさい!』
そしてその後、飛行艇の側面と前方から、小さな衝撃弾みたいなものが放たれ、次々とこの白いドラゴンを撃っていく。
すげぇな、容赦無しか。しかもその飛行艇の上空には……。
「マリナさん! 今行きます!!」
綺麗な流線形の体付きをして、同じく真っ白なドラゴンになったジルが、俺に向かってそう叫んできた。
まぁ、ジルの方が青いラインは入ってるし、体つきも違うから、見分けはつくが……敵のドラゴンの方が強そうだぞ。
「ひょほほ。ジル君~毎回言ってますが、私はあなた程のドラゴンを次々と……」
だけど、このピエロが喋り終わる前に、ジルは大きく身を逸らし、息を吸い込んだ。そして……。
「グラース・オラージュ!!」
その大きな口から、もの凄い暴風を吹き出した。しかも、空気中の水分凍ってねぇか? 氷の暴風かよ!!
「グォォォォオ!!」
だけどこのドラゴンは、ジルのその暴風のような息吹をその身に受けても、一切ぐらつきもせずに堂々と浮いている。だけどこっちが寒いぞ、ジル!
「硬いですね……それなら!」
すると今度は、ジルがこの白いドラゴンに向かって、猛スピードで突っ込んで来る……が。
「グォォ!!」
「ぐっ! つっ、くそ!」
このドラゴンの尻尾が思い切り伸びたと思ったら、瞬時に剣に代わり、ジルを斬りつけた。なんだこのドラゴン?
「ジル君~残念ですが、今回ばかりはそちらの分が悪いですよ~いつもは私を倒さずに、隙があれば逃げてくれてますが……今回は、助けたい人がいますよねぇ~そ・し・て!」
すると、そのピエロは再び手を空に掲げると、また黒い輪っかを2つ作り出し、そこから更に新たなドラゴンを出してきた。
「嘘だろ……」
そして俺は、その2体のドラゴンのデカさに、思わず声を漏らしてしまった。今俺が乗ってるドラゴンの3倍? いや、4倍はデカいぞ! まるで山のようだ!!
1体は、体が溶岩の様になっていて、ゴツゴツしている。そして、マグマが流れているみたいに、体のいたるところに赤い筋が入っているドラゴン。
もう1体は、黒い影みたいな体で、実体が無さそうに見えるドラゴン。どれもヤバそうな雰囲気をしていやがる。
「……くっ、その2体は……」
「ひょほほほほ!! そう~ですよ~かつて魔王に仕えていた魔王の眷属! 二体の竜王! ラーヴドラゴンと、オンブルドラゴンです!」
魔王の眷属? えっ……待て、それってめちゃくちゃボス級じゃねぇか、何やってくれてんだ。
それなら、俺が今の内にこのピエロに攻撃をしたらいいんだが……さっきとは打って変わって雰囲気が違う。今までの敵とは比べ物にならない殺気……異常だ。
俺に背を向けているというのに、背中に目でも付いてるんじゃないかと錯覚するほどに、背中から視線を感じるんだ。見られている。こんなの、攻撃しても避けられる。
だから俺は直感で、このピエロと距離を変えず、ゆっくりとその位置を動いているけれど……。
「ひょほほ、あなたは逃げないで下さいねぇ~」
やっぱ見えてやがった。
殺気の籠もった口調で、ピエロにそう言われ、俺は足を止めてしまった。
「さぁて、先ずは目の前を飛ぶハエを落とさないといけませんねぇ~」
すると、ピエロの言葉に反応するようにして、新たに現れた巨大な2体のドラゴンが、ジルを見た。
このままだと、ジルがやられる。
おい……何やってんだ俺は! 何ビビってやがる。この世界の住人が、俺の居た世界とは違う力を持ち、違う世界観の中で育っていても、同じ生き物なんだ。考える生き物だ!!
感情はある。思いはある。汚い欲望もある。
一緒だ!! 俺達と一緒なんだ! それなら、動けよ俺の足! 未知の力に怯えるな! 向こうの世界でやっていた喧嘩なんかも、相手の力が分からない状態、それこそ未知の相手と戦う事だって、あっただろうが!
「うっ……ぉぉおお!!」
そして、俺は雄叫びながら相手に突進していく。
「んっ? バカですかあなた……この殺気を前に……ん?」
「後ろだ、バ~カ!!」
「ほぐっ?!」
上手くいったぜ! 相手が油断していると見越して、体勢を低くしていたんだ。そして、相手の視線よりも低い位置から、思い切り滑り込むようにして背後を取った。
案の定、相手は首だけを後ろにしていたからな。思い切り腹に蹴り込む事が出来たよ。もちろん、爆炎を上げる爆発も起こして吹き飛ばしている。
だけど、相手の体は燃える事なく、そしてそのまま倒れる事もなく踏ん張りやがった。
「ひょほほほ……今のは良~い蹴りでしたよぉ。それに、確かにその力は魔王様のものだ。それなら尚更、あなたは魔王になるべきです」
「へっ……断るぜ!」
そして俺は、構えを取りながら相手にそう返した。




