第十五話 黒曜の騎士団 ①
吹っ飛んでいったエリクを追いかけ、どっかのデカい家に突っ込んだ後に続くと、そこには意外な光景が広がっていたよ。
薄暗いけれど広めの部屋の隅の方で、縛られて身動きが取れなくなっている、ジルとソフィの姿だった。しかも猿ぐつわまでされて……さぞかし怖かっただろうな。
とにかく、その2人の近くに降りようと、俺は身を乗り出した。
「2人とも、もう大丈夫だ。俺が助け……」
おい、ちょっと待て……なんで項垂れてる? ソフィに至っては、凄い目でジルを見てるぞ! おいおい、そこは俺の登場で、嬉しくて感動する場面じゃ……。
「……これはラッキーだな。まさか、もう1人の捕獲対象者が、自らやってくるとはな」
すると、ジル達の傍にあったもう1人の影が、俺の方にその視線を移した。男性か……明かりは窓から漏れてるから、姿は見える。
こいつもまた、黒い服装をしているが、ジャケットがロックっぽいぞ。パンクとは違って、刺々しさはないけれど、威圧感があるな。下もそれに合うようなズボンだ。
そして髪の毛は、赤と黒のメッシュか……更にロックっぽいな。ただ、筋肉はなさそうだぞ。それなら余裕だと思うが、こっちは魔法とか特殊な能力がある世界だからな……油断できねぇ。
しかもなんだあの目、高圧的な目だな……そういう目は、何度も受けてきたから分かる。こいつは、野心に溢れている。良いねぇ……そういう奴を叩きのめすのも、俺は好……。
『…………』
ことある毎に妖精が睨んで来やがる、くそが!! しょうがねぇだろうが、こんな前世と同じ様な、血がたぎる展開ばかり起きたらよぉ!
「ギー、起きろ。お前の影をやったのはこいつだな?」
すると、そいつの言葉に反応するようにして、その横でケツを上にして、頭を地面に付けて倒れていた奴が、ゆっくりと起き上がった。って、こいつは……あの宿屋にいた奴か。本体ってわけか?
「うはぁ~お~こすなよ~今逝ってたのによぉ~あ~気~持ち良い~」
「このドMが」
「ギャ~ハハハハ~!! ドMこそ、神聖な奴の証よぉ~!! 神様の言うとおりにする、正に模範的な奴は、ドMしかいねぇのさぁ!!」
うわっ、表情が狂ってるわ……それは俺でも流石に引くぞ。
「あ~ナイスバディの女~お前、こんな所まで来やがったか~」
「お前がしっかりとしないからだ。良いか、ちゃんと捕まえろ。殺すなよ」
「…………あ~そうだっけ?」
「貴様……また殺そうとしたんじゃないだろうな?」
こいつ、宿屋で俺を殺そうとしていたな。どうやら、敵の狙いは俺でもあったか。つまり、屋根の上に居た奴は……俺を狙っていたりもしたのか? マジかよ、危ねぇ……。
「あ~でもそうか~殺し合いしてて火が付いちゃったけど、捕まえて、アへらした方が良いよなぁ~!」
こいつやべぇわ……頭のネジが数本どころじゃねぇ、ぶっ壊れてやがる。
「そ~ら、続き始めるぜぇ~!!」
すると、その建物の部屋の中心に降りた俺に向かって、そいつが凄いスピードで迫ってきた。影はこいつの実力の半分ほど、つまり、本体のこいつはもっと強い。良いじゃねぇか……と言いたいが、もう1人がジルに近付いている、そっちも何とかしねぇと!
「はばぁあっ?!」
「えっ?」
だけど、俺に迫っていた奴が攻撃をする前に、誰かがそいつを殴り飛ばした。誰だ? 俺と奴の間に誰かが……。
「おいおい……俺の女に手を出してんじゃねぇよ。異常性癖者が!」
エリクだった……そういやこいつも居たな。というか、今まで何を……と思ったら、その後ろで年配の奴が項垂れているぞ。まだ誰かいたのか。
「いやぁ、大臣から情報取ってたら時間かかっちまったわ。だけど、俺が来たからにはもう……うほっ!!」
すると、ゆっくりと俺の方に近付いてくるエリクが、腰の刀に手をかけた瞬間、目の前で凄い形相になっていたギーの奴が、槍にした腕で、エリクを貫こうとして来やがった。エリクはそれを何とか避けたが、なぜか相手が凄いキレてる。
「おいおいお~い……か~んべんしてくれよ~男が割って入るなよ~萎えるぜぇ~」
表情は完全に怒ってるのに、話し方は変わらねぇんだな。とにかく、そいつはエリクに向かって、次々と槍にした自らの両腕を、突き刺そうとしている。
「お~とっと。そりゃ俺だって、可愛い子ちゃんと一緒に戦いよ~でもな……」
待てエリク、俺に向かってウィンクするな……気持ち悪い。って、ちょっと待てよ……あいつが見てる方向は……ジルとソフィ? あっ、そうか! 今の内に助け……。
「うぉっ!!」
「はぁ……やっぱりこうなったか。せっかく俺の特異力で、聖女の予知を無力化しても、人選ミスるとこうなるんだな」
危ねぇ……ジルとソフィを助けようと思って走ったら、目の前にもう1人の奴が現れて、俺に向かって剣で斬りつけて来やがった。速ぇな。
それと、こいつがソフィの予知を突破した奴ってわけか。どういう特異力かは分からねぇが、予知を突破するような能力なら、戦闘向きじゃないんじゃねぇのか?
どっちにしても、こいつを倒さないと……。
そして、そいつは手にした剣を強く握り締め、俺を睨みつける。だけど、動きが分かるぜ。その力の入り方、右から来る。
「うわっ!!」
「んっ? ちっ……中々反射神経が高いな。避けられるとは……」
ちょっと待て、右から来ると思ったら、左から来たぞ。
「そら、次いくぞ」
「おいおい……そんな構え、当然上から……なっ!!」
えっ? 相手が脇を空けていたから、上から振り下ろしてくるかと思ったら、下から振り上げてきた。顎を2つに裂かれるところだった……。
ちょっと待て、俺はさっきからなんで、相手の攻撃を決めつけてんだ?
「……」
まさか……もう相手は、特異力を使っているのか?
「感づいたか。だが、これは攻略出来ないぞ」
すると、相手は俺に向かって走り出し、距離を詰めてくる。このまま横に振り抜いて……って、待てや。だからなんで、決めつけてんだよ! なぜかあいつの動きが頭の中に……あっ、まさか!
「くっ……!!」
「おっ? 距離を取ったか、やるな」
「てめぇ……俺の頭の中、勝手に弄るんじゃねぇよ」
「弄ってはいないな」
「あぁっ?!」
「まぁ、だいたい気付き始めてるか。こんな奴は初めてだな。良いだろう、特別サービスだ。俺の特異力はな、相手にサブミナル効果を与えるものさ」
なんだか難しい言葉が出て来たぞ。サブ……なんだって? こんな時に、大物演歌歌手の名前出してくるな。
「お前、なにか別の事を考えてないか? サブミナル効果はいわば、刷り込みの事さ」
「あ~ヒヨコが最初に見た奴を、親と認識するあれか」
「あれとは少し違うが、要するに相手に気付かれないよう情報を与え、そうだと思い込ませる事さ。俺の場合は、相手の脳に直接情報を与えるのさ。ただし、その情報量は少量だ」
あんまり多すぎたら、流石に分かっちまうよな。
なるほどな……要するに、右から斬りつける自分の姿を、俺の脳にコマとして送れば、俺は相手がそう動くと思い込んでしまう。その後別の動きをすれば、虚を衝けるよな。
「なるほど……戦闘で使われたら、厄介だな。だけど、それと予知をするのと、どういう……」
「予知は、あくまでそいつの感受性の強さで起こることだ。予言のような、何者かから与えられるものとは違う。だから刷り込みで、別の予知を少量与えれば、もう大混乱さ」
あ~なるほど……そりゃマズいな。
「そして、戦闘は言わずもがなだ。覚悟しろ、この黒曜の騎士団、セルジュ・ランヌに、少しでも勝てるなんて希望は、抱かぬ事だ」
そう言いながら、そいつはゆっくりと俺に近付いてくる。俺を捕らえる為に……。
とにかく、俺を捕らえようとしているなら、殺しはしないだろう……だが、その油断が危ねぇ。殺されるつもりで戦わねぇとな。
「お前の方こそ、俺がただのか弱い女エルフだと思わねぇ事だな!」
「そんな事、百も承知だ。ギーの影を倒しただけで、ある程度の強さがあると認識している。俺を甘く見るなよ」
なるほどな……こいつはやべぇ、油断も隙もねぇわ。そりゃ、ギーって奴にもそういうのは無かったが、こいつは更に、狙った獲物は絶対に逃がさないといった目をしていやがる。
気を抜くと、一瞬で終わる!




