第九話 命の使い方
俺がリディと決闘していると、ドラゴンが上から舞い降りてきた。それは良いが、そのドラゴンが喋った上に、俺の名前を言ったぞ。というか、声がジルなんだよ。まさか、ドラゴンに変身したのか?!
「くそ……トランス系かよ。やっかいな特異力持ちが居やがったな。お前、仲間に恵まれてたな」
「あぁ? つっ……!!」
「止めとけ止めとけ、その足で蹴れたのは驚いたが、もう一撃も蹴れねぇだろうが。それ以上暴れると、一生立てなくなるぜ」
くそ……こいつの言う通り、これ以上は厳しいな。さっきので倒れなかったのは、誤算だわ。案外右足のダメージもデカかったな。
「さ~て……野郎共!! それぞれの船に報告しろ! 撤退だ!」
「はい! ボス!!」
「死んだ者には申し訳ないが……これ以上犠牲者を出すわけにはいかねぇし、なによりこのままだと、この船が落とされそうだからな」
「その通りです。素直に退いてくれれば……つっ!」
「ジル?!」
なんか、相手が撤退の雰囲気だったにも関わらず、どこからかジルに向かって、飛行艇の砲台で攻撃しやがったぞ。大丈夫か、あいつ。
「馬鹿やろう!! なにやってやがる!」
すると、それを見たリディが、ジルに攻撃をした船に向かって叫んだ。そりゃ、命令無視したんだもんな。
「すいません……リディさん。でも、やっぱり俺は……ドラゴンを見ると許せなくなるんすよ。俺の家族を、友人を……俺の目の前で食った、あのドラゴンの姿がちらついてしまうんっすよ!」
「馬鹿やろう……」
なんなんだ、こいつらは……ただ悪い事をしているだけじゃない。こいつらは、戦争をしているんだ。グランクロス国に対して……だけどな、それが全て私怨なんだわ。
「申し訳ないですが……僕はその時のドラゴンではないです。当時の魔王軍にも、ドラゴンに変身する特異力持ちがいたのですね」
「あぁ、分かってる……分かってるよ。お前があの時のドラゴンじゃないのは……それでもなぁ!! やっぱダメなんだよ!」
すると、その男性は他の奴に指示を出して、またジルに攻撃をしようと、その砲台の先を向けてきた。やべぇな、こいつ。完全にイカれてるわ。その怒りに飲み込まれている。
「しょうが無いですね……グラース・スフル」
そして、ジルはそいつが止まらないと分かったのか、思い切り息を吸い込んだと思ったら、敵の飛行艇の砲台に向けて、吸い込んだ息を吹きかけた。すると、その砲台があっという間に凍り付いた。
凍る息かなにかか? とにかく、これならあいつも砲台で攻撃は出来ないよな……と思ったら、そいつは剣を取り出して構えると、ジルを睨んできやがった。おいおい、止めとけって。だけど、止めようにも俺は動けねぇ。
「……ったく、あの野郎」
すると、リディが今いる飛行艇から跳ぶと、隣の少し低い所にいる飛行艇に乗り移り、そしてまた跳んで隣に行き、攻撃している奴の所まで、移動していく。お前、曲芸師かなにかか? しかも、凄いスピードなんだが……。
そして、攻撃している飛行艇まで辿り着くと、リディは頭に血が上っているそいつに向かって、平手を打ちをかました。よく粉砕しなかったな。力を加減したのか?
「……つっ……ボス、なんで」
「てめぇ、私の顔に泥を塗る気か?」
「い、いえ……しかし……」
「私がこいつと一騎打ちすると言ったんだ、他の奴は手ぇ出すんじゃねぇよ!!」
こいつ……やっぱりただの賊じゃねぇな。腹に決めた1つの信念ってやつがある。それが、他の空賊達をまとめられている理由か。
「てめぇもだ! 私達の決闘の邪魔すんじゃねぇ!!」
「なっ?!」
そしてリディはなんと、ジルに向かってもそう叫んだ。まぁ、確かに決闘を邪魔したな。そりゃ怒られるのも無理ねぇよ。
「決闘決闘って……僕はただ、マリナさんの身を心配して、助けに来ただけです!」
「……」
俺の心配を……? へぇ……そうかそうか。心配くらいはしてくれるんかい。
だけど、お前の心無い一言は……ってちょっと待て、なんで俺はあいつのあんな言葉で、こんなにもムカついて、更にはこんな事をしてしまったんだ?
「そうかい。そんなにこの女が大事ってかい?」
「…………」
なんか言えや。相手の言葉に対して無言になるな。
お前、いったいどういうつもりで俺を気にかけてくるんだ? なんなんだ、何を考えているんだ、お前は。
「……まぁ好い。連れてけ」
「良いんですか?」
「そいつが、確実に魔王になるかが分からねぇし、私達はあの国がやろうとしている事を、止めようとしているだけだからな。それと、あのいけ好かねぇ大臣の言いなりにはなりたくねぇな」
すると、リディがそう言った後に、空賊の男性の1人がリディに近付いていく。
「しかしリディ、この依頼を達成すれば、あいつから多額の金が……それに、あいつに取り入って内部に侵入して、そこから崩せば……ぐっ!!」
おいおい、金的しやがったぞ。大丈夫か? 今はねぇけど、つい股に手を当てたくなっちまった。
「うるせぇな。元はと言えば、お前がこんな話を持ってきたんだろうが。空賊団を維持するには、金が要るって言ってな。私も金は必要だと思ったし、手段なんか選んでられないから、あいつの依頼を受けたし、口実にも乗ってやったが、やっぱりグランクロス国の大臣だ。この依頼は、最初から受けるべきじゃなかったんだよ!」
「しかし……この戦いで死んだ者は……」
「もしこの選択が間違っていたら、私が自害して、あいつらに詫び入れにいってやる!!」
すげぇな、この人は……何というか、芯がしっかりしてやがる。だが、命をそんな風に使うのは違うと思うぞ。それと、こっちにも死人は出てるんだわ。
「おい……リディ。命はそんな事で捨てるもんじゃねぇ。詫び入れるなら、生きて行動で示せば良いだろう。それと、こっちにも死人出てんだわ……」
この飛行艇に移動する時、血塗れで倒れている軍人が、数人いたからな。あの血の量では、多分助かってねぇわ。すると……。
「マリナさん、こちらで死人は出てませんよ。治療班が迅速に治療したので」
「ほら……こいつも言って……って、なに?!」
ジルが当然のように、そう言ってきた。ちょっと待て、死人が出ていない? おいおい……筋通せとか、こいつに言ってしまったじゃねぇか。
「……だとよ。まぁ、今回は私達が退いてやる。ただし、もしお前が魔王となるようなら、速攻で殺しに行くからな。肝に銘じておけよ」
そして敵の飛行艇から、ジルの大きな手に掴まれ、そのまま手のひらに乗せられた俺に向かって、リディがそう言ってきた。
魔王にね……それは、俺の行動しだいってやつか? だが、強制的に更正させられようとしてんだ、魔王になんかならねぇよ。
だってよ、魔王になんかなったら、俺はその存在を消滅させられるだろうが……魔王なんて、どう見ても更正してねぇだろうしな。
「まぁ、お前がどうなろうと、私達のやることは変わらねぇよ。そして、他人の命の使い方を、貴様が決めるな」
そう言うと、リディとその仲間の空賊達は、その場から飛び去って行った。なんなんだ最後のは……折角の人の忠告を……って、俺の方が年下っぽいしな、あの返しはしょうがねぇか。
「……両足」
「んっ? いてて……骨いってるから、あんま触んな」
「なんでこんな無茶を……」
「知るか」
そして、空賊団が去って行った後、ジュスト達の飛行艇に向かいながら、ジルがそう言ってきた。なんだろうな、こうなったのは自分のせいだって思ってるんか?
「ゲリール」
すると、ジルがそう言った瞬間、俺の足に淡い光が纏わり付き、痛みを和らげてきた。というか、動かせるぞ。
「治癒魔法です。骨は治しました。動かせるはずです」
「おぉ……すげぇな、魔法」
ただ、お腹下しそうな呪文だったな。だけど、これは俺も使えるようになりてぇな。そうしたら、1人で喧嘩ふっかけて怪我をしても、こうして治せるからな。
「ただし、しばらくは起き上がれないので」
「……おい」
リスク高ぇよ、バカやろう。
「ごめんなさい……」
すると、動けずに手の中で大人しくしている俺に、ジルがそう言ってきた。やっぱり、あの事気にしてたか。
まぁ、あれは俺も大人気なかったし、緊急時にふざけすぎたよ。だから、全部こいつが悪い訳じゃねぇ。って、男だった時の俺ならそうは考えないだろうな。
あの村長の薬膳料理のせいにしとこう。
「あ~まぁ、俺も悪かったよ」
だから、俺もこうやって謝れる。
『まぁ、反抗期って事にしといて上げるわ』
おい、また妖精が出て来やがったよ。ずっと見てたんか?
だが、今反応したらジルが怪しむ。全く、出現するタイミングってのも考えて欲しいもんだな。




