第六話 エスパース空賊団 ②
一気に上に飛び上がった俺は、上を飛んでいる飛行艇の、その側面まで辿り着いた。
これなら、もう1回この側面を蹴りつければ、船のバランスを奪いつつ、その勢いで俺は甲板の所まで行けそうだな。
「ふん!!」
そして、そのまま俺は甲板を思い切り蹴りつけ、再び爆発を起こすと、その勢いに乗って、更に上に飛び上がる。ただ、船のバランスは崩れなかったな。思いのほか頑丈じゃねぇか。
だが、なんとか甲板の所まで飛び上がれたな。
「なっ! 侵入者だと!」
「くそっ、さっきの爆発か?! って、こいつは!」
「予言の魔王だ! 殺せ!!」
そして俺は、そのままその船の甲板に降り立つが、思いのほか敵が多かったわ。
俺が着地した瞬間、そいつらが騒ぎ出したな。その後に、そいつらがこっちを向くと、手におかしな形をした剣を握り、襲いかかろうとしてきた。
20人近くは居そうだな。流石にこの数を相手にはしてらんねぇな。
「はっ!!」
とにかく、俺は急いで甲板の床にかかと落としを放ち、再び爆発を起こした。威嚇の為にな。
まぁ、これでビビるくらいなら、人を殺しには来ないだろうが、一瞬隙は出来るよな。そこを突く。
「あっ! こいつ!!」
「くそ、止めろ!! 直ぐに殺せ!!」
「はっはっは~! 止められるものか!」
全力ダッシュだ、全力ダッシュ! そんでその先の、艦内に行く扉に飛び込めば……!
まぁ、まだここに頭がいる証拠はない。ないんだが、こんなデカいのを奪う事が出来れば、戦況は一気に変わるよな! 操縦する場所はどこだ? そこを落としてやる。
「とぉりゃぁあ!!」
そして俺は、艦内に入れそうな重厚そうな扉を見つけ、そこに向かって飛び込むと、右足で思い切り蹴りつけようとした……が。
「ぬぉっ?!」
「全く、騒がしい。たかだか一匹、お転婆なネコが迷い込んだだけだろうが」
いきなり扉が開いたと思ったら、誰かに俺の蹴りを止められてしまった。
ちょっと待て、それでもその瞬間爆発したのに、こいつピンピンしてやがるぞ。ただ、爆発がちょっと弱いと言うか、細かくばらけたような、そんな感じがしたぞ。
「なんだお前!」
「それはこちらの台詞だ……と思ったが、まさか貴様、その能力は予言の……」
そしてそう言いながら、ゆっくりと艦内から、そいつは姿を現した。
「えっ? 女?!」
「それがどうした?」
へそまでのタンクトップに、ホットパンツだと?! しかも、体型が俺と同じ様な、巨乳にくびれがしっかりとあるタイプだ。だからこそ、その服装は色々と危ない。更に、男性なら一発で落ちる程の美女だが……顔付きがキツそうだ。
そしてそいつは、金髪でウェーブのかかったロングヘアーを靡かせて、つり上がった目で俺を睨みつけた。
思い切り喧嘩腰じゃねぇかよ。やんのか? やるならやるぞ。同じ女なら、負ける気がしねぇわ。男でも負ける気しねぇけどな。
だけど、その後そいつは、後ろから慌ててやって来た部下らしき人物から、青いラインの入った、白い軍服の上着を羽織らされた。
おい、それって……ジュストやセレストが着てるやつと同じじゃねぇか。どうなってる?
「貴様、ここに単身乗り込んできたのか?」
「あぁ、そうだ。この船を乗っ取るためにな!」
「乗っ取る? はははっ!! 面白い事を言う奴だ!」
面白いか? だけど、その内笑えなくなるぜ。
「ボス、気を付けて下さい。こいつ特異力持ちです」
「分かってる、さっき見た」
ボス?! この女が、ここのボスだと?!
嘘だろう……こんな大集団を、女がまとめていたのか?
「さて、貴様、名前はなんと言う?」
「マリナだ。名字はねぇからな」
「そうか。私は、このエスパース空賊団をまとめている、リディ・エライユという」
「そうか、リディか……それで、てめぇがボスなら色々聞きてぇが、まずその軍服はなんだ?」
そして俺は、そのリディという女が肩からかけている、軍服の上着を指差してそう言った。
「これか? 簡単な話だ。私も含めて、このエスパース空賊団のメンバーは全員、元グランクロス国の軍人だからだ。その数、約200人だ!」
「なっ?!」
元々あいつらの国の軍人だっただと!! それなら、なんで同じ国の奴を襲ってんだよ、訳わかんねぇぞ!
「だったら、なんで同じ軍の奴を襲ってんだよ!」
「知れた事。お前の魔力を感知した瞬間分かったよ。あの国は、また同じ過ちを繰り返そうとしている。再び、魔王にこび売ろうとしてやがるってな!」
「なんだそりゃ? 俺はその辺分かんねぇんだよ。だから、勝手に話進めてんじゃねぇよ」
すると俺の言葉に、リディって奴が驚いた顔をした。なんだ、なにか意外だったか?
「貴様……あの出来事を知らないと言うのか? あぁ……だが歳からして、分からないのも無理はないか。しかし、親から聞いてなかったか?」
悪かったな、この世界で生まれたわけじゃねぇからな。だが、それを言ったらややこしくなるから、黙っておこう。
まぁ、こいつ20代後半か……30代いってそうなんだよな。その話が10年以上も前の事なら、俺のこの歳じゃあ、分からない可能性はある。しかし、30歳手前でその身体は恐れ入るな。
「まぁ、良い。教えてやろう。知らずにあいつらと一緒にいるなら、無理やり連れて行く必要はなさそうだからな。良いか、グランクロス国はな、以前魔王が暴れていた時、唯一その魔王に寝返った国なんだよ」
「なに?!」
つまりグランクロス国は、魔王側の国だったのか? いや待て、まだなにかありそうだ。こいつらの早合点という可能性もある。
「なんであいつらの国は、魔王側についたんだ?」
「簡単だ。領土を根こそぎ奪われて、残すは王都のみとなった時、魔王の下につくと、当時の国王がそう言ったのさ」
あ~なるほどな……苦渋の選択だったわけか。
「それで、お前達はなんで国を恨んだんだ?」
「それも簡単だ。我が空賊団にいる奴等は全員、家族を、大切な者を、魔王に殺されているんだよ。私も軍人だった夫を、魔王軍との戦闘で亡くしている。分かるか? それなのに魔王の下につくと言った、その国の裏切りを! だから私達は国を出た。そして、その国のやろうとしている事を止めるために、戦っているんだ!」
そう言ったリディの顔は、まさに鬼のような形相になっていて、肩にかけるようにして羽織っている、その軍服の上着を握り締めた。それってもしかして、夫のものか?
なるほどねぇ、同情は出来るが、それで無理やり俺を狙ってくるのは、いけ好かねえな。
確かにあんたん所も、今回ので死人が出てるが、少なくともこっちにも出てるんだよな。
同情を理由に、人殺しをして良いわけねぇんだよ。
「なるほどな、分かった。それでもな、人ととしてやっちゃいけねぇことはあるんだわ。そこんとこ、しっかりと筋を通して貰わねぇな」
「……へっ、言うねぇ。確かに、このまま去ったりは出来ねぇし、貴様も大人しく付いてくる訳にはいかねぇよな」
「そう言う事だ。それと、グランクロス国が本当に悪い奴等なのかどうかは、俺自身が見て判断する。てめぇの物差しで測った判断は、要らねぇよ」
「分かった。良いだろう。そして、ここに単身乗り込んで来た、その貴様の勇猛さを称え、この私が1人で相手をしてやろう!」
そう言うと、リディは肩にかけていた上着を投げると、俺の方にゆっくりと近付いていく。おぉ、上着は部下がキャッチしたぞ、流石だな。
「一応イーブンにしてやるために、私も『特異力』持ちだという事を言っておいてやる」
「へぇ、そいつは親切にどうも」
「私の両手に気を付けな」
そして、俺達は互いに向き合い、睨み合った。




