第五話 エスパース空賊団 ①
その後俺は、更に戦闘音の激しい方向へと向かう。すると、頑丈そうで重そうな扉が目の前にあった。その先から、色んな奴等が戦ってる音がする。なるほど、この扉の先か。
そして俺は、その扉の取っ手を掴むと、それを右に回していく。
この扉、金庫みたいな取っ手で、両側から掴んで回して開けるタイプじゃねぇか。いや、飛行機かってそうみたいだが、これを手動でとか、キツいぞ馬鹿や……あぁ、横にレバーがあったわ。なに馬鹿正直に手で開けようとしてるんだ、俺は……。
とにかく、俺はその上に上がっているレバーを下に下げた。すると、目の前の重厚そうな扉が、上に上がり、そこから先が、外になっていた。
その前に、この取っ手はフェイクかよ。って言うか、なんで中なのにそんな事をしていやがる。普通外側だろうが……この船を設計した奴、なに考えてやがんだ。
「うっぷ……! 風が……」
そして、その扉が開くと同時に、凄い風が吹き荒れてきた。あぁ、確かに飛んでいやがるな。目の前を青い空が広がっている。
ついでに、この船よりもちょっと小さめの飛空艇数隻が、前方と左右に展開していて、そこから更に、人2人が乗れるか乗れないかぐらいの、小さな飛行機が飛んで来ている。
その飛行機からも攻撃されているが、接近された飛行機から、操縦していない別の1人が、この船に飛び降りてきて、そのまま襲ってきている。
なるほどな、こうやって襲撃しているのか。それを、この飛行艇に乗っている船員達が相手をしているが、どうやらこの飛行艇に乗っている奴等は、全員軍人らしいな。動きが素人じゃない。
「ふっ!」
「とりゃぁ!!」
すると、俺の目に最初に飛び込んで来た2人が、激しく斬り合う中で、片方の武器を弾いた。
弾かれたのは、格好からして空賊の奴の方か。って、おい、何してんだ? そのまま突き出した剣を引いてんじゃねぇよ。
「ぐぎゃっ!!」
刺した……刺しやがった。相手はもう、武器を失っているんだぞ。そこまでやるか?
そりゃ俺だって、無抵抗の奴をフルボッコにした事はあるが、命までは取らないようにしていた。捕まってやっかいな事になるのはもちろんだが、そこまでしなくても、心を徹底的にたたき折れば良いからな。それなのに……こいつは刺しやがった。
「お……」
「囚人が何をしているんですか?」
すると、俺がその刺した方の軍人に、文句を言おうとした瞬間、俺の後ろから声がしてきた。この声は、ジュストとかいう奴か。
「あっ? むしゃくしゃしているから、襲ってきた賊を蹴り飛ばしに来たんだよ」
「それはそれは、良いご身分ですね。武器も持たずに、何を考えてるんですか? まぁ、あなたは囚人ですから、そんなもの持たせませんけどね」
こいつムカつく。人をバカにしたような目つきで言って来やがって!
「武器なんて要らねぇよ!」
「ほぉ、自殺の趣味でもあるんですか?」
「そういうのは趣味って言わねぇぞ!」
なんなんだ、こいつの嫌味っぽい口調は。本当に腹が立つぞ。
だけどそんな時、俺の目の前から空賊の1人が、その変な形をした剣を振りかざして、こっちに迫ってきた。
「おやおや、それじゃあどうするんですか?」
「こうすんだよ!!」
「ぐぁぁあ!!!!」
そして俺は、迫ってきた空賊の奴の攻撃よりも早く、そいつの左腕から蹴り抜いて、更にあの爆発を起こして吹き飛ばしてやった。腕の骨と肋は折れたろうが、死んじゃいねぇだろう。剣も遠くに吹き飛んだし、これでこいつは戦闘不能だ。命まで取る必要はね――
「舐め……てんじゃねぇぞ! 世界最強の空賊団が、これくらいでやられるかぁ!!」
「はぁっ?!」
おい、嘘だろう! 踏ん張りやがった! しかもそのまま、腰に付けていたダガーみたいなものを右手に持つと、また襲って来やがった。
「ちっ……この!!」
「がはぁあ!!」
だが、さっきよりも動きが遅ぇ。だから、俺は咄嗟に回し蹴りをして、そいつの右腕も蹴りつけて、再度爆発で吹き飛ばす。だけど……。
「ふぅ……ふぅ……」
「嘘だろう!」
また立ちやがった。なんだその気力は……なんでそこまで戦おうとするんだ? 理解出来ねぇ……。
「ふぅぅぅぅ!!」
しかも今度は、ダガーを口に咥え、身を低くすると、俺に向かって突撃してきた。まさに、命尽きるまで戦い抜くといったような目をして……。
「ぐぶっ!!」
「えっ?」
すると、俺の後ろから短剣のようなものが飛んできて、俺の目の前の空賊の胸に、深々と突き刺さった。
そしてその空賊は、苦悶の表情を浮かべると、そのまま膝を突き、前のめりに倒れた。
「……マジか」
その後、そいつの体から流れ出た血が、床に広がっていく。こいつ、死んだのか? もう動かない。
なんでだ、なんでこいつらはここまでして戦うんだ? 襲ってくるんだ? たかが賊だろう。奪うのが困難ってなれば、逃げるだろうがよ。
訳分かんねぇ……。
「人を殺す覚悟がないのなら、戦闘の邪魔です。とっととさっきの部屋に引っ込んでいて下さい」
「……るせぇよ」
「ちょっとした『特異力』があるからって、そんなの関係ないんですよ。こいつらは、まさに決死の覚悟で、我々に勝負を挑んでいるんです」
「……なんでだよ、なんで命をかけてまで……」
「あなたを、殺す為ですよ」
「はっ?!」
また訳分かんねぇ事を……この世界に来たばかりの俺を、なんで殺そうとするんだよ! 意味分かんねぇぞ!
「恐らく、さっき言った過激派の連中が、この空賊団に依頼したんでしょうね」
「なんでだよ……なんでそこまでして俺を……」
そして俺は、後ろで空賊の奴等を処理しているジュストに向かって、睨みつけながらそう言った。
俺が魔王になりそうだからって、ここまでする必要があるほどなのかよ。
「まぁ、この空賊団のトップにとっては、依頼があろうとなかろうと、あなたを殺そうとしてくるでしょうね。それにこの空賊団は、魔王に色々とされてきましたからね。それこそ、人には言えないほどの事をね……」
「ちょっと待て。魔王って、そんなつい最近まで……」
「えぇ、つい最近……と言っても、10年程前ですね。それまで、魔王と人々の激しい戦いが、繰り広げられていましたよ」
俺が質問しようとした瞬間、答えてきやがった。だけどな、それは俺じゃねぇだろうが。
「理不尽な……俺はその時の魔王って訳じゃ……」
「その力を、受け継いではいそうですけどね」
「なんだって?」
「……いえ。とにかく、あなたは邪魔です。早く部屋に戻りなさい」
誤魔化しやがって……それと、言ってくれるねぇ。俺が邪魔だって? お前から潰しても良いんだがな。その刀身が細い剣を、目にも止まらぬ速さで振ってなければな。
なんだあの武器、フェンシングとかで使ってたっけ? そんな剣だな。
「ふん、別にこいつらを追い払えば良いんだろうが」
とにかく、ジュストの態度がムカつくわ。だから、この場を俺が解決してやれば、少しは俺の事を見直すだろうな。
「マリナさん!」
すると、ジュストと睨み合う俺の背後から、今度はジルの声が聞こえてきた。
「マリナさん、なにやってるんですか! ここは危険です、早く中に……」
「うるせぇな。誰がお前の言うことなんか聞くか」
「なっ……!」
「それに、この事態は俺のせいで起こってるんだろう? ふざけんな、俺は人に貸しを作るのが、大っ嫌いなんだよ。だれが助けてくれって言ったよ?」
そうだ、こいつらが俺を狙っているのに、勝手に俺を守ろうとするし、色々と隠して来やがる。自分の事は、自分で出来るわ。勝手な事をするな。
するとその時、俺達が乗っているこの飛行艇の甲板に、別の飛行艇の影が出来た。
「マズいですねぇ……まさか、更に上に付かれるとは……ジル君、そのお転婆な子を連れて、部屋へ!」
「はい! さっ、マリナさん、行きま……」
だから、誰がお前等の言うことなんか聞くかよ。駄々をこねてるガキみたいに見えるが、こいつらが俺を狙って、他の奴等を殺しに来てるなら、これ以上こいつらを犠牲にさせるわけにはいかねぇんだよ。
だってこいつらは、俺とはなんの関係もないんだからな! これは俺の問題だ。俺の戦いだ。
だから、お前等が邪魔をするんじゃねぇよ!
「マリナさん?!」
そして俺は、甲板の床を踏みしめて、思い切り蹴り上げるようにして、上に跳び上がる。すると、俺の考え通り、蹴った瞬間に爆発し、その爆風に乗ってもの凄く飛び上がる事が出来た。
因みにジル達は、俺を止めようとしたものの、爆風で煽られて、止めるタイミングを逃していた。
とにかくこれなら、今上を飛んでいる飛行艇まで行けそうだ。だってよ、この飛行艇、俺達の乗っている飛行艇を囲っているものよりも、デカいんだよ。つまりこれに、この空賊団の頭が乗っている可能性が高い。
見てろよ、直ぐにでも決着を着けてやるよ。




