Episode #07「薄氷」
2087年12月03日 PM7:00
カナダ領中央部 モントリオール湖 朧月 艦橋
ルート60での包囲網脱出からおよそ一週間後、カナダ領の中央、
サスカチュワンまで辿り着いた朧月はその後も続いた幾度の追撃を
迎え撃ち、燃料、資源共々、底を尽きかけていた。
艦橋でマルクとリョウが互いに難しい顔を向き合わせている。
「連中とは明日には合流できるんだろう?」
首筋を掻きながらマルクがリョウへ訊ねる。
「ええ、その予定よ。明朝、4時頃接近するそう…
で、エンジンのメンテナンスの調子は?」
「無茶しすぎて、そろそろエネルギー炉のパーツが限界だ。
オーバーホールって程じゃないが一度、完全に炉を停めてから
点検しなきゃならん」
「予備電源は…無理よね」
「そりゃな。予備電源でのステルスや航行は不可能だな」
「で、どのくらい掛かりそう?」
「そうだな、3日…いや、2日で終わらせる」
リョウは「フッ」と、鼻でため息を吐いた。
「そう…それまでに合流できればいいけど」
「ん?ああ、アントのことか?」
「昨日ね、極秘回線へ連絡があったのよ。「戦闘による脚部と頭部の
損傷で修繕、連絡に手間取った、現在地を知らせたし」ってね」
「ほう、やっぱり生きてたか。まぁ殺しても死ぬタマじゃないな」
マルクの嫌味に耳を貸さず、リョウは再びため息を鼻で吐く。
「でも、発信源から察して2日だとギリギリなのよね」
「うん?半日くらい待ってやればいいじゃないか」
「…ホラ、あれよ、時間も圧してるし、何より一箇所に
長期滞在するのは敵に見つかるリスクも高いし!」
何かを必死に否定するような素振りを見てマルクは呟く
「素直じゃねぇなぁ」
「ん?何か言った?」
リョウは無理に作った様なスマイルをマルクに向ける。
「いや、何も?俺はギル坊とメンテの打ち合わせがあるからな。
そろそろ行くぜ」
そういうとマルクは後ろ手に手を振りながら、そそくさと
艦橋から出て行った。
「…」
マルクを見送るとリョウは無言で膝を抱え込んだ。
2087年12月04日 AM3:50
カナダ領中央部 モントリオール湖 西岸地点
目に映るのは静かな湖畔以外、何も無い場所をMB輸送用の
大型トラックが一両、目的地へ向けて一目散に走っていた。
数分後、湖の中央部分と思われる場所でトラックは停車し、
運転席からMSを着込んだ運転手が降りてくる。運転手は
非常に線が細長く頼りない印象を受ける。
「この辺りが合流地点のはずだが…」
周りを見渡すが何も無い。ただ、静かに湖畔と草原と道だけが広がっている。
「…ッ」
何かを察したのか、運転手は徐に腰からナイフを抜き、草むらへ投げつけた。
ナイフは何者かの眼前の地面に突き刺さる。
「うおっ!アブね!待った!待って!俺ッスよ俺!」
深紅の機兵が両手を前に突き出した状態で立ち上がり姿を見せる。
「なんだ、ジャーニーか…少しは気配の消し方が上手くなったな…」
低血圧気味な口調で運転手は深紅の機兵をジャーニーと見抜き褒めた。
「あ、やっぱ気づいてました?肩を触るくらいは出来ると
思ってたんッスけどねぇ。やっぱジャックさんはスゲェッス」
「ふむ、それはそうと、艦はどこだ…?」
「艦は向こうの方にに迷彩シート被せて着陸してるッスよ。
でもトラックのまま近づかれると拙いんで資材は手で運んで
来てくれって、リョウさんが言ってました」
「そうか、解った…キョウ、運ぶぞ…」
ジャックがトラックに向けて呼びかけるとトラックのコンテナ部分が
花開くように展開し、中身が現れる。
「ッチ、めんどくせぇなぁ」
トラックの最後尾に置かれた大型MBが起動し、ゆっくりと起き上がる。
「でっけぇ…これもしかして最新型ッスか?」
両椀が通常機より一回り以上大きいMBがトラックの荷台から降りる。
ジャーニーのブラッドゴートとの体格差は大人と子供ほどは優にあった。
「おうよ、連合のエイプシリーズの超重量型「ゴリラ」だ。あたしの
コールネームは「ミカエル」憶えとけよ…ってお前誰だっけ?」
「ジャーニーッスよ。あの時、挨拶したじゃないッスか~」
「あれ?そうだっけ?まぁいいや憶えておくわ」
ミカエルはその大きな腕で後ろの大型コンテナを頭上へ掲げると
ジャーニーの指した方向へ歩いていった。
「俺は細かい荷物を持っていくか…この車はどうするんだ…?」
ジャックはトラックを鼻で指した。
「ああ、これは中の走行記録を改竄してゲリラに襲われたって
事にするらしいッス」
「そうか…とりあえず放置でいいんだな」
ジャックは手に持てるだけの工具箱や資材を抱えだす。
「そろそろ迷彩シートを持ってくるジョージさんが
一体をカモフラージュするんでジャックさんは先に
物資を持って艦へ行ってください」
「わかった…お前はどうする…?」
「俺はまだこの後、周辺の哨戒任務があるんで」
「そうか…頑張れよ…」
そういうとジャックは艦があるはずの方向へ向かっていった。
2087年12月04日 AM4:05
カナダ領中央部 モントリオール湖 朧月
コンテナを頭上に担いだままミカエルが艦へと近づく。
ジャーニーの指した方向へ無心で歩くが、行く手にはソレらしき物は
見当たらず、只々同じ風景だけが目に映る。「まだつかないのか」と、
思い始めた時、突然、前の空間が捲れ上がった。
「お?おお?なんだぁ?」
歩みを止めて眼前を凝視する。すると、白い巨兵が現れた。
「よう、久しぶりだな…あー…どっちだ?ジャックか?キョウか?」
捲れた場所に現れたのはジョージの機体だった。
「俺だよ俺!オッサン!」
「その声は…キョウか、まぁとりあえず中へ入れ。俺はこれから
一仕事してこなきゃならんからな。積もる話は後だ」
「おう、またな!オッサン」
ミカエルは掲げていたコンテナブロックを前に抱えるように持ち変え、
艦の中へ入っていく。
「相変わらず何度聞いてもあの可愛らしい声とあの口調は慣れんな…」
艦内に入るとそこにはマルクが仁王立ちの構えで待っていた。
「さぁ待っていたぞ!とっとと早く資材を出してくれ!
一分一秒でも惜しいんだ!」
早く早くとプレゼントを欲しがる子供のようにマルクが急かしている。
「もう、慌てるんじゃねぇよ、一応、精密機械なんだからな」
ミカエルは慌てずにコンテナブロックを優しく降ろし、一歩、二歩と後退する。
即座にコンテナへ飛びついたマルクは手早くコンテナを開くと
必要としていた資材を用意された大きなカゴへ次々に詰めていく。
ある程度入れると足早に貨物室から出て行った。
その様子をあっけらかんと眺めていたキョウが残りの物資を
取りに行こうとしたその時、部屋の隅から小柄な女性が現れた。
「お疲れ様ですキョウさん」
「よっ!フランちゃん久しぶり!」
馴染みの声に応えるように互いに腕を振る。
「マルク兄はこれからエンジンの整備で忙しいらしいんで、
みんなの機体のチューンナップは私がやります」
そう言いながらフランは拳を握り両肘を腰に打ち付ける。
「そうなんだ。後でこいつの整備とカスタム頼むわ!
アタシの好みで頼むよ!特に色とかさ!」
「はいっ!頑張ります!えっと…後はアームの装甲板の張替えと
脚回りの改善ですよね?」
フランはミカエルを数回、見渡すように診るとそう答えた。
「さっすが!マルの弟子だけはあるねぇ。残りの荷物を取りに
行かなきゃだからまた後でね!」
十数分後、全てのコンテナを運び終えたキョウは
ミカエルを降りると開口一番に、
「アタシはリョウコに挨拶してくるよ。後はよろしくね!」
と告げると、迷いなく貨物室を立ち去っていった。
「任せといて下さい…先ずはミカエルの…それが終わったらウリエル…」
ブツクサと独り言を言いながらフランは作業を始めた。
キョウは艦橋へ向かって歩いていく。幾つかのブロックを抜け、
程なくして艦橋に辿り着く。そこでは愛しい人が歓迎してくれる。
わけでもなく、黙々とモニターを見つめるだけのリョウが居た。
「なんだ?時化てんな…おーい、リョウコー、帰ったぞー!」
リョウは背中越しにキョウに呼び掛けられ、初めてその存在に気づくと、
「ああ、姉さん。おかえり」
と、振り向きもせず素っ気無い返事を返した。
その態度が癪に障ったのか、キョウは徐にリョウの脇から腕を差し入れ
掌で頭を抑えるように抱きついた。
そしてそのまま、
「痛ッ!イタタタッ!何すんのよ!」
ゆっくりと腕を絞め上げながらリョウの頭部を圧迫していく。
「ハハッ、アタシに向かって適当な返事をするとは良い度胸だな!」
キョウは持ち前の豪腕を遺憾なく奮い、そのままの体勢でリョウを
椅子から引き剥がした。
「ご、ごめん、ごめんなさい!」
徐々に絞め上げられていく力に畏怖したリョウは堪らず
キョウの腕を叩き、屈服の意思を示す。その合図でキョウは即座に
拘束を解き腕を引く。リョウは床へドスンと尻餅を衝いた。
「イタタ…」
リョウは首と尻を擦りながら自分の席へ戻っていく。
「わかればいいんだよ。わかれば。ところで、アントはどこ行ったんだ?
あいつの機体もなかったし…いつもの偵察か?」
「いえ、彼は先日まで行方不明で…」
リョウは先日の戦闘経過と結果をざっと説明した。
一字一句を聴いているキョウはそれを理解できたとも、
良く解らないとも取れるような表情をしている。
「そっか、大変だったな。アントも一応、無事なんだな。
安心しろよ!これからは俺が付いてるからな!」
「そうだ…俺も付いてるからな…」
突然、声がしたのでキョウは振り返る。そこにはいつから居たのか
定かではないが入り口側の壁にジャックが佇んでいた。
「うおぉおう!ビックリするじゃねぇか!いつからそこに居た!?」
驚嘆の雄叫びを上げたキョウを眺め、ジャックは薄っすら口元に笑みを
浮かべながら答える。
「お前がネルソン・ホールドを極めていた辺りからだな」
「あ、相変わらず、心臓に悪い奴だな…」
そう言いながらキョウは喉元を拭うような仕草をとった。
「私は一緒に入って来たんだと思ってたんだけど…」
席に戻ったリョウは先程と変わらぬ姿勢でモニターを見つめている。
「とにかく!アタシ等が居れば百人力よ!で、今後の予定は?」
リョウが座る椅子の背もたれに右腕をかけキョウは息巻いた。が、
リョウは淡々とモニターの数字と記号と図形の配置を目で追いながら口を開く。
「とりあえず、エンジン回りの修繕作業が終わるまではここを動けないの。
早速で悪いけど二人には交代で哨戒任務に就いてもらうわ」
「そうか…なら先に俺が回ろう…」
「お?そうか?ならアタシはメンテでも手伝ってくるかね。
あんまり気負うなよ」
キョウは背もたれを叩くとジャックと共に艦橋を後にする。
リョウが二人を後ろ手で見送った後、自分の席で作業を
続けていたホリィが話しかけてきた。
「あいかわらずですね、二人とも」
「でも、安心できるわ」
2087年12月04日 PM5:00
カナダ領中央部 モントリオール湖 東岸地点 連合キャンプ地
モントリオール湖周辺には連合軍の偵察部隊が複数展開し、
近隣で目撃された朧月の動向を探っていた。その最中、
連合キャンプ本部へ通信が入る。
「こちらレディバグ隊、ターシア隊が目標と思われる艦艇を
発見しました。本部の指示を願います」
「おお、よく見つけたな、どうやって見つけた?」
「ええ、周囲にバリアの様な物を張っているので通常では視認は
不可能です。ですが、目標の一部の温度が数度だけが
高いことが判りました。我々の装備でなければ
見つけられないでしょうね。周辺で哨戒する所属不明の友軍と
思われるMBとMSを確認したことから間違いないでしょう」
「ほぅ…一部分だけ高いのか」
十数秒の間が空いた。
「えー…指示は待機だ。観測や不明機のデータは直接、
持ってこい。一部の監視班を残し他は全機帰投しろ」
「戻れと?奴等をこのまま見過ごすのですか?」
「違う、奴らは夜戦を得意とする。ならば、夜に仕掛けるのは
危険だろうが。くれぐれもデータは送信するなよ。向こうには
腕のいいクラッカーが居るようだ。使い物に成らなくなる」
「なるほど、了解しました。では我が隊を残し、全機帰投します」
「うむ、では監視を頼むぞ」
「ハッ」
司令官は通信を切ると司令官の後方に座っていた男の顔色を伺う。
「これでよろしいのですかな?中将殿?」
男は片手を広げ、親指と中指で眼鏡の両端をそっと抑えながら掛け直す。
「ええ、貴方にしては上々ですよ。奴等が早く見つかってよかった。
コレならまだ被害は最小限で済む」
「はぁ…」
的を射ていない表情の司令官は呆けた表情で男を見つめていた。
「さぁ。タイザー司令官殿。周辺の攻撃可能な部隊に招集をかけて下さい。
明日の夜…仕掛けますよ」
「え?夜は危険なんじゃ…」
「ふっ愚問ですね。即座に仕掛けるわけではないですよ。先程の情報が
確かならば姿は見えずとも存在は確認できるわけです。ならば、
動いた直後に総攻撃を仕掛ければ良い。奴等が移動するとしたら
今夜か翌夜でしょう」
「では何故、直ぐに仕掛けないのですか?今夜に逃げられでもしたら…」
やれやれといった表情の男が話を続ける。
「更なる愚問を重ねますね。今現在、この周囲に展開する戦力は先日の
戦闘の半分以下です。それに加え、我が方の新型が近隣の試験場から
消失した。との報告があります。向こうの戦力は増加した恐れもあるのに
仕掛けるつもりですか?それにあの場所で留まる理由が補給なら長すぎます。
市民からの情報だと今日の昼頃には目撃されているようですから」
タイザーは男の考えを聞きながら少々考え込む様な態度を見せる。
それを見透かすように男は話を続ける。
「ふぅ…。とにかく、明日になればロシア方面軍からエース級の
パイロットが数名到着する手筈です。無論、数名は直接こちらに
招致済みです。慎重に行きましょう。背中を捉えたのですから」
そう話を終えた男は不敵な笑みをタイザーへ向けた。
「解りました。他の者にもそう…伝えます」
歯切れの悪いタイザーの返事を受け取った男は
タイザーへ詰め寄り、再び口を開いた。
「お願いしますよ。タイザー司令官殿、今回、私はあくまで、
アドバイザーですので。もちろん、手柄は貴方のモノですよ。
頑張ってくださいね」
男のあからさまに心の籠もっていない一言がタイザーへ送られる。
だが、タイザーはそれを気にも留めず、
「ハッ!ありがとうございます。誠心誠意、任務に努めます」
と、敬礼を返す。男は毒気を抜かれたのか、
「え、ええ。頑張ってくださいね」
と言うと、タイザーの肩を軽く二度叩きテントから去っていった。
2087年12月06日 AM1:49
カナダ領中央部 モントリオール湖 朧月 機関室
明るく照らされた機関室に一つの雄叫びが響き渡る。
「うおぉぉぉぉ!終わったぞぉぉぉ!ギル坊!リョウに伝えろ!」
「はい!」
フランは内部通信用の通話器を取り、艦橋へ繋ぐと、
修理が終わったことをリョウへ伝えた。
「そう、わかったわ。では30分以内にエンジン始動して…そうね、
3時過ぎには出立できるよう準備して」
機関室との通話を切ると直後にリョウの正面モニターの表示が
切り替わった。
「敵機の潜伏ポイントの予測表、出来ました。各機へ転送します」
「ホリィ、バンジョー。後はお願いね。さぁて…とっ!」
リョウは席から勢いよく立ち上がると貨物室へ向かって走っていった。
ホリィがリョウを見送ると、中央最奥にある操縦桿の前に
目を瞑り鎮座している大男がゆっくりと目を見開き、呟く。
「…嵐が来るな」
2087年12月06日 AM2:20
カナダ領中央部 モントリオール湖 西岸地点
「こちら、レディバグスターワン…目標が行動を開始。
展開していた天幕を収容し、エンジンを始動させたようです」
「了解した。レディバグ隊は後退しろ。後は我々が受け持つ」
「了解、御武運を」
「さて…武器を持て!野郎共!仕掛けるぞ!」
中隊長と思われる機兵が武器を高く掲げて息巻く。
それに応えるように機兵達は「おぉぉぉ!」と、鬨の声をあげた。
個々の士気は高く、今にも飛び掛る様相を呈している。
「いいか野郎共!手筈通り、
ルーティングフォックス隊は敵艦後方より接近追撃、
スチュピッドラクーンドッグ隊は敵艦前方で支援砲撃、
我が隊、フェイトフルドッグは左右から挟撃する。
敵は少数だが精鋭だ!油断するんじゃねぇぞ!」
再度、鬨の声が上がる。隊長は各隊の調子を伺い、
意気揚々と唸る機兵達を満足そうに眺める。しかし、
中隊長の気分は何処か晴れなかった。
ふと、思い出したかのように先程の兵士へ通信を繋げる。
「こち…、レディバ…ーワン、どうかし…たか?」
既に超短波通信が可能なギリギリの位置に居るのか、
音声に時折、ノイズが混じっている。
「どうにも悪い予感がする。本隊も十分注意されたしと伝えてくれ」
「了か…でも本隊…揮はあの熊殿と…様ですよ?心配は無用と思いま…」
「それもそうだが俺の直感は良く当たるんだ…頼んだぞ」
「了解しまし…伝え…きま……」
兵士が更に遠ざかった為かノイズのみが流れる通信を隊長は切ると、
機兵達を見据えて号令を掛ける。
「全機突撃!!」
2087年12月06日 AM2:28
カナダ領中央部 モントリオール湖 朧月
発進を控えた朧月の上で2機の機兵が周囲の様子を観察していた。
近くに布陣していた部隊がこちらに接近して来るのが分かる。
「あいつら…動き出したみたいだ」
キョウの台詞を聞いたジョージは先程、ホリィから送られてきた
敵予想配置図と照らし合わせながら敵方を眺める。
「ああ、数は…ざっと20機って所か。二人じゃ荷が重い…か?」
「ヘッ準備運動にもならねぇよ!」
そう言いながら、ミカエルは鼻っ柱を親指で突っぱねる動作をした。
「そ、そうか…俺は左右の犬の世話と前のタヌキを鍋にする。
うしろの狐退治はお前さんに任せるぞ」
「おうよ、任せとけ!」
ミカエルは親指を立てて白い巨兵へ拳を突き出した。
「よし、じゃあ始めるか!」
白い巨兵は自身を覆っていた幕を翻すと長身の銃を構え、肩部に搭載された
ロケット砲の口を開いた。射撃体勢に入ると弾丸を幾つも撃ち込む。
長銃の弾丸は機兵の急所を捉え、ロケット弾は的確に敵の足場を奪っていく。
それを尻目にミカエルは艦の後方へ大きく跳ねた。
数回ジャンプした艦後方、約200m地点は既に敵部隊が展開、
そこへ飛び込んできたミカエルを即座に包囲する。
「ああん?なんだぁ?たった一機で俺達と殺り合おうってのか?」
「革命軍の奴等の数はゴミみたいなもんってのは本当だったんだなぁ」
無謀に突っ込み孤立無援の状態の可哀想な敵機を「ハハハハハハハハ」
と、せせら笑いながら狐達は扇情的に煽り立てる。が、
「たかが数機に翻弄されて大部隊を動員しているゴミみたいな連中が
大口叩くとか滑稽過ぎて欠伸が出るぜ?」
ヤレヤレとミカエルは呆れた様な素振りを見せて煽り返した。
「このゴリラ野郎…調子に乗りやがって!ぶっ潰してやる!」
「そんな華奢な機体でこのミカエルが潰せると思うなよ!」
狐達はナイフを構え、扇状にミカエルを囲むと一斉に襲い掛かる。
「おーおー、後ろは後ろで派手にやりあってるなぁ」
回転する足場を巧みに操り、全方を望みつつ白い巨兵は
正面に潜む砲撃隊と側面から迫りくる敵機を一機ずつ確実に始末していく。
「んー、6機は沈んだか?後、9機だな…っと。その前に」
白い巨兵はホワイトオーガ備え付けられたサイドバックから榴弾を
取り出すと両側面に置いた発射口へ次々と放り込む。
放り込まれた弾は左右に展開する部隊へ目掛けて放物線状に飛んでいく。
榴弾は空中で爆散すると、無数の弾丸を撒き散らす。弾丸は直径約10mの
範囲で降り注ぎ、着弾する度に小規模な爆裂を起こし地面を抉っていく。
その威力は凄まじく連合のMSが数機、初弾に巻き込まれ四散した。
「正面の部隊に気を取られていると思ったが…良い眼を持っている…
これは手強いな」
中隊長機がハンドサインで隊員へ微速後退を指示する。
「ダン隊長!これでは近づけません!退きますか!?」
「待て、早まるな。側面がダメなら前方と後方に回れ!
α隊は前、β隊は後ろへ!」
ダンが率いるα隊が艦前方100mの地点まで出るが、ダンの脳裏に
嫌な予感が過ぎり、その場で立ち止まった。
「どうしたんですか隊長!早く敵艦に潜入を!」
「いや、どうにも悪い予感が…」
「へへっ…そんなこと気にしてたら勝てませんぜ!」
「あ…おい、待て!」
ダンの制止を聞かず、逸った兵士が数m進むと爆炎と爆音を巻き上げて散った。
「くっ、やはり地雷か…それにしても……まさか奴等!」
ダンは何かに気づいたのか膝を地に着け前のめりに地面を両手で叩く。
「後、十数mだってのに取り付く事も出来ないのかよぉ」
「やっぱり、奴等は悪魔なんだ…神でもなきゃ勝てっこない」
生き残ったα隊の隊員2人はどよめき、慄いている。
ダンは立ち上がり、通信網を開くと
「…各員に通達、本部へ撤退…いや、救援に向かえ!」
しかし、電波妨害波が強く、遠方からの応答は得られず、
「た、隊長!逃げるんですか!?」
「に、逃げたってしょうがないだろ!?こんな戦力と装備じゃ勝てっこない!
ダン隊長!早く逃げましょうよぉ!」
2人にはダンの言った「救援に向かえ」と言う言葉が聞こえていないようだった。
この状態では本部へ向かっても戦力にもなら無いだろう。そう判断したダンは、
「ああ、もう、こんな戦場は懲り懲りだ。近くの基地へ帰投するぞ」
と、2人に声をかけ、機兵達は敵艦に背を向けて走り出した。
遠ざかる残り三つの敵マーカーを見つめながら全てを聴いていたジョージが呟く。
「帰る家か…。あれば良いがな…」
狙撃銃の銃口を離れていく敵機へ向けて三発だけ撃ち放つ。
二機は頭を撃ち抜かれ、一機は胸の辺りに当たり地面へと沈んだ。
----------------------編集ここまで------------------------
キョウ
「よう、おやっさん。そっちは終わったか?」
ジョージ
「ああ、今し方、終わった
どうだ?そいつの性能は?」
キョウ
「おう!こいつはスゲェぜ
ライフル程度じゃかすり傷しかつかねぇし、
このナックルの合金もスゲェよ
敵の装甲が飴細工みたいにひしゃげやがる」
キョウは新しい玩具を貰った子供のようにはしゃいでいる。
ジョージ
「おお、そうか、そいつは良かった。
・・・後はアント達が戻ってくるのを待つだけか」
キョウ
「おう、予定通りに帰ってくるだろうよ・・・
こっちは早く片付きすぎたがな」
ジョージ
「おっと、その前に地雷の回収をしとかなきゃな」
2087年12月06日 AM 2:35
カナダ領中央部 モントリオール湖
連合軍キャンプ地
連合軍は朧月の南方17km地点に部隊を駐留していた。
司令官
「襲撃隊はどうなっている」
兵士
「ハッ!先程、偵察兵の者によると
敵艦は行動を開始したとの事、それと同時に
ダン大尉が率いる襲撃隊は攻撃を開始、
目下戦闘中との事」
司令官
「やはりこの時間に動き出したか・・・
戦況は?」
兵士
「それが・・・何分敵の妨害波が激しく、
敵艦周囲の映像、音声通信は不可能との事、
超短波は可能の様ですが流石に届きませんので・・・」
司令官
「うーん、万が一の備えはするべきか・・・」
司令官が考え込んでいると司令室の置かれたテントに
大男と線の細い男が入ってきた
ヲルク
「おう、タイザー!俺達の出撃はまだか!」
ボーリアン
「おいおい、ヲルク、タイザー中佐殿は
まがりなりにも俺達の上官になったんだ。
敬意を払え、敬意をな」
タイザー
「ヲルク准佐とボーリアン少佐か・・・久しぶりだな」
ヲルク
「そうだ、あの会戦以来だ。
あそこで誰かの流れ弾で
被弾さえしてなければ・・・今頃、俺は!」
ヲルクがタイザーに詰め寄ろうとすると、
ボーリアンが前に出てヲルクを止める
ボーリアン
「いいじゃねぇか、昔の事は。
俺達もめでたく佐官に昇進できたし、
タイザー中佐殿は
俺達の勲功を取り繕ってくれたんだ
感謝するべきだろ?」
ヲルク
「ぬー、それはそうだが・・・」
タイザー
「で、用件は?」
ボーリアン
「ついて早々、悪いんだが余りにも暇で困る
ロシア戦線からやって来たはいいが
こうもする事がないと鈍っちまう」
タイザー
「出撃したいという事か・・・」
ヲルク
「おう、その通りよ」
数秒の間をおいてタイザーが口を開く
タイザー
「良いだろう、今現在、襲撃隊が仕掛けているが
様子が判らない、強行偵察をしてきてくれ」
ヲルク
「それはつまり・・・」
ボーリアン
「成る程、そういうことか・・・フフフッ
やはりタイザー中佐殿は話が解って助かる」
タイザー
「ああ、好きなだけ暴れて来い」
ボーリアン
「流石、流石、マンイーターオルカの
二つ名は伊達じゃないな」
ヲルク
「ウワッハハハ、よし、いっちょ暴れてくるか」
そういうと、二人はテントを後にした。
タイザー
「やれやれ、もうその二つ名は棄てたいんだがな」
タイザーが席に着き飲みかけのカップを口に運び、
一息ついていると、何かが頭上を通り過ぎる音が響いた。
数秒後、先程報告に訪れた兵士が血相を変えて
テントへ飛び込んできた。
兵士
「た、た、大変です!て、敵機が!敵機が接近中です!」
タイザー
「な、何!?」
タイザーが席から立ち上がると
通信車両の置かれた方角で轟音が響く。
タイザー
「くっ・・・既に艦から出ていたというのか!?
いや、しかし・・・ええぃ私のMBは何処にある!」
兵士
「第二大型テントの中です!お急ぎを!」
タイザー
「うぬぬ、こんな所で死んでたまるか・・・」
タイザーは兵士の指差した方向の
大型テントへ走り出していった。
リョウ
「ありゃ?外しちゃった・・・」
ジャーニー
「え?あ、ばれたっぽいッスね」
ジャック
「早く、仕留めろ・・・増援を呼ばれたら厄介だ・・・」
リョウ
「わ、分かってるわよ!ハンデよ、ハンデ!」
リョウはそういうと、即座に通信車両の燃料部分に
銃口と照準を合わせ、撃つ。
放った弾は燃料缶に直撃したのか、爆発炎上した。
と、同時に連合のサイレンが響く。
リョウ
「よっし、どんなもんよ!」
ジャック
「重畳、行くぞ・・・」
ジャーニー
「流石、ジョージさんの用意した銃と弾ッスね、
厚い装甲も一撃だ」
リョウ
「あんた達・・・少しは私も褒めなさいよ・・・」
三機は連合の陣営に飛び込んでいく。
一方、大型テントに着いたタイザーは、
タイザー
「私のMBの起動を急がせろ!」
兵士
「ハッ!中佐殿のMBは1分後に着装可能です!」
タイザー
「ヲルクとボーリアンはどうした!?」
タイザーは戦闘用スーツを身に着けながら
傍の兵士に尋ねた。
兵士
「ヲルク准佐は既に敵艦の方へ向かいました。
ボーリアン少佐はこちらへ
接近している敵機へ向かうと・・・」
タイザー
「ちっ三機揃い踏みとはいかんか・・・」
兵士
「準備が出来たようです。御武運を!」
タイザー
「君達もな、タイザー・オルシナス出るぞ
各機、私に続け!」
タイザー達はテントから出ると
周囲の異様さに目を疑う。
タイザー
「何だ・・・この静けさは」
遠方で今だに燃えている通信車両と
少し離れた位置での銃撃音以外に音がほとんどない。
タイザー
「・・・狙撃か?」
この二文字が頭を過ぎった瞬間、
後方に居たMSの頭が撃ち抜かれる。
タイザー
「おのれぇ、各機散開、個々に敵機を殲滅しろ!
報告では三機だ、三機共、確実に潰せ!」
タイザーの合図で十数機の機兵が
散り散りになり敵を探し始めた。
リョウ
「まだあんなに居るのね・・・骨が折れそう
ジャーニー君、そっちはどう?」
ジャーニー
「一小隊潰しました、この感じだと二小隊位は同時に
相手しても問題ないレベルの部隊ッスね」
リョウ
「じゃあ、突っ込んでも大丈夫よ。
こっちの狙撃にビビッて散開して
当って来るみたいだから、
支援は任せといて」
ジャーニー
「了解ッス。あ、ジャックさんは手が離せないヤツと
殺り合ってるんで無理だそうッス」
リョウ
「了解、自分のことは自分でって事ね」
同時刻、ジャックはボーリアンと対峙していた。
ジャック
「できるな・・・」
ボーリアン
「フフフッ、こいつは面白い敵さんだ
今までで一番かな」
そういうとボーリアンは通常のナイフの
倍の刃の長さの獲物を取り出す。
ボーリアン
「俺はロックアイスウルフのボーリアンって言うんだ
お前はなんて言うんだ?」
ジャック
「そうだな・・・俺に負けたら教えてやるよ・・・」
ボーリアン
「中々、面白いジョークだ・・・な!」
ボーリアンは抜いた獲物を構えると
ダッシュで一気に詰め寄る。
数合、斬り合い競り合う。
ボーリアン
「中々やるじゃねぇか!だが・・・ん?」
ボーリアンの背筋に寒気が奔る。
ジャック
「俺の名前はジャック・・・貴様らの通名だと
インビジブルブレード、だったか・・・」
ボーリアン
「な、何をしやがった・・・手に力が・・・」
然程、重くない自分の獲物がボーリアンの手から離れ、
地面に突き刺さる。
ジャック
「俺の両手に仕込まれている刃は透過率が高くてな
こんな暗闇じゃまず見えない・・・
更にこいつには毒が塗ってあってな・・・」
ボーリアンは話を聞かされてる内に気づいた。
足元に血溜りが出来ていることに、
力がどんどん抜けていき、自立できず
血溜りの前に倒れこんだ。
ジャック
「というわけだ・・・さて種明しは終わり
代金は・・・」
完全に血の気の引いた肌を眺めながら
ジャックはボーリアンの首を落す。
ジャック
「高い授業料だったな・・・ククッ」
兵士
「司令!ボーリアン機がロストしました!」
タイザー
「ぬう・・・これは・・・これは拙いぞ
奴等め、私達を殲滅する気だな。
誘い出されたのはこちら側だったということか。
少数戦力と敵を計ったのが原因か。
いや、それにしてもこうもしてやられるとは・・・」
兵士
「司令!どうするんです!このままじゃ全滅ですよ!」
呼掛けた兵士へタイザーは銃口を向け粛した。
タイザー
「ええぃ、うるさい!こうなれば、玉砕よ!
全機敵艦へ突っ込め!後退は死罪だ!」
ジャーニー
「残りのはいい感じに集結してるな、
これで終結ッスね」
テント影から突如現れたジャーニーは
タイザー達の頭上へ複数の榴弾を投げ、
持っていた小銃で榴弾を撃つと、
タイザー
「うおぁぁぁぁ」
榴弾は炸裂し銃弾の霰を
タイザー達に浴びせ、黙らせる。
タイザー
「おのれ、この悪魔共がぁ」
タイザーのMB指揮官機の装甲は厚く、
致命傷にならなかったのか毅然と反撃を繰り出す。
ジャーニー
「おっおわっと、とっと」
ジャーニー機敏な動きでタイザーの銃撃を避ける。
ジャーニー
「俺の火力じゃアレは無理ッス!後は頼みます」
リョウ
「オッケー。この特製弾でやっちゃうわよ」
照準を絞り、逆上し銃を乱れ撃つタイザーへ向け
放った銃弾は装甲へ着弾すると炸裂した。
タイザー
「ぬおぉぉぉ」
爆発の勢いでタイザーは後ろへ倒れこむ。
その隙にジャーニーは
ジャーニー
「チェックメイト」
タイザー機のヘッド部分へ
至近距離から無数の弾を浴びせていく。
タイザー機の暴れていた四肢が止まり沈黙する。
リョウ
「敵機、完全沈黙・・・
よし、ミッションコンプリート!
戻るわよ!」
ジャーニー
「了解ッス」
ジャック
「了解だ・・・」
三機は艦へ戻って行った。
2087年12月06日 AM 2:50
カナダ領中央部 モントリオール湖
朧月
ジョージ
「よし、機雷の回収は終わったぞ。
キョウ、そっちはどうだ?」
キョウ
「んー・・・あっちの方から敵機が接近中?
連合のOSは使いづられぇなぁ・・・」
半疑のキョウの指した方向をジョージが見つめる。
ジョージ
「・・・ああ、目視できるな。
三機・・・か、戦闘装備じゃねぇから狙撃は厳しいな。
後は頼むわ」
ジョージは機雷回収のために銃を携帯してない
という事もあり、キョウへ敵の相手を投げると
そそくさと艦へ向かう。
キョウ
「よっしゃ、任せろ!三機なんて相手にもならねぇ」
先程の戦闘では、まだ物足りなかったのか、
肩を唸らせ敵に向かっていった。
ヲルク
「ほほぅあれは・・・。単機で俺に挑むか!
しかも俺と同じタイプ、それも新型か。面白い!」
向かってくる味方機の様相をした敵機を見て、
ヲルクは興奮していた。
部下
「隊長、俺達はどうしますか?」
ヲルク
「ふむ、そうだな。いつも通り。だ」
部下
「いつも通り・・・。了解しました」
僚機の二機はその言葉を受けるとその場に停止した。
ヲルクは十数歩前進し、相手を待ち構える様に
仁王立ちをする。
キョウ
『ん?あたしが来るのを待ってるのか・・・?
他の二機も停止してるみたいだな。
一騎打ちってやつかな?』
そう、キョウが思考を巡らせてると、
ヲルク
「革命の戦士よ!俺と勝負しろ!一対一でだ!」
と、怒号のような声が響いた。
キョウ
「おもしれぇやってやろうじゃねぇか」
キョウはゆったりと歩いて間を縮めていた猛獣を
加速させ一気に5m程近くまで詰め寄った。
キョウ
「正々堂々一騎打ちとは面白い。その勝負乗るぜ」
そう告げるとキョウは構える。
ヲルク
『ふふふ、チョロイ奴だな』
「その意気や、よし!いざ!」
しばし、睨み合いが続く。が、
痺れを切らしたのか、キョウの操る豪腕が
敵機へ目掛け降りかかる。
敵機はそれを受け流すと空かさず腹部へ
一撃をお見舞いする。
キョウ
「ぐふぇ・・・チャンス!」
激しい痛みが腹部に奔るのを気にもとめず同じように
敵機の腹部へ拳を叩き込む。
ヲルク
「ぬぅ・・・こいつは!・・・ごはっ」
重い一撃を浴びた敵機は咄嗟に後ろへ跳び、
距離を空けた。
キョウ
「さて、仕切り直しかな」
キョウは構えを正し、敵機の動向を探る。
ヲルク
「そろそろか・・・やれ!」
闇に紛れていつの間にかキョウの背後に回っていた
二機のパイロットは合図を受けると手に持った電撃銃を
新型に向けて撃った。
着弾と同時に奔る強烈な電撃により、
システムエラーを起こしたのか急激に動きが鈍る。
キョウ
「な、なに?動きが・・・!」
ヲルク
「まさか、こんなに上手くいくとは。
ふふふふふ、笑いが堪えられんね」
新型に詰め寄りボディへ再度、一撃を浴びせる。
先程とは違い受け止めきれず、
打たれるままに吹っ飛ばされた。
キョウ
「くっくそぅ!」
怪我の功名か同調システムのエラーによって、
パイロット自体へのダメージは然程ない。
しかし、まともに動けない事に変わりは無かった。
ヲルク
「さて、可愛い声のお嬢さんには氷漬けに
なってもらって、その機体は返して貰おうか」
敵機が新型に迫り寄る。
部下
「がはっ」
「ぎゃ」
ヲルク
「む、なんだ?」
ヲルクが音のした方向を向くと部下が一人、
再び乗り込もうとしていたMBの直前で
仰向けで倒れていたのを視認した。
次の瞬間、何かを右から投げつけられる。
機敏に反応した腕は投げられた物を払いのけた。
それはもう一人の部下だった。
ヲルク
「な、なんだぁ?だ、誰だ!」
アント
「俺だ」
突如、左側から現れたMBは左腕を
ヲルクの腕へに差し向けると何かを打ち出した。
それは黒い縄のような物で、それを払おうとした、
ヲルク機の右腕に絡みつく。
縄を手繰り敵機が突撃してくる。
ヲルク
「ふん、向かってくるならそのまま叩き潰してやる」
カウンターを決めようと左腕を迫る敵機へ差し出す。
敵機はしゃがみ込む様な姿勢を執り、
数センチの距離でそれを回避すると、
鉤爪の様な右腕をヲルク機の脇腹へ突出す。
ヲルク
「ぐおっバカな・・・」
ヲルク機の重装甲を厚紙を破るかの如く、切裂く。
それは中に居た人物の腕にまで届いていた。
間髪をおかず、
敵機は突き刺さった腕をそのまま手前へ引き、
自由にすると構え直しヲルク機の中央部を
数回連打する。
打ち込む毎に互いのMBが鮮血に染まった。
2087年12月06日 AM 3:25
カナダ領中央部 モントリオール湖
朧月艦橋
ホリィ
「全機帰還完了しました」
リョウ
「敵機の追撃は?」
ホリィ
「進行方向逆30km地点に10数機展開しています」
リョウ
「その距離なら振り切れそうね。
全速前進!」
バンジョー
「了解、目的地は例の所で?」
リョウ
「ええ、カナダ方面陸軍拠点プリンスジョージへ指針を」
バンジョー
「了解」
つづく