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神魔戦記Genocider Part 1「LibRev」  作者: ナ月白水
Chapter 1「地球」
5/54

Episode #04「森林」

 2087年11月21日 PM 8:00

カナダ領東部 ドライデン近郊 朧月艦橋


「では、これよりミーティングを始めます」

リョウはホリィへ中央部にあるモニターを点ける様に目で合図を送る。

ホリィが手元のコンソールを叩くと、この周辺と思われる地図が

リョウの上背部に浮かび上がった。

「昨日の略奪作戦の後、前方から3小隊、後方から2小隊の

追撃を受けました。コレは当初の予定より数が多いわ」

リョウは少々不機嫌そうに椅子にもたれながら話を続ける。

「どうも動きが早過ぎる。ルートが読まれてる可能性があるわ。

そこで針路変更を行います」

地図に進行ルートが映し出されていく。

「白が現在までの進行ルート。黄色がこれから通る予定の進行ルート。

これより南下してアメリカ領から進軍する。しかし…」

リョウは振り返り地図に記された黄色を指し棒でなぞりながら続ける。

「ケティのハッキングによればこの進行ルートの先には

一個大隊以上の戦力が配置される予定で既に部隊の

幾つかが集結しているそうよ」

リョウは俯きながら眉間の皺を親指で押さえ込んだ。

「いくら俺達でもこれっぽっちの戦力で一個大隊を相手には

出来んぞ。何か策はあるのか?」

ジョージの問いにリョウは顔を持ち上げ再度、地図を見上げる。

「そこでさっきも言ったけど針路変更を行います」

地図上の白の終点から赤い線が二つ延びていく。

「一つは到達時間がギリギリになってしまうけど北上して

ヌナヴットを抜けるコース。もう一つは多少の損害は承知の上で、

このままカナダ中央部を抜けていくコース。北のルートは

敵の待ち伏せは少ないと予想されるわ。でも遠回りになるから

全速で向かってもギリギリね。中央のルートは南部へ

向かった部隊が居るおかげで戦力は低下しているけど、

通れる道が限られていて遭遇戦闘が多いと予測されるわ」

リョウは椅子を反転させ、皆の顔を見つめる。

「ルートの選択はあなた達に一任します。

私は北のルートの方が…」

「中央だ」

アントの一言がリョウの口を紡がせる。

「北を回って万が一のトラブルが起きてみろ。

時間に間に合わなければこの計画は失敗なんだろ。

なら、危険だろうと早く目的地に向かうべきじゃないのか?」

「…まぁ、そうよね」

リョウが若干、不服そうに呟く。

「では中央のルートを通ると言うことで…反対意見はありますか?

異論無し…では決定と言うことで。ホリィ、このルート上に

存在する敵戦力を出して頂戴」

地図上に赤い点が複数個、現れる。リョウは点の横に

出ている部隊詳細をしばし見つめ、一つの赤い点を指差した。

「うーん、この部隊は危険ね。マッドフロッガー隊とかいう

狙撃部隊が徘徊している…ねぇ?アント」

リョウはアントを見つめ不敵に微笑む。

「狙撃部隊ということは高性能の索敵機器を持ち合わせてるかも

しれないわぁ。あなた達だけで先行して潰してきてね」

リョウは微笑みながら返答を待つ。

「おいおい、今からか?」

「ええ、準備が出来次第。そうね。

ここ、ダグラス湖までは送っていってあげるわ」

アントはリョウの指した地点を見つめ目標との距離を測る。

「おい、目測で30kmはあるぞ」

「近づき過ぎてこの艦が敵に捕捉されたら大変でしょう?」

リョウはまだ微笑んでいる。

「…了解した。おい、ジャーニー、ジョージ行くぞ」

アントは観念したように艦橋から出て行く。

「え?ええ?俺も行くんスか?」

蚊帳の外で見ていたジャーニーが驚いた表情でアントの方を

向くと、ジョージがジャーニーの肩を叩く。

「当たり前だろうが。俺達はチームなんだからな」



同日 AM 11:00

カナダ領 プリンスジョージ陸軍基地 応接室


 ゴードンは不満気に応接室の一人掛けソファに腰を深く掛けていた。

招かれざる客人を招かねばならないからだ。その時、ドアがノックとともに開く。

「将軍、クラーク様がお見えになられました」

秘書の後ろに白髪の几帳面そうな男が立っている。

ゴードンはすっくと立ち上がり、両手を合わせ精一杯の作り笑顔を浮かべる。

「これはこれはクラーク中将殿、遠路遥々、遠くからよく来なさった」

クラークと呼ばれた白髪の男は、一礼をして部屋を出る秘書を尻目に

ゴードンへ近寄ると脇に抱えていた電子端末をゴードンに差し出した。

「少将、世辞は結構、早速、本題を」

「フン、ガキが偉そうに…」

ゴードンは軽く目を背け愚痴を溢しながら端末を受け取る。

「何か?」

「い、いえ、なんでも……で?この編成は?」

ゴードンは端末に記されたリストを眺める。すると、

そこには自分の軍団の総合模擬戦上位者の名前が並んでいた。

「その者達を二週間以内に私の軍団へ移管して頂きたい」

「…は?」

呆気に捕られ開いた口が塞がらない様子のゴードンには

目もくれずクラークは高らかに捲くし立てる

「先日の会議でも申したでしょう。特務部隊を結成すると。

その為に必要な人材ですよ」

「しかし、コレでは我が軍団の戦力が…」

「勿論、御爺様…アームストロング大将の許可は戴いております。

コレは相談でも、協議でも、合議でもありません。上層命令です。

なので異議なら大将殿に直接、お願い致します」

「りょ、了解した。ではリストの面々各自へ通達します…」

ゴードンは不服そうな表情を堪えながら声を絞り出した。

「ではでは。お願いしますよ」

振り返り部屋の出口へ向かうクラークは、ドアの前で何かを

思い出した様な表情してゴードンを横目に見る。

「そうそう、奴ら…ヘキサグラムの目的進路を分析すると、

6割方、この基地を通ることになりそうですので

防備は万全にお願いしますね」

クラークはそう吐き捨てると部屋を後にした。

一分経ったか経たずか、部屋から「ドン」という物音がたつ。


数分後、拳を赤く染めたゴードンが部屋を出た。

 


11月22日 AM 1:20

カナダ領東部 ウッドランド公園 ロイド湖付近


 細く高い針葉樹がいくつも並び立つ深夜の自然公園は 

夜行動物のさえずりと湖のせせらぎだけが周囲を不気味に包んでいる。

そんな公園のとある一画で黒い影が伏せていた。

「…」

影はただ、ただ黙し、身体と同じくらいの大きさの銃を

じっと構えていた。

「む…」

銃のスコープから目を離し身体を右へ傾ける。次の瞬間、

影の頭が在った位置に弾丸が飛び込んできた。

「報告通り、目が良いな…MF1より各機、散開」

影はそう仲間へ告げると銃を背中へ格納し、その場を即座に離れる。

数秒後、影の居た場所が火柱を上げた。

「どうやらこちらは丸見えの様だ。…向こうに回るか」

黒い影は素早く回りに目もくれず移動する。

「…なんだ?奴さん、なんでロックオンされてたことに

気づいたんだ?…なんてな」

黒い影の対岸にいた白い影は即座に左を向き、2発、弾丸を放つ。

遠くで鈍い音がした。

そんな音にも目をくれず、黒い影は拠り所を見つけ再び狙撃姿勢を

執る。影がスコープを覗くと同時に通信が割り込む。

「イドゥ隊長!キャリーとミミーがやられました!」

「だろうな。MF4、騒ぐな」

「す、すみません」 

「死にたくなくば、さっさと動…もう遅いか」

イドゥがそう告げた瞬間、通信を送ってきた兵士が居たと

思われる場所に火柱が立つ。

「コレでマッドフロッガーズは俺だけか」

そう呟くと、狙撃姿勢を解き、その場を離れる。

『音から察するに、奴らは三機…内、一機は狙撃、他の二機は

接近中…特に跳ねる音が近いな、ならば』

イドゥは対岸からは見えない窪地へ身を隠すと跳躍音の

聞こえる方向へ銃を向ける。

「そこか」

構えた銃が火を噴く。弾丸は虚空を切った。

「この鬱そうとした森の中じゃ早々、当たらねぇっスよ!」

迫る敵影が小銃を構え、イドゥへ向かい寄る。

イドゥの構えた銃が二度、火を噴く。

「痛ぇッ!」

後に撃った弾丸が影の右肩を貫いた。

「こいつは予定外!…でも、これだけは!」

敵影は一瞬だけ怯んだものの腰からナパーム弾を取り出し、

イドゥへ向かって勢い良く放り投げた。しかし、距離が

遠すぎたのか30m手前で地面に落ち轟音を立て炸裂する。

敵影は踵を返し、離れていった。

「逃げたか…何がしたかったんだ?まぁいい、後、二人」

イドゥは聞き耳を立て、辺りを察する。

『もう一機の駆動音はまだ遠い…か。なら対岸の白い奴だな』

先ほどの窪地から然程、離れていない湖畔の茂みへ移動し、

狙撃姿勢を執る。

『さっきのナパームのせいで細かい音が聞き取りにくい。

こちらが不利か』

その時、そよ風が吹き始め、雲に隠れていた月が顔を出した。

対岸だけが月光で照らされる。

「月が…これは…」

イドゥが狙撃姿勢のまま辺りを見渡すと…

「ククク…その白い機体が仇になったな」

イドゥは良く見える的に向け銃を撃ち放つ。

「!?」

ジョージの長年の勘が働いたのか、偶然か、銃を構え直そうと

腕を上げた瞬間、弾丸は腕に当たり弾かれ、その先にあった

ヘッドアンテナを圧し折った。

「ん?おお、油断大敵って奴だな、オイ」

「ふん、運の良い奴だ、だが…」

「そうだな、コレで終わりだ」

再び狙いを定め引き金を引こうとした矢先、何者かに背中を

貫かれる。その衝撃で銃口はあさってを向き弾丸は虚空へ消えた。

「がっ…な、バカな、もう一機はまだ1km程遠くに…」

「トリックのネタは教えられないんでね。あの世で必死に考えてくれ」

突如現れた敵影は血の滴る右腕をイドゥの首を目掛け振るう。



同日 AM 7:00

カナダ領東部 ケネディ湖付近 朧月第二研究室



「痛てててッ痛いッ痛いッ」 

医療室として使われている第二研究室に

ジャーニーの叫びが木霊している。

「男が銃創一つでギャーギャー騒ぐんじゃない!」

まだ、うら若い女医は慣れた手先で右肩の傷口を縫っている。

「痛いもんは痛いんスよ!せめて麻酔を!」

「たかが穴一つ塞ぐのに使えるか!」

泣き叫ぶジャーニーを無視しつつ表を縫い終えると丸椅子を反転させ

反対側を縫い始める。

「そ、そんなぁぁ…痛っっってぇ!!」

ジャーニーの喚声が響くと同時に扉が開く。

「おぅおぅ、よろしくやってるな」

「アント隊長、この根性無しの口を塞いでくださいよ。

煩くて仕方ないったらありゃしない」

アントは鼻で息を吐くと、ジャーニーに近づき

あえて右肩を叩き、

「痛ッ!……え?」

アントは耳元で素早く何かを囁いた。何を囁いたのかは

女医には聞き取れなかったがジャーニーは急に口を紡ぎ、

さっきとは別人の様におとなしくなった。

「これでいいだろう。メノウ女医、もう少しだけでいいから

優しくしてやってくれ」

「は、はぁ…分かりました」

極端なジャーニーの変化に頭に疑問符を浮かべながらも

メノウは治療を続けた。


 あらかた、治療が終わった頃にジャーニーが今まで

閉ざしていた口を開く。

「そういえば、ジョージさんは何してるんスか?」

「向かいで浮気してる」

アントはそう言うと椅子に座ったまま入ってきた扉を親指で差す。

「ああ、あの悪い病気ッスね」

「向かいで浮気?何のことですか?」

メノウが尋ねるとアントとジャーニーは銃を構えるポーズをとった。

「なるほど、あの人も好きですね」


同日 AM 9:00

カナダ領 プリンスジョージ陸軍基地 司令室


 いかつい体格の男が声を荒げ、太い右腕で机を叩く。

「また、部隊が壊滅…全滅しただと!!」

秘書の報告を聞き、ゴードンは昂る激情に駆られ、それを

抑えられずにいた。その磨きあがった頭には血管が浮き出ている。

「今朝、あがった報告書によれば、マッドフロッガー隊、

フォレストウルフ隊、スワンプフロッガー隊、

レイクサイドタマリン隊…以上が全滅、生存者は一名もいない

との報告です」

「…」

ゴードンは椅子に深く腰掛け、秘書に背を向け、手を組み、

窓を見つめながらなにやらブツクサと独り言を言っている。

しばらくして、椅子が秘書の居る方を向き、

「ビィチャスの部隊を奴らにぶつけろ…」

諦めとも取れるような弱い声で秘書に告げた。

「ビィチャス…ブラッドリーチ隊ですか?しかし、あの部隊は…」

「貴様はワシの命令が聞こえなかったのか…四の五の言わず

とっとと出撃させろ!」

「は、ハッ!了解しました」

咄嗟に敬礼をとると秘書は部屋を後にした。ゴードンは椅子を

窓に向けなおし、呟く。

「あの糞忌々しい汚物部隊まで使う事になろうとはな」



Episode #04「森林」 完


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Episode #05「潜伏」

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