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神魔戦記Genocider Part 1「LibRev」  作者: ナ月白水
Chapter 1「地球」
4/54

Episode #03「電撃」

 2087年11月19日 PM10:00

カナダ領東部 サンダーベイ近郊 朧月倉庫内部


 ジョージが顎に手を当てて呟く。

「まいったな」

ジャーニーが両手で頭を押さえながら漏らす。

「マズいッスね」

アントが首筋を掻きながら囁く。

「どうしたもんかな」

三人は格納倉庫にぽっかりと開いた大穴を見つめている。

「マルク、被害はどの程度だ?」

アントは整備帽を逆さに被った小柄な男に顔を向けた。

男は手に持った資料を捲りながら答える。

「武器、弾薬、各機動兵器、及び予備パーツ等は全て無事だな。だが…」

「食料か…」

マルクの横に立っていたジョージが

マルクの持っている資料を覗き見ながら呟いた。

「だな、一部の保存食以外、ぜーんぶ焼けちまった。穴を塞ぐのは特に問題ない。

が、焼けちまった食い物は俺でも直せないぞ」

マルクの返答を聞いたアントは片手を目に宛がいながら、

「とりあえず、艦長殿の意見を仰ぎに行ってくるか」

と、言うと、マルクから被害状況の記された紙を受け取り踵を返して艦橋に向かっていった。


 数分後…


朧月艦橋


 リョウはアントから渡された紙に目を通すと深く溜め息をつき、

「まいったわね。まだ作戦の初期段階なのに…」

そう言うと再度、大きく溜め息をついた。より一層の重い沈黙がその場の人間を襲う。

 暫くして、アントが呟いた。

「こりゃ、そこらの民家でも襲わないとマズイかな」

リョウは顎に当てていた指をアントへ指し向けて言い放つ。

「それだ!」

突然の反応に呆気に取られたアントを尻目にリョウは言い放ち続ける。

「そうよ。食料が無ければ奪えば良いのよ!ホリィ、近隣に連合の補給基地とか中継基地とか

とにかく物資の多そうな基地を探して!」

急に声を掛けられ、驚いた表情でホリィはリョウの方へ振り返る。

「あ…は、はい。調べてみます」

ホリィは正面のディスプレイへ目線を戻し手元のコンソールを叩く。

「見つかりました。そちらのディスプレイへ表示します」 

リョウ達の正面の空中に映像が映し出される。

「中央が現在位置で、近隣には規模の大きい基地は二箇所程、存在します。一つは

後方にあるムーンビーム陸軍防衛基地。もう一つは前方のサンダーベイ海軍中継基地です。

こっちは目と鼻の先ですね」

リョウは腕を組み首を捻ってブツブツと呟きながら考え込んでいる。 

「引き返してる時間は無いわね…サンダーベイの規模は?」

「現在は滞在艦も常駐艦も無く戦力は低いと思われます」

「渡りに船か・・・襲うわよ!」

リョウは軽く片腕でガッツポーズを取った。それを横で見ていたアントが呟く。

「マジかよ…」



 2087年11月19日 PM 10:00

カナダ領西部 プリンスジョージ陸軍基地


 暗い執務室に厳つい男が一人、椅子に深く腰を掛け、踏ん反り返っている。

男の背後には秘書らしき女性も佇んでいる。

「海軍の役立たず共のせいでワシの軍隊が負けるなどと…御陰で部隊をまた再編せんと

いかんではないか!」

男は秘書に対し、イラついた素振りを見せつけるが、秘書は黙し、只、正面だけを見つめている。

「フンッ!仏頂面が…アームストロングはまだなのか!人を呼びつけてお…」

通信合図のコール音が男の手元で鳴ると男は、椅子から重い身体を持ち上げ、

身なりを整えると敬礼を執る。その姿勢のまま、

目配せを秘書に送りホログラフモニターのスイッチを押させた。

「04師団陸軍団長ゴードン・ストーンズ少将、参じました」

そう目の前に映し出された上半身だけの初老の男に毅然と敬礼を見せる。

「04師団長ジョージ・アームストロング大将だ」

続いて宙に二人の人物が映し出される。

「04師団空軍団長ミッシェル・フランチェスカ大佐、参じました」

「04師団海軍団長ドナルド・バーンズ少将、参じました」

「ん?ジョン君はまだなのかな?」

少し遅れて3人目が現れた。

「04師団環境軍団長ジョン・クラーク中将参じました」

「よし、全員揃ったな。では始めようか。議題は件の特務部隊だ」

アームストロングは手で着席するよう促すと、秘書官から端末を受け取る。

他の面々も己等の秘書官から端末を受け取った。


 各自に配布されている特務部隊の資料は以下の通りである。

 

 1.宇宙革命軍所属の特務部隊で過去に大西洋海上基地「オクタゴン」攻防戦において

   目撃された部隊である。


 2.構成員は確認できただけで5名。詳細は不明。革命軍幹部クラスの人間が居るとの噂。


 3.機動兵器以外にも特殊兵器を複数、操り戦力は測定不能。一個大隊に相当する可能性大。


 4.カナダ領へ侵入してきた目的は依然として不明。


 5.ステルス性の非常に高い艦艇を所持、通常索敵は非常に困難を極める。


 6.認識済みの各機動兵器には「六芒星」のマークが在ることからこの部隊は

  「ヘキサグラム」と呼ばれる部隊の可能性が高く、

   緑色の機体はミッドナイトデビル(深夜の悪魔)特徴、右下腕部が大型クロー、近接格闘型。

   白色の機体はホワイトオーガ(白い悪鬼)特徴、目撃毎に武装が違う、中遠距離支援型。

   赤色の機体はブラッドゴート(血塗りの雄山羊)特徴、運動性が非常に高い、近距離射撃型。

   と、名前と思われる刻印がある。


 資料の表示されている端末を眺めながらアームストロングは口を開く。

「まさか…まさかな、あの海岸線を突破してくるとは想定外だった。今、現在までに

 負ったこちらの被害は兵だけで二桁から三桁になる程だ」

アームストロングは端末を何処かに置くと指を混ぜ合わせた中に顔を沈めながら話しを続ける。

「このままでは我が師団は笑い者だ。既にアフリカ戦線、アジア戦線の大将共に

 「こちらのトップエースを貸そうか?」と罵られる始末だ…この意味が解るかな?」

各軍団長の顔が曇り、しばし沈黙が襲う。

「海軍が前線を突破されたのがそもそもの始まりだろう」

か細い呟きが場の空気を裂いた。

「何を!貴様こそ、基地を数箇所も潰されてるではないか!人のことが言えた義理か!」

ゴードンの呟きを聞き逃さなかったバーンズが堰きを切った様に吠えた。

そこへフランチェスカが割って呟く。

「フンッ、全く…大人気ない」

「フランチェスカ!貴様も一向に敵部隊を捕捉出来ていないだろうが!いったい何を…」

「お前達がそんな調子だから敵の尻尾すら掴めないのと違うのか?」

釘を刺す様にアームストロングが言い放った一言は場を再び沈黙へ誘う。

 

 暫くの沈黙の後、クラークが腕を上に伸ばす

「大将殿」

「ん?ジョン、何か意見でもあるのか?」

「はい、こうしてはどうでしょう。まず、実働部隊として陸軍が最適です。敵は航空兵器を

 所有していないようですし、更にはステルス機。直接の戦闘では空軍は当てに出来ないでしょう。

 海軍も東の沿岸警備から人員は割けられないでしょうから…」

アームストロングはクラークの提案を「ほぅ」といった様子で聞き入っている。

「敵部隊の捜索は我々、環境軍が行います。民間の協力者も多いので軍人だけに

 任せるよりは情報の収集は早いはずです。そして、敵は精鋭の様子、こちら側も

 それなりの者を宛がわなければ討伐殲滅は厳しいでしょう」

腕を組み尊大な態度で聴いていたゴードンが嘲笑混じりに尋ねる。

「ならばどうするというのだ?こちらも奴等専門の特務隊でも結成するのか?」

「そうです。各軍団の腕の立つ者を集めて叩けば今までの様な、敵の損耗率がゼロに近い状態で

 こちらが殲滅壊滅全滅…なんて事にはならないでしょう…ね」

クラークはそう皮肉を混じえて言いつつ、ゴードンとバーンズを見た。

二人はその視線に気づくと目を逸らした。

「さて、私の案以外に案や意見はありますかな?あるなら遠慮なく言って戴きたい」

「ではジョン中将の意見を採択し、空軍、海軍は力量のある兵士を選抜し陸軍と共に特務隊を結成。

 環境軍は民間等と結託し情報収集を行う。各々方、これでよろしいかな?」

一同は「異議なし」と呟く。

「では解散。命令書は追って通達する。以上」

通信が切られゴードンの目の前に表示されていた人物達は消え失せた。

「唯でさえ損失した部隊の再編成で面倒ってのに新部隊の設立だぁ?

 クラーク…あの野郎!俺の仕事を増やしやがって!」

ゴードンは拳に堪ったイラつきを机にぶつけた。



 2087年11月20日 AM 4:00

カナダ領東部 サンダーベイ海軍中継基地


 サンダーベイ海軍中継基地はスペリオル湖の北西部、アメリカ領との領境(旧国境)付近に

建設された中規模の補給基地でありここに集められた物資は貨物船を使い、

スーセントマリー空港やミネアポリスに本部を持つ04師団環境整備軍の近港である

ダルース港へ輸送されている。この基地は戦略拠点でも重要拠点でもない為、

最低限の兵員と兵器のみが配属されている。


「うう、寒い…なんで私が…」

夜霧に紛れて歩く二つの人影があった。リョウは不満気な表情を浮かべながら

ジャーニーの後ろを付かず離れず歩いていく。

「仕方ないッスよ。どう考えても人手が足りないんスから」

そう言いながら少し迷惑そうな目つきでリョウを見返す。二人は連合兵の作業用制服を

身に着けて目的の倉庫へ進んでいた。

「ケティさんのハッキングマップによれば…この次の倉庫ッスね」

ジャーニーが端末を操作するその脇で、リョウは小型の暗視双眼鏡で倉庫付近を見渡す。

「うーん…霧で見難いけど警備兵は…1、2、3、…6人ってところね」

「思ったより多いッスね。こりゃこいつの出番かな」

そう言うと、背負っていたリュックの中からコブシ大の金属の塊を二つ取り出した。


 ダミーマウス

  小型から大型の自律的撹乱兵器。大きさは用途に分けて様々。

  パソコンのマウスに似た形状、主な機能は、熱探知妨害、妨害電波、煙幕等。

  潜入の補佐から集団撹乱etc…etc…

  あなたの破壊工作活動のETERNAL FRIENDS(byKT)


「催眠ガスをまず噴出させて倉庫裏の兵士を眠らせて、その後、マウスの疑似音声で

 他の兵士を呼び、ホログラムと足音を出してマウスを追わせて、その隙に侵入。

 …ホントにうまくいくんスかね、これ」

「なんとかなるわよ。きっと!」

リョウは根拠の無い自信を見せると強めにジャーニーの背中を叩いた。

「あ…ジョージさんも兄貴も準備出来たみたいッスね。いつでも行けるッス」

「よし、作戦開始!」



 サンダーベイ海軍中継基地

第08倉庫付近


「さすがに…この時間は眠いな…」

油断するとふと寝てしまいそうな眠気を我慢しつつ、倉庫の屋根付近で

何もない闇を見ながら夜警に就いている。もうすぐ夜も明けこの霧も晴れて、

いつも通り警備を交代して、今日は休暇だ。ゆっくりと眠れる。そんな事を考えながら

ズリ落ちてきた銃を背負い直すと「ドサッ」っと人が倒れるような音を耳にした。

何事かと兵士が足元をライトで照らし覗き込むが霧が濃く光が反射してよく見えない。

「ん?ん~?」

どうやら誰かが地面に伏せてる様だ。始めは誰かがあまりの眠気に転けたのかと思ったが

どうも様子がおかしい。寝ている奴のが起き上がる素振りを見せない。

「おい!どうした?」

声を掛けるが反応が微塵も感じられない。

埒が明かないと、様子を見るために階段を下りると…

何かの機影の様な物が目の前を横切った。

「!?誰だ!」

倒れている兵士そっちの気で機影に向けて銃口を指す。

霧と倉庫のライトの逆光ではっきりと映らない機影は

こちらに語りかけてきた。

「敵だ!敵軍のMSが一機侵入してきた。東に向かったようだ。

妨害電波で通信機が使えないんだ悪いがその足で応援を呼んできてくれ!」

兵士はそれを聞くと、すぐさま応援を呼びに宿舎へ走ろうとする。

「俺は行かなくては、すまないが君。頼んだぞ」

「分かりました。御武運を!」

兵士からの返事を聞くと機影は音を立てて消えていった。

ひたすら走る兵士。一分くらい走っただろうか。

霧もあまり無く見通しが利く場所でふと立ち止まる。

「変だな」と、辺りを見渡した瞬間、

背後から胸を何かが貫き、兵士は前のめりに崩れ落ちた。

「バイバイセンキュー」



 AM 4:20 08倉庫付近


「TD2より通達。裏に居た兵士全員片付いたそうッス。

近辺の兵士たちも殆ど東側へ向かったッスね」

二人はマウスで周囲の確認を済ませると、急ぎ足で倉庫へ向かった。

途中、眠っている兵士数人を片付けながら。

倉庫内に入るとリョウは備えついてる輸送トラックへ飛びついた。

「ようやく着いたわね。私はエンジンのキーロックを

外すから積み込みはお願いね!」

リョウはそう言うと、取り出したケティお手製のハッキングツールで

ササッとトラックのドアを開け始める。

「了解ッス。そっちが終わったら手伝ってくださいよー」

ジャーニーは作業用のMSを着ながらリョウへ向けて言うと

リョウは親指を立てて差し向けた。



 AM 4:25 第2埠頭近辺


「そろそろか」

ソナーで聞こえる足音が増えてきたのを見計らい深緑の悪魔を起こす。

「あそこだ!居たぞ!第2埠頭のちか…」

兵士が大声で場所を伝えようとしたが悪魔はそれを許さず

素早く右手で刈り取られた。首と命を。

「思ったより敵が少ねぇな。音から察するに…後、

5人と2機か?いくらなんでも少なすぎだなぁ」

そうボヤきつつ、悪魔に見つかっていた兵士達を

3人程、仕留めた所で非常用のサイレンが鳴り響き始めた。

「ケティのハック情報だと10機は稼動可能らしいが

この程度の実力じゃ30分、いや15分も保たないか…な!」

悪魔が呟きと同時に反転しつつ背後へ向けて右腕を突き立てる。

MSは頭を突かれて沈黙した。



 AM 4:35 08倉庫

 

「あとはパスワード解読だけっと」

リョウは車内に乗り込み、手持ちの端末を巧みに操って

トラックを起動直前まで追い込んでいた。

その余裕そうな様子からジャーニーからは些か暇そうに見えたのか…

「終わりそうなら手伝ってくださいよー。こっちはまだ

6割くらいしか進んでないんスよ!」

「分かったわよ、そこの補助機で積み込めば良いのね」

端末を座席に置き、開かれているMSハンガーを覗きに向かう。

ハンガーの中には基本骨格のみのMSが数機置かれていた。

「そうッス。後は、野菜と小麦粉と…コンテナ運搬機で集めて

来るんでそこのヤツ積み込んでおいて下さい。お願いしますよ」

「任せといてー」

手を振ってジャーニーを見送るとMSを着込み積載を始めた。


 数分後、端末がパスワードを解除したことを知らせる音を響かせる。

「ん?終わったわね。ジャーニー君、ここにあるので全部?」

積み込み作業を続けながらジャーニーが答える。

「そうッスね。これで半月はもつと思うッス」

「食料だけにしてはちょっと多くない?」

トラックのコンテナ内部には積み上げ押し込まれた小型コンテナが

所狭しと詰められている。

「マルクさんに頼まれたMS骨格とかMBの予備パーツ

ちょっとした武装や弾薬なんかも混じってますね。隣の倉庫が

それ関連のものばっかりで助かりましたよ。

このコンテナの半分はその辺の物ッスね」

リョウはコンテナの扉を閉じ始める。

「あの倉庫に入り切るかしらこの量?」

「ギリギリ入る量らしいッスよ。量が多かったら

俺の部屋に置くとも言ってましたし」

「あの居住性ゼロに近い場所に?」

「よう、余裕だな二人とも」

仕事道具だけ背中に背負ったジョージが二人の背後から近づいてきた。

それに驚くこともなく、リョウは尋ねる。

「首尾は?」

「上々、周辺の警備兵と脱出ルートの連中は全部始末したはずだ。

後はここでの痕跡を全て吹き飛ばして終わり。だ。ジャーニー、

ちゃんと仕掛けておいたか?」

「もちろんッス。言われたとおりに適量仕掛けました。後、

撹乱に使ったマウスも全機回収済みッス」

「よし、アントに逃げるように連絡して。私達も出るわよ」

「了解」

ジョージは爆弾の設置を確認し終えると表のシャッターを開け、

コンテナの屋根の上に乗り込むと運転席の天井を銃で軽く叩く。

「さぁ艦に戻るわよ!」

リョウはハンドルを握り締め、エンジンを吹かす。

トラックは勢いよく倉庫を飛び出し朝霧の中へ消えていった。


数分後、数カ所の倉庫で爆音が轟いた。




Episode #03「電撃」 完


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Episode #04「森林」

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