94.あれで?!
「はー……笑った、笑った……」
漸く笑いが落ち着いて、七海は笑い過ぎで目尻に滲んだ涙を人差し指で拭った。
「そこ、笑うとこか……?」
そう言いながらも黛は、七海の雰囲気が柔らかい事に安堵していた。
激しく拒絶される事も頭にはあった。
だけど今日、彼女が自分を心配して駆けつけてくれたのだと知って―――胸が熱くなった。自分の気持ちを伝えずにはいられなくなってしまった。
それに七海が自分が真剣に告白すれば、結果はどうあれキチンと受け止めてくれるだろうと言う確信が、黛の中にこの日芽生えたのだ。
もしかしてこの後気まずくなるかもしれない。
それでも。
一縷の望みがあるなら、縋ってみたい。信の告白を断ったと聞いて今言わなきゃ後悔すると、そう思ったのだ。
案の定初手から伝わらず、『頭突き』と言う手痛いしっぺ返しを受ける事となってしまったが―――。
「全く―――分からなかったよ。と言うか『あれで??』って思う。今思い起こしてみても、黛君が私を好きなサインなんて何処にも見当たらないわ」
眉を下げて微笑む七海の顔を、黛はジリジリとした感情を抱えながら見つめた。
「七海―――返事は?」
七海が言葉を飲み込むように黙り込む。
そして数秒―――黛にはひどく長く感じたが―――沈黙した後にゆっくりとした口調で答えた。
「うん」
見つめる黛の目の前で、花が綻ぶように七海は微笑んだ。
「私も―――黛君の事が好き」
次回、最終話となります。
本日18時投稿予定です。




