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93.本当です

「えっと、待って待って……まゆずみ君が―――私を??」


黛は頷いた。七海が激しく動揺しているのを見て、それほど誤解が深かったのかと何故か感心してしまう。どうやら随分長い事、七海は黛が唯を好きなのだと思い込んでいたらしい。確かに黛は自分の中の誤解が解消した事も、七海を好きだと気が付いた事もわざわざ七海には伝えなかったから仕方の無い事ではあるのだろうが、黛は他に相手を作ろうと努力していたし実際短いサイクルではあったが彼女がいた時期もあった。

だから唯の事を黛が一途に思っていると、七海が未だに信じていた事が少し意外だった。

彼女は相当なロマンチストか―――それとも単に思い込みが激しいのかもしれない、と黛は考える。それに最近はかなり無意識に七海に対して思わせぶりな態度を彼は取ってしまった自覚もある。好意を持っていない女を押し倒すような人間だと―――自分が思われている事も驚きだった。


「え?唯は―――?黛君は唯の事が一番好きなんだよね、その……女の人として」

「好きではあるが、一番では無いな。それに鹿島は家族みたいなモンだ。女として好きな訳じゃ無い」

「え?え?でも―――ずっと、小学校から好きだったんでしょう?」

「ああ……それな。高校の時、気が付いた。鹿島は尊敬しているし好きだが、付き合いたいと思っている訳じゃ無い」


流石に黛も『理想の母親』だと言う、唯に対するイメージを公言する事は留めた。

言葉に出すとアブノーマルな雰囲気が漂う気がしたからだ。これ以上七海に敬遠されるのは避けたいと思った。


「え?え?」


七海はキョロキョロと挙動不審に視線を彷徨わせ―――暫く口をパクパクと動かしていた。

黛はそんな様子を目を細めて見ていた。




(コイツ慌てる様子も可愛いな)




などと考えていたが、口に出して七海がどんな反応をするか分からないので、とりあえず黙っていた。

七海はそんな風に観察されているとは露とも考えていないようで、ペットボトルの麦茶をゴクゴクと飲み干してから漸く言葉を発した。




「あの―――本当に?」




黛はコクリと頷いた。




七海はキョロキョロとまた視線を彷徨わせ―――それからまた黛に視線を戻して再度尋ねた。


「えっと―――それはいつから?付き合っていた時からでは無いよね?告白した時、黛君は私の名前さえ知らなかったんだし、別れる時もアッサリしていて―――」

「―――ちゃんと気付いたのは高三の時かな」

「こ、高三……!ええ!うそっ……」


七海は激しく動揺していた。

その目には『信じられない』と言う不信感が灯っているように、黛には思えた。

しかしここまでぶっちゃけてしまえば、何も隠す必要は無いと黛は腹を括った。


「けど、告白された時にはもう好きだったかも」

「は?!」

「一目惚れかな」

「ええーー!」

「そんな驚く事か……?」

「だって、私……『平凡地味子』って言われてるんだよ?!」

「それが何だ……?」


黛は首を捻った。




平凡で地味。

結構では無いか。




「『特殊で派手』より、よっぽど良くないか……?俺はそう言われて周りから責められるぞ」




真顔で呟く黛は、決して七海の気持ちを浮上させようとしてその台詞を選んだ訳では無い。本気でそう思っているのだ。


すると、ブッと七海が噴き出した。

そしてケラケラと笑い始めたのだ。


何故笑っているのかは分からなかったが―――その様子を、黛は何となく温かい気持ちになって目を細め眺めたのだった。



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