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92.誤解を解きます
「やっぱりお前が怒っている意味がよく分からないが―――まず前提がおかしいので、誤解を解くぞ」
「?」
「そもそも俺が一番好きなのは―――お前だ。鹿島じゃない」
「……」
「はぁ?!」
七海は頓狂な声を上げた。
黛から発された低音が鼓膜を震わせて、脳に到達し言葉を形作った後も―――その台詞の意味を飲み込めずに固まっていた。そして、今ようやく台詞の意味自体は理解したのだ。
だけど依然、訳が分からなかった。
「何言ってるの?」
「好きだと言っている」
「誰を?」
「七海」
「ええーー!!」
七海は絶叫してしまい、思わず口を塞いだ。
そう言えばすぐ隣の部屋では黛の父親が疲れた様子で眠っているのだ。
その慌て振りを見て、黛は冷静に言った。
「何を考えているか今のは分かったぞ、俺の親父のいる部屋は防音だから大きい声を出しても聞こえない。だから大丈夫だ」
「あっ……そ……」
もうどう反応して良いのかさえ分からなかった。