表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/97

89.帰らないで

玄関のドアを開けると、真っ暗だった。

まゆずみがヒヤリとしてと後ろを振り返ると、七海が腕を組んで不審な視線を向けていた。


「ちょっ、何だその目は」

「……誰もいないんじゃない」


低い声に黛は慌てた。先ほど『嘘は吐かない』と断言したばかりで、これでは更に怒らせるだけだと彼は焦って弁解した。


「さっき、メールが入っていたんだ。絶対いる……!」

「だって真っ暗……、私帰る」


クルリと踵を返す七海の腕を、黛は思わずガっと掴んで止めた。


「ちょっと待てっっ!きっと、寝てるだけだ。―――いや、待ってくれっ!」


命令口調を懇願に言いかえると、七海の態度が軟化する事に黛は気が付いた。

立ち止まりはしたが振り向く様子の無い彼女に、イチかバチか黛はゆっくりと言葉を選んで再度頼み込んだ。


「スマン、ちょっと待ってくれ。今確認してくるから―――それで本当にいなかったら家に寄らなくていい。送って行くから」


すると七海は少し黙っていたが、やがて諦めたように肩を落として振り向いた。


「わかった、待ってる。お父さんいなかったら帰るからね」

「勿論」


黛はしっかりと頷いて、灯をつけて玄関に七海を残して居間へ向かった。

パチリと蛍光灯を付けると、広いリビングが明るくなる。やはりここにはひと気は無い。更に奥の部屋へ向かい、重量のある思い扉を開けると―――カウチにだらしなく寝転んでいる壮年の男が目に入り、ホッと胸を撫で下ろした。


大きなオーディオセットからガーシュウィンが流れている。きっと疲れて帰って来たのだろう。昂ぶった気持ちを落ち着けるため音楽を聞いていて―――いつものように彼は寝落ちしてしまったのだと黛は推測した。

部屋に常備されているタオルケットを拡げて、疲れた顔をしている父親の体に掛けると、黛はすぐに玄関に取って返し七海を招き入れたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ