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86.遠のきました

「でも、男の人として好きな訳じゃ無い。あんな素敵な人、私には勿体無いくらいで本当に残念なんだけど―――」

「お前―――」


まゆずみが眉間を顰めたまま、深刻な声で呟いた。




「いよいよ結婚が遠のいたな」

「―――余計なお世話!」




七海は思わず笑いながら言った。


以前なら腹が立った台詞だが、今はもう怒る気にもなれない。

本当にその通りだと思ったのだ。あんな破格な申し出―――優しくて大人でお金持ちで、見つめられると眩暈がしてしまうくらい美しい男性で―――結婚したら無二の親友と義姉妹になれる大きな特典も付いているそんなプロポーズを断ったのだ。


当の七海が好きな男は、大好きな親友に実らぬ恋をしていて―――七海の恋が叶う余地なんて無い。

ますます結婚は遠のき、彼氏も出来ずおひとり様街道まっしぐら。


なのに本当に楽しかった。

なにより自分に正直になる事がこんなに気持ちを軽くするなんて、七海は初めて知ったような気がした。胸底にあった、見ないようにしていた恋心や欲求の存在を認めただけで今まで苛立っていた事に何の引っ掛かりも感じなくなってしまった。


一方黛はと言うと、難しい表情を崩さずに拳を口に当てて何かを考え込むように押し黙っている。そんな言葉に詰まる黛を見るのは珍しく―――七海はジロジロと遠慮なくその様子を見守った。


しかし暫くして漸く黛が発した言葉を聞いて驚愕する事となる。




「……じゃあ、俺としよう」

「は?」

「俺と結婚しよう。相手がいないなら、俺でもいいんじゃないか?」

「えっ……え?!」




その時タクシーが二子玉川駅に辿り着いた。

混乱する七海を余所に、支払いを済ませた黛がタクシーを降りる。

七海も後に続いたが―――ポカンとその場に立ち尽くし、言葉も無く彼を見上げた。



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