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81.素直になれない人


黛は一瞬固まった。

先ほど黛が加藤に言った事を、七海は完全に無かった事にしていると気付いたのだ。


恥ずかし過ぎる本音を吐露したのに、まるで伝わってない事が分かった。


しかし最初の前提が悪かったと、記憶を呼び覚まし認識を改めた。


いつの間にか、加藤相手に『ずっと友達だったけど、付き合う事になった』のだと偽りを言った事も、恋人同士のように七海を巻き込んで装った事実もすっかり黛の念頭から消え去っていた。きっと七海は黛の言った事を演技の一環だと受け取っているに違いない。黛が以前そう彼女に申し出た時と同じように。


黛は肩を落として溜息を吐いた。




「俺だって何でも思った通りを口にしてきた訳じゃ無い」




そう言うと、呑気にジョッキに口を付けていた七海がキョトン、と上目遣いで黛を見た。

その視線にドキリとして口を噤むと、彼女はジョッキをテーブルに下ろし、動揺したように瞳を揺らした。




「え、それって―――やっぱり加藤さんが好きだって事……?!」

「―――何でそーなる!」




思わず即座に突っ込みを入れてしまった。

すると七海は胸に手を当てて安堵の息を吐いた。

ホッとしたように笑顔になるのを目にし、黛の心も幾分浮上し掛けたが、




「そうだよね、黛君はずっと唯が一番だもんね。良かった、吃驚した―――」




と言う七海の台詞に、ガツンと落とされる。

加藤に靡かなかった事を喜んでくれたのかと勘違いしそうになった自分を改めて残念に思った。

しかしその台詞には黛が気付いていなかったもう一つの事実が含まれていた。

落ち込むと同時に、やっと黛は気が付いたのだった。

―――七海がいまだに重大な勘違いをしたままなのだと言う事を。


「お前、まだそんな事―――」

「お待たせしました!」


黛が否定しかけた時、店員が綺麗に盛り合わせられた皿を運んで来た。

テーブルの上に配膳された皿を見ながら、気を取り直して黛は再び口を開く。


「あのな、それはもう―――」


言葉を続けようとして、七海が上げた歓声に遮られた。


「わっ!美味しそう~!見て見て黛君、お肉がこんなに大量に……!そしてお野菜がピカピカ眩しいんですけど!」

「そうだな……」

「ほら!食べよ!……お腹空いてるでしょう??」

「うん……」


確かに黛もかなり空腹だった。


嬉しそうに笑顔を向ける七海を目にすると、何だか力が抜けてしまう。

気の重い話は食べ終わってからでも良いか―――と、黛は諦めて差し出された箸を受け取って肩を落としたのだった。



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