79.演技上手?
七海は衝撃を受けて、言葉を失った。
(え、演技が上手すぎる―――!!てゆーか、ソコまでリアリティ必要?!)
以前から思っていたが、黛は冗談みたいに器用だ。
ちょっとコツを掴めば、何でも上手にこなしてしまう……ように七海には見えていた。地道な努力をするしかない一般人の七海は―――非常に羨ましく思っていた。
それがまさか、このようなリアルな演技力まで身に着けてしまうとは。
彼とは何だかんだと長い付き合いだが―――そんな所までハイスペックだとは思っていなかった……と七海は慄いていた。と言うか正直引いた。
(黛がそこまでするって事はよっぽど加藤さんって面倒臭い人なのかな?こんなに綺麗なのに残念過ぎる……)
何だか何処かで聞いた話だ―――と七海は思った。
かろうじて驚きを口に出さなかったものの更に深い同情を籠めてしまった七海の視線に、目ざとく加藤が反応した。
キッと七海を一睨みしてから、黛に視線を戻す。
「黛―――似合わないわよ。いつもクールな貴方にそんな顔」
「―――顔?」
黛はクルリと七海に顔を向けた。
「なんか変か?」
「えっと―――ううん……いつも通り」
もう既に黛の顔色は普通に戻っていた。
七海は何と言って良いか分からず、とりあえず首を振った。
すると黛は真面目な顔で、不満げに言った。
「お前は俺の『顔だけ』は好きだからな」
「なっ……ばっ馬鹿な事、言わないでよっ……!」
何を言い出すのかと、七海は蒼くなった。事実ではあるのだが―――人の口から聞くと自分が物凄く悪人のように聞こえて、動揺してしまう。
「お前が言ってた事だろ。ホント、ヒドイよな。俺のガラスのハートはバリバリに傷ついたよ」
「ひ、人前で何てこと言うのよ―――!」
二人の言い合いは傍目にはイチャついているバカップルにしか見えない。
暫く黙ってその様子を静観していた加藤は、やがて胸の下で組んでいた腕を解いて力を抜いた。
「やだやだ、付き合ってられない!もういいわ、帰れば?馬鹿々々しい―――後で『嘘だった』なんて弁解して来ても、黛なんか知らないからね……!」
そう言い放つとクルリと踵を返し、加藤はカツカツと去って行った。
七海と黛はその背中を暫く見送っていたが―――やがて黛はポツリと呟くように言った。
「腹減った。飯くおーぜ」
タイミング良く、グルル~と七海のお腹が返事をしたので、黛はまた腹を抱えて笑い転げたのだった。




