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7.忙しかったから?

ここ一ヵ月ほど会って無かった間の近況報告をお互い済ませると、既にジョッキが空になっていた。

店名を冠した『らくうセット』串八本とで七海が頼んだ『ささみ梅』と『生つくね』も食べきった。


「まだ食べれるよね」

「つーか、足りん」

「じゃあ、あれ行こ。『鶏もも肉のたたき』と『鶏もつ煮込み』」

「七海がいっつも頼むやつな」

「たたきのタレが甘じょっぱくて、美味しいんだよね。鶏もつは自家製ラー油が好きなの」

「『こだわりの卵かけご飯』スープ付きのやつと『鶏レバーのパテ』も。それとグラスワインの赤」

「私もワインにしよっかなー。でも白がいいな」


金曜日だからなのか七海達が席について暫くすると、店内はアッと言う間に満杯になった。

すぐに飲み物が届いて、改めてグラスを合わせて乾杯する。この焼き鳥屋のメインの飲み物はワインなのだ。他に各種梅酒、各地の地酒、焼酎も取りそろえられている。


「ところでさ、忙しいのは分かったけど―――貴重な休みに私なんかと会ってていいの?」

「どういう意味だ?」

「えっと、彼女とか……黛君の連絡待ってるんじゃない?」

「彼女?いないよ」


首を傾げ、黛はクイッと赤ワインを一口飲んだ。


「えっと、そうなんだ。今ちょうどいないって事?いつ別れたの……?」

「二年前かな」

「えっ……に、二年間も……?!」

「なんかおかしいか?」

「全然気が付かなかったっ……てっきり告白されて付き合って振られて―――をまだ繰り返しているのかと。おかしい。来るもの拒まずの黛君が―――やっぱ医大って大変なんだね、もしかしてすごーく忙しかったから?」

「まあ忙しいと言えば忙しかったな。五年生から臨床実習ポリクリが始まったし、最後の半年は卒業試験と国家試験で朝も夜もよくわからん位忙しかった」


いつものように放って置かれた彼女が黛を振ったのだろう、と七海は考えた。

昔から黛は幼馴染の本田や唯を優先して彼女へ時間を割こうとしなかった。そのため彼女に振られてしまうのだ。


彼はかつて七海に告白されてクラスメイトである事にも気付かないまま付き合いをOKした。その後すぐに正気に返って七海は別れを切り出したのだが、あんな平凡女子でも良いなら私だって……!とその後黛に告白する女子が殺到した。


以来黛は来るもの拒まず去るもの追わずで、彼女はすぐにできるのだがいつの間にかその相手が変わっているのが常だった。大学生になっても相変わらずモテまくっていた。その内七海は前の彼女と続いているのか、今はどんな彼女なのかと聞くことも無くなった。


だから二年間も彼女がいなかったなんて、想像すらしていなかった。

七海は白ワインをゴクリと飲み込む。


「でも相変わらず、モテてるんでしょ?告白とかされない?今はほら、お医者様になったからますます価値が上がってるし」

「告白はされるけど、断ってる」

「えっ……!断ってるの?!」


(来る物拒まずの、あの黛君が?!)


動揺して言葉が出ず、七海は思わず白ワインにもう一度口を付けた。


「さっきから、何だ?俺だって断る事もあるぞ。相手は選んでる」

「昔もそんな事言ってたような気がするけど―――選んでいて、『あれ』なんだ……」


それこそ黛の彼女はバラエティに富んでいた。

高校時代も七海のような平凡女子の後は、真面目な委員長、お洒落女子、陸上部のエース、後輩の美少女、少し素行の悪い派手な女子……等々。そして大学時代に入れば更に範囲が広がった。医大の女子学生、ミス○○女子大、モデル……さすがに教員や大学職員は避けていたと思うが……いや、思いたいと七海は想像を打ち消した。


「しかしそれで恨まれないのが、黛君の凄い所だよね」

「そうか?」

「普通は二、三回……いや四、五回は刺されていると思う」


親しく付き合うと、黛が存外親切な性質だと言う事が伝わるからだろうか。

それとも言っても無駄だと諦めてしまうからだろうか。

黛の彼女達は皆後腐れが無かった。おそらく後者だろうと、七海はもつ煮込みの柔らかな歯応えを自家製ラー油の香りと共に味わっていた。


「刺されるような事は何もしてないぞ?まあ、刺されても背中以外だったらもう自分で縫えるからいいけどな」

「いくないから」




心底鈍いな、こいつ。




と七海は呆れた。



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